第1話 転生……なのか?
何かある――ってほどの人生でもなかった。
まだ十七年。まだ――やれるっちゃやれる。でも――正直疲れてたからなぁ。
勉強面倒くさいし。学校はかったる。
うちの親とかはもう――「いなくなれ」だね。
「あれダメ」「これは嫌だ」「言う事聞きなさい」っざけんな。
友達――どうでもいいや。あいつら好き勝手なことしか言ってねぇし。
俺の言うことにいちいちツッコミやがって。どうでもいいだろっての。
付き合ってやってんの、こっちだってのにさ。
これでいいのかもしれないな。
生きててもやることねぇから。イラつくことばっかだったし。
こんなもんでしょ。
◆◆◆
「で。お前の言いたいことはこれだけか?」
今の俺。
まぶしいくらいに真っ白い空間。ガチでなんもね。
で――目の前にはおっさん。ってか、「じいちゃん」。
帽子被って――左目――ずっとつぶったまま。右目の――青色の瞳っての?
それで俺をじっと見てる。
ヒゲ…長げぇ。よくここまで生やしたな。めんどくさくねぇのかな?
「まぁ……そう」
「簡単だの」
「まぁね。それ以上ないし」
「で……ここへ来たわけか」
「……ってか、ここはどこ? 」
「天国と地獄の堺……と言っておこうか」
「へぇ。じゃ、じいさんは「神様」か? 」
「よくわかったな」
はい、キタァ!!
確かに俺の命を奪ったのはトラックでしたぁ!!
このまま異世界転生ってか? ネットで読んだ小説のまんまじゃねぇか。
「それがお前の望みならな」
俺――何も言ってねぇし。
「心の声だ。「異世界転生」したいのだろ? 最強の力を持って」
「……出来るの? 」
「出来るさ。
ではお前には、「お前が触り、望んだ「モノ」が最強の武器となり、お前はその武器の最強の使い手になれる力」をやろう。
ただし。これを使うときは、お前のその時点での力の半分を消費する。
そして武器とした「モノ」を「解除」したい時は、お前が望めば元の姿に戻れる。が、消費した力は戻らない。
よいな。考えて使えよ。これは「最強」の力だからな」
「くれる」ってものをもらわな損だな。
「じゃ、もらってやる。ありがとな、じいちゃん」
俺が御礼を言うと、じいさんはにやりと笑って。
「……力を持つということがどんなことか。まぁ……「経験」してこい」
は? なんかすごく嫌味なんだけど?
最後の最後で後味悪いなぁ、あのジジぃ。
そして俺、武原豪樹は、「異世界」に転生することになったわけで。
◆◆◆
「……ユリウス様……ユリウス様っ!! 」
俺はそこで目を覚ました。
なんだ――今の? 誰だ――その――ゴウキとかタケ……なんとかとか?
そして――曖昧な記憶の中で、俺はベッドから上半身を起こした。
隣には――ええと。ああ、そうだ。
昨日、盗賊に襲われていたところを助けた娘――名前は確か……イズンだったな。
「……おはよう、イズン」
「おはようございます、ユリウス様。もう目を覚まされないかと心配いたしました」
「ごめん。ちょっと夢見が悪くてね……」
俺は全身に汗をかいていた。
それをイズンの紫色の瞳が心配そうに見つめている。
「本当に心配はいらない」
「……そうですか……」
まだどこか心配で仕方ないというイズンの頭を俺は優しく撫でた。
「本当に心配はいらないよ」
「……はい……」
まるで妹のように幼く見える。これで十五というのだから驚きだ。
俺は十七だが――二十以上に見られることは――毎度のことだ。
それもいい加減それも飽きたぞ。
老けて見えるって? ――大きなお世話だっ!! って誰と話しているんだ、俺は。
「ユリウス様。今日はどちらへ行かれるのですか? 」
「どちらも……君を屋敷に送り届けなければならないだろう?
ノルダルの街に夕方までには着けるだろうから……」
「……そうですか」
残念そうに呟くイズン。俺に気があるのだろうが――はっきり言って、この子がついてくることは俺にとっては邪魔でしかない。
それに年下は好みじゃない。ましてこんなに幼いんじゃなぁ……。
「さて。朝食を食べたら出かけるぞ」
「……はい」
落ち込んでいる彼女には悪いが――。
俺はそう言ってベッドから体を起こした。
と。言っている間に――俺は小さなため息をついた。
「イズン。扉から離れて……俺の傍においで」
「はい? 」
不思議そうに俺の近くにやってきた彼女の右手を素早く握り、強引に引っ張ると俺の方へと抱き寄せる。
「ユリウス様っ!? 」
イズンが俺の名前を言い終わる前に――俺はテーブルの上にあった皿を右手で握った。
「炎の剣……」
俺が呟くと――右手に握った皿がぼぅと炎を上げ――剣の形へと変化していく。
賊は――五人というところか?
俺は炎の剣を水平に部屋の扉へと切っ先を向けた。