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一日目

はじめまして。作者です。

この小説は完成形が決まりつつも中々書く気力が湧かず、ネタ的にも流行に乗り遅れたなあという理由で結局一話目しか書かれていないという悲しい存在です。


でもよく考えたら流行とは全然関係ない内容だったりこのままお蔵入りはもったいなかったりするんで、一話目だけですけど公開してみます。


ぶっちゃけ第一話だけではどんな話か分からないのですが、それでも続きが読みたいという方が一人でも現れたら続きを書きます。


偶然にもこのページを開いてくださった方はぜひ、この作品が続く価値のあるものかどうか見てやってください。

 VRゲームって、クソゲーだよな!


 そう言って俺が漫画や小説の中のVRMMOの話で盛り上がっている奴らに水を差して、同意を求めるようになったのはいつからだったろう?

 楽しそうに架空のゲームに夢を膨らませている人間を見て、その夢に針を刺して破裂させたい衝動を抱くようになったのは何がきっかけだったのだろう?


 答えは決まりきっている。

 あのクソゲーのプレイングが終了してからだ。



 ―★★★―



 VR技術という言葉を知っているだろうか?

 知っているはずだ。別に説明なんて要らないよな?


 どうせ俺の話を聞く奴なんて「VRMMO」のキーワードに釣られてやってきた奴ばっかりだろ?

 知らない奴は勝手に調べろ。

 「VR」とか「Virtual Reality」とかで検索すれば説明が出てくるから。

 [ヴァーチャル(ネット世界)において創造された空間に人間の五感、もしくはその一部を反映し、現実空間で行うものに近い活動を実現するための技術]

 とかそんな感じの説明が。


 じゃあ前知識はあるってことで話を進めるぞ。


 お前らはきっとVRMMOという言葉に果てしない理想と願望を抱いているだろう。

 夢見がちな乙女のように夢想に耽り、将来なりたい職業にパイロットとか野球選手とか書いちゃうガキみたいに無意味な憧れを抱いていると思う。


 だがな、俺はこう思うんだ。

 あんなもん実際にあったらとてつもなく下らない物だってな。

 はた迷惑で、楽しくもなんともなくて、ただただ苦痛を与えてくる代物だ。

 そのがっかり感と言ったら、リアルで見るドジっ子や携帯ゲームで開発された大作RPGの九作目に勝るとも劣らない。



 ああでも、勘違いしないでほしいのは俺が自分の考えをお前らに押しつける気はないってことだ。

 どうせお前ら人の話を聞く耳なんて持ち合わせていないだろ?


 だから今から俺が話すのはただの体験談。思い出話。

 暇な奴だけ聞いていけ、な?

 

 俺は暇じゃないって奴は帰って仕事するなり勉強するなりしてろ。俺もそんな奴らの気を引く手間をかけるほど暇じゃないから。



 ―★★★―


 話をする前に自己紹介だけしておこう。

 おれの名前は宮森風生みやもりふうせい

 訳あってついこの間までフリーターだった。今は職持ちだからニートよりはマシな人間だと思ってる。

 あ、お前のことじゃないよ?

 まあ性別と名前だけ分かってりゃいいだろ。今関係ねえし。


 そもそも俺がまず言いたいことはだな、いつになったらVR技術は実現するのかってことだよ。

 お前らがよく考えてるような理想のVRMMOを例にしてみたら、途方もない技術だってことがよく分かる。

 まずNPCのAIだろ。それから現実並みに広大なマップ。一つ一つの建造物やオブジェクトに、膨大な種類の魔物・武器防具・スキルやらアビリティやら。

 それら全部合わせると開発スタッフは一体どれだけのプログラムを組み上げればいいんだよ?


 驚きの51200通りで無限のキャラクタークリエイト! の中身が見た目4種×性別2種×種族8種×声20種×職業40種とかいうなんちゃってレベルの「無限大の可能性」じゃないんだ。「もう一つの現実」なんて言葉が使われるほどの世界を作り出そうとしたらマジで無限大の作業が必要になるんだぞ。


 大体AIってなんだよ。

「人間と間違うほどの高度なAIが開発された」とか一文で済ませる奴はいっぺん頭冷やせ。

 いやそう書くしかないのは分かるけど、本気にする奴が出たらどうするんだ。


「そのうちこういうAIも現実になるんだなあ」とか思い始める奴が出てきちゃうだろ。

 ロボットのジレンマだか矛盾だか俺も詳しくないけれど、人間と同じ思考ができるAIは実現不可能だろ。二次元の嫁は永遠に人間にはなれねえよ。つうか実現しても人権生まれるから。一生ゲームの世界で強制労働とかさせられないから。


 まあ、話が逸れたから戻すけど。

 唯一実現できそうなのって、CG技術だよな。いや他のも不可能ってほどじゃないだろうけど、少なくとも一人の人間が生きている間には完成しねえよ。家庭用ゲームなのに開発期間の単位が世紀になっちまうよ。


 で、一番現実味があるのがCG。今現在でもかなりリアルなCGが存在するからな。俺はあんまり見ねえけど、ハリウッド映画の最新技術使ったCGとかもうほとんど違和感ないんだろ?

 だからCGだけなら近い将来にも十分に発展すると思うさ。


 いや、近い将来というかぶっちゃけて言うともう完成した例があるんだよ。

 CGだけは理想のVRに追いついたなって感じのゲームが一本、この世には存在する。

 CGだけ。それ以外は無価値どころか有害。

 それが俺がついこの間までプレイしていたクソゲーの実態である。



 ―★★★―



 今年の3月、俺はリストラを受けた。

 正確には就職の決まっていた企業に内定を取り消された。不況の波って奴だ。

 浪人も留年もせず順調に4年制大学を卒業して、今年23歳。20年以上生きてきて初めて大きくつまずいてしまったという感じだ。


 アルバイトを除けば実務経験なし、タイミング的に少なくとも俺の知る範囲ではどこも新規の募集はしていない。

 もうちょっと前の何とかショックの時なら国から何かしらの補助があったような気もするけど、俺の内定取り消しはそんなのに関係なく本当にたまたまだ。


 ということで新しい就職先は見つからない。

 そもそも俺は大して出世願望もないから就活もそれほど熱心じゃなかったせいで、コネもノウハウもない。それなりに安定した生活ができさえすればいいって思ってたんだ。

 だから内定取り消しされた場合の対処法なんて知ってるはずもなく、今すぐどうこうできるわけでもないのでしばらくはフリーターで食いぶちを稼ぐことにした。


 ただまあ、どうするべきか分からないからこそ対処法を調べるためにも余計就活に時間を割かなくてはいけないので、短時間で稼げるバイトを探していた。

 誰かに相談するにしろ、一から就職先を探し直すにしろ時間はあったほうがいいだろ?

 そこで思いついたのがテスターのバイトだよ。


 テスターって知ってるか?

 こっちはVRと違ってあんまり馴染みのない言葉かもな。特に働いたことのない奴には。


 治験なら聞いたことあるか? テスターじゃなくてモニターって呼ぶこともあるな。

 治験なら新しい治療方法や新薬の実験台になったりする。それ以外なら食品サンプルの試食とか、化粧品の試用とか、飲食店や本屋の覆面調査とか。アンケートに答えたり情報サイトに口コミを投稿するなんてものもある。


 で、どっちかというとテスターといえばゲームのテスターを指すことが多い。

 ほとんどはデバッグという開発中のゲームのバグを見つけ出す作業のことで、ひたすら単調作業を繰り返す上に時給も安い。


 でもどういうわけか、俺が見つけたのは超高額のゲームテスター募集広告。

 その内容はこうだ。


「ゲームテスター、募集!

 性別:男性限定

 年齢:20代が好ましい

 給金:時給5200円。交通費は別途支給。

 労働時間:1日6~8時間。1週間~長期の方歓迎。

 雇用条件:泊まり込みOKの方のみ。労働時間以外は自由時間、外出可です。

 労働内容:弊社が開発中のゲームを指示に従ってテストプレイしていただきます。精神面に若干の危険性あり。詳しくは連絡先まで。


 応募連絡先:★★★―★★★―★★★★ もしくは E-mail:Black_Star★email.jp まで」


 時給5200円!? 高! 治験並みに高いんじゃないか?

 1日6時間、1週間だけだとしても最低20万は稼げる。泊まり込みと危険性っていうのを考慮に入れてこの金額なんだろうか。

 精神面ってことはグロ系か? それとも男性限定だから、まさかエロ系? 両方か?

 年齢指定は体力が必要ということだろうか。それなりにきついからそれに見合った時給がこれということだろうか。


 いやでも雇用条件はばっちりだし、自由時間で就活もできるかもしれないし、今の俺にはぴったりじゃね?




 あの時の俺はそんなことを考えていた。

 治験のバイトはちょっと体への影響が怖い、という理由で少し怪しいながらも結局このバイトに応募してしまった。

 なんだかんだ言ってもゲームだし、大事に至るってことはないだろって。


 何もかも見当違いだった。



 ―★★★―



「先日お電話させていただいた宮森です。本日はよろしくお願いします」

「はい、こちらこそ。面接では簡単な適性を見るだけですから、あまり硬くならず楽にしてください。」


 今日俺は、都内某所のビルでこの間見つけたゲームテスターの採用面接を受けていた。

 あ、「宮森って誰だ」と一瞬でも思った奴。人の名前を覚えられない人間は社会人に出たらやっていけないぜ? 既に社会人の奴は人としてどうなの?


 今俺の目の前にいるのは開発部責任者の長田さんという人だ。

 縁無レンズの眼鏡にすこしだらしない着こなしだが長身にスーツが映える。普通の企業なら不真面目な印象だがゲーム会社の開発部の中にいると逆に小奇麗な感じもする。


 受かったらすぐにでも仕事に入るとのことなので、採用されるか分からないのに今日は泊まり込みに必要な荷物も持参している。

 少し被雇用側に配慮がないとも思えたが時給も高いのでスルー。

 

 フロア一層を丸ごと使ったそこそこ大きな企業らしいが、そこは畑の違いか、俺が大学時代の就活で面接を受けた一般的な企業とは違って随分とフランクな対応だった。

 会社は刻世こくせいというRPGで小ヒット作をいくつか出している中堅どころのゲームメーカー。会社名もそのままだ。

 ゲーマーかたまたまソフトをプレイした人間なら知っているという程度の知名度だ。


 実際に社内や社員を見た感想は、全体的に大ざっぱな印象だ。

 よく言えば親しげ、悪く言えばぞんざいな対応で、そもそも責任者が面接やっているあたりこの会社のアバウトさがにじみ出ている。

 開発スタッフと思われる人達は長田さん以上にだらしなく、着たきりなのが分かるYシャツの人や、私服の人も混ざっている。

 オフィスもだいぶゴミゴミとしていて、紙の束か機器のコードかの違いはあるがどこぞの編集部のように物でごった返していた。


 面接場所も応接室というわけでなく長田さんのデスクの隣に椅子を持ってきて座っている。

 というか企業秘密もあるだろうにこんなに開けっ広げに見せていいのだろうか。


「面接は質問形式で行います。質問の答えで適性を見て、その場で結果をお知らせいたします」

「あ、はい。分かりました」

「ではいくつか質問をします。はいかいいえで答えてください」


 普通に了承してしまったが正直いい加減な気がする。

 面接って二択の質問だけで済むものなんだろうか。長田さん思いっきりメモ見てるし。


「では一つ目の質問。ゲームは好きですか?」

「はい」


 これは当然イエス。


「RPGのジャンルはよくやりますか?」

「はい」

「ネットゲーム、その中でもMMORPGをプレイしたことはありますか?」

「はい」


 続く質問もイエス。


「ネット小説を読んだことはありますか?」

「はい」

「その中でもVRMMOや異世界転生というジャンルを読んだことはありますか」

「は、はい」


 少し変な質問だったが答えはイエスなのでそう答える。


「厨二病や黒歴史という言葉を知っていますか?」

「……はい」

「あなたにも厨二病や黒歴史として思い当たる経験はありますか?」

「………………はい」


 たぶんそういうテーマのゲームなだけだ。雲行きが怪しくなってきたなどという事実はない。


「その経験を私どもに教えていただけますか?」

「待てやコラ! 絶対関係ない質問だろうが!」


 思わず素になっちまったじゃねえか!


「その経験を私どもに教えていただけますか?」

「だから関係ない質問はやめろ!」

「その経験を私どもに教えていただけますか?」

「まさかの無限ループ!?」


 ゲーム会社ならではだー。リアルでこの冗談が聞けるなんてうーれしー。クソが!


「厨二病を患っていたのは14歳の時ですか?」

「うるせえよ! みんながみんなその年で発症すると思うなよ!」

「つい最近まで患っていましたか?」

「患ってねえよ! とっくの昔に治療したよ!」

「再発の恐れはありますか?」

「てめえ本当にその質問メモに書いてあるのか? 見せやがれ!」

「私からこのメモを奪うのですか?」

「あくまで二択で押し通すのか!? 奪うよ! はいだよはい!」

「あなたは我慢強い方ですか?」

「さっきまではそう思ってたけど自信なくなってきたよ!」

「同じ厨二病の人間がいたら優しく接してあげられますか?」

「はい! イエス! 今はかつてないほどそうしたい気分だよ!」


 やべーよ今の俺。全く自制がきいてない。

 面接中にキレて面接官に食って掛かるってぜってー長田さん俺のこと落とすわー。もう誰だってそーする。俺もそーする。


「お疲れさまでした。これにて面接は終了です」


 ながたのしぼうせんこく! みやもりはふさいようになった!

 冗談言ってる場合じゃねえ! なんか今さらここに受かりたい気持ちも残ってないけどこのままじゃ本当に――


「宮森君採用です。ちょっと契約書とか誓約書を取ってくるので待っててください」


 そう、本当に採用に…………は?


「俺、採用ですか?」

「採用です」

「面接中に怒りだして、長田さんに殴りかかる勢いだったのに?」

「採用です」

「俺が言うのもなんですが、普通は不採用じゃないですか?」


 当然の疑問だと思うのだが、長田さんはやれやれといったふうに早口でしゃべり始める。


「いいですか。宮森君にやってもらうゲームは人によっては非常にストレスを溜めこみます。ですが採用条件とストレスを溜めこむ条件に共通する部分もあります。そのためなるべくストレスを溜めこまずにプレイできる人間を絞り出すのが先ほどの質問です」

「は、はあ」

「加えてこれから宮森君は私たちの仕事仲間となるわけです。スタッフもこのゲームに関しては大半が泊まり込みで開発に取り組みますからまさに一心同体です。そんな中宮森君一人が他人行儀ではストレスも溜まる一方。というわけで先ほどのような態度はむしろプラスと言えるでしょう」

「そ、そうですか」


 一度にまくしたてられたので理解するのに時間がかかったが、要は俺に適性があることを結果的にだが証明したと、そういうことだろう。

 うん、もうそういうことで納得しとこう。


 半ばむりやりに自分を納得させてみると採用されたという実感がわいてきた。

 考えてみればこれで高収入が確保されたわけだし、当初の予定どおりだから良いことなんじゃ?

 そう思うとだんだん嬉しさがこみ上げてきた。


「じゃあ、詳しい説明もあるんでまずは契約書と誓約書に印鑑を押してください。印鑑持ってますよね?」

「あ、はい。あります」


 長田さんに促されたので慌てて荷物から印鑑を取りだす。

 嬉しさもあいまって思わず鞄をまさぐる手の動きも速まった。

 そして俺は行動を早まった。


「それじゃまずはこっちですね。はい、ここに押していただくだけで結構です」


 朱肉に印鑑を押しつけ、差し出された紙の捺印欄にしっかり判を押す。


「はいどうも。それじゃ次はこっちに」


 続けてもう一枚の紙にも同じように押印。


「お疲れ様。それじゃあ説明に入ろうか」

「あ、ちょっと待ってください。この契約書と誓約書読んでいいですか」


 長田さんがどんどん段取りを進めるのでつい押印したが、やっぱりちゃんと読んどくべきだろうと思ったのだ。

 もう押してしまったから遅いのだが、気になったといえば気になったし。


「まあまあ。後で自由時間の時にでも読めますから。今は勤務時間ってことでまずは説明させてください」

「あ、そうですね。すみません。大事なお話の邪魔しちゃって」

「ええ。大事なことですからね、大事なこと。ふふふ……」



 ―★★★―



 今思えば、いやあの時も十分怪しかったが、とんとん拍子に面接→採用と進めて勢いで契約まで持っていくという、詐欺の常套手段みたいな手口である。

 俺を怒らせて興奮させ、冷静な判断力を奪った長田さんの手並みも見事だった。


 面接に行く前は警戒していたのにそれがいつの間にか解けていたんだ。

 その時点で俺に危険を回避する未来は残されていなかった。ゲームオーバーだ。肝心のゲームをプレイしてなかったのに。


 あの時の俺に逆タイムカプセル、過去の俺へのメッセージ。

 俺がお前に言いたいことは一言。


 バーカ。



風生君は毒舌家の気がありますが、第一話ではまだゲームが登場していないので毒が読者に向けられています。


もし続きを書くことになったらこれからの彼は基本ツッコミ役でありつつ、自分のプレイするゲームに毒を吐くと思われます。

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