第10話 おしゃべりは…時と場所を選べ!!
「今日はとてもいいお天気ですね」
イズンの機嫌がすこぶる――良い。
「……」
俺の機嫌は――最悪だ。
昨日は「打ち合わせ」と言って、万が一ドラゴンと出会ってしまった時の話をイズンとした。
これがいけなかった。
この女のテンションを「ハイ」状態にしちまった。
俺が無視しようと――構わず話しかけてくる。
昨日のことで味をしめたようだ――うぜぇ。マジうぜぇ。ガチうぜぇ――。
「どうされました、ユリウス様? 」
問題の「森」へと向かう道で――ずぅーっとイズンはこんな調子だ。
「……少し黙れ……お前」
「そんな……ユリウス様でも緊張されることがっ!? 」
イチイチかんに触るんだよ――てめぇの言い方がっ!!
「……黙れ」
「本当は寂しいくせに……」
うあああああああっ!!
この女ぁぁっ!! ドラゴンに真っ先に食わせてやろうかなぁぁっ!?
「ユリウス様。私には本当のあなたを曝け出していいんですよ。
全て受け止めますから……」
ニコニコニコ――と笑顔のイズン。
もぉ「限界」だ――俺。
もぉぉ――「無我の境地」を極めよう。そうしよう。
俺は――「無」だ。なーんにも喋らない。考えない。
「もうユリウス様ったら……恥ずかしがっちゃって……」
照れるイズンの仕草に――俺の中で何かが「ブチっ」と音を立てて切れた。
「うるせぇぇっ!! もう二度と俺に話しかけるなぁぁっ!! 」
「そんなぁ。酷いですっ!! 」
そして俺の必殺――「無我の境地」は――五秒ともたなかった。
◆◆◆
「ここが? 」
俺にあれだけどやされても――ビクともしないイズン。
疲れきった俺と――この女の前に――街を出てからしばらくして、山道が見えてきた。
「この上だと。登るのメンドくせぇな……疲れる」
この山道を上がったところに開けた草原があり――そこの先に広がる森がその「問題の場所」らしい。
「ユリウス様って、本当のお歳は三十を超えているんじゃないですか?
十七って……無理していませんか? 私の好みは幅広いですから大丈夫ですけど」
「……行くぞ」
無視、無視、無視、無視、無視。
関わらない。もぉぉ、無視。
俺は構わず山道を登り始めた。
「人の話はちゃんと聞かないと……」
呆れた様子で話す――イズン。
貴様以外の全人類の話だったら――今の俺は喜んで聞くだろうよ。
◆◆◆
一人で話し続けるイズンを――片っ端から無視をしつつ。
俺たちが山道を登りきったところに、なるほど「草原」が急に――広がった。
山あいに囲まれて。窪地になった場所が草原になっている。
そしてその先に――その「森」はあった。
なるほどねぇ。これなら「別荘」を建てるには最高の立地と言うわけだ。
とても眺めが良さそうだ――。
「ここは素敵な場所ですねぇぇ!!
私とユリウス様の新居はこんな場所がいいですね」
うっとりと景色を眺めていたイズンが呟いた。
妄想、暴走――大暴走っ!!
もう――誰もこの女に触れてはいけないんだろうなぁ――。
悟りを開きつつ。是非に「悟り」を開きたいっ!! 俺は無言で「森」に向かって歩き出した
「お待ちください、ユリウス様ぁっ!! 」
現実に戻ったイズンが――ようやく先を進む俺に気づき――後を追いかけてきた。
◆◆◆
そして「森」へと入った俺たちだが――。
「別に何もないですね……」
初めてまともな言葉を吐いたな――イズン。
その通り。別に見慣れたそこここの「森」と何ら変わりはしない。
「……とにかく行くぞ……。
いつ「それ」が出てくるかわからないから。警戒してろ」
ずぅーっと警戒してろ。お前は。
そんな願いを込めて――俺はイズンに話しかける。
「はい。任せてください」
「ああ。あてにしてる」
だからずーぅっと警戒してろ。俺を見るな、気にするな。
「頑張ります」とテンションをさらに上げたイズンに、俺は心の中で語りかけた。
俺は――気配を探る。
森の中に俺の「意識」を広げていく――何か敵意を持つ「何か」が居るのかどうか。
「……なっ!? 」
気配を探っていた俺の「感覚」に触れる「何か」が不意に「生まれた」――。
「避けろ、イズンっ!! 」
しかも――イズンの後ろの茂みに。
一瞬放っておこうか迷ったが――それでも本当はよかったんだが――仕方がない。
イズンに叫び、イズンが俺の方へと駆け寄った。
『ギャァァァっ!! 』
その茂みから現れたのは――赤いウロコに覆われた――ドラゴン。
目撃情報とは違うだろうぉっ!?
「……お任せ下さい……ユリウス様」
するとイズンが冷静に――俺に囁いた。
「おい? 」
訝しがる俺に背を向け。イズンは何やら「唱え」始めたのだった――。




