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I to sb.

Sun shower

作者: kanoon

「馬鹿か、お前」


言葉の強さの割に、優しい表情。

俺はうなだれた。



[幸せをすぐ傍で感じる]



寂しいから、携帯をいじる。

こんな俺に付き合ってくれる女は沢山居た。ギブアンドテイク、ってやつ。

ただ遊んでるだけで良かった。たまに、それ以上なこともしたりして。

だけど今日に限って皆「ごめん」って返事だった。


「うぜー」


手を伸ばして机の上のチョコをとって口に入れた。

一番後ろの席で、前や外を見てみる。もう全員教室には居なくて。外からは部活中の声が聞こえてきた。

オレンジの眩しい光が教室を照らす。

端から見たら凄く寂しいヤツ。そんなこと思って、事実寂しいヤツだと理解したら溜め息が出た。

幼なじみも、友達も、先輩も後輩も。同性も異性も、皆捕まらない。返事すらない人も居た。


「俺って独りぼっちじゃん」


声に出してしまえば、余計そう思えてきた。

眠ってしまおうか、なんて考えて机に突っ伏す。だけど授業中なら10秒で寝れるのに、今は冴えてしまって。


「あれ、どしたの?」


急に聞こえた高い声に、俺は驚いて顔を上げた。

結構鉄壁として男子では有名な彼女。でも一緒に騒いでくれるし、友達としてはかなり良いヤツ。なんか掴めないけど。

メアド知ってる、一斉送信に入れたよな、と思い出す。


「おい、メール送ったんだけど」

「あ、ホントだ」


スマホを取り出して、画面を見ながらクスクスと笑う。

ゆっくり近づく彼女の笑みが、何故か鼻についた。


「私が相手してやろうか」

「何で上から目線なわけ」


背の少し高めな彼女と、お世辞にも高いとは言えないくらいの俺。10㎝も無い身長差が、俺のプライドを傷付けた。

普段じゃ気にしないことが全部イライラする。誰も捕まらないことがそんなにショックだったのかよ、と心の中で笑う。

彼女の態度とは反対な華奢な肩を掴む。後ろのロッカーに押し付けた。一瞬息を飲んで、痛そうな表情を浮かべる。だけど本当に一瞬。

そんな女の子のか弱さの欠片もない彼女を泣かせたくなった。


「ムカつくんだけど」

「は?」


眉を顰める。

いつも温厚で、怒るのも注意レベルな彼女の、本当に苛ついたような顔。少しだけ優越感。

だけど目の色がすぐ変わって。光を拒絶するような、冷たい視線になる。夕陽は、彼女の色素の薄い茶色い瞳を透かした。

ぐっと肩の手に力を込めて抑えつける。下手に抵抗するわけでもなくて、睨むわけでもなくて。読めない目だけが抵抗を示した。

その目を見ていられなくて、反らしてから深く口付ける。その時初めて体が強張って、彼女はささやかな抵抗をした。

俺はやめなかった。そういえば隣のクラスの子に無理矢理キスしたときは突き飛ばされたっけ、なんて思い出す。相手が誘いに乗ってきたのに。

女子らしさの見えない彼女の反応に、色々冷めてしまって。つまらなくなって唇を離す。彼女は少し乱暴に口を拭った。


「気が済んだ?」


棘を含んだ、冷たい声。


「女っぽくねえな」

「悪かったな」


ただ整いきれてない乱れた息は少し色っぽくて、面食らってしまった。

ふふっ、と笑って表情を緩めた彼女は、俺に近寄ってきた。そしておもむろに頭を撫で始めた。

そんな行動に毒気を抜かれて、力が抜ける。


「犬みたいだね」

「なっ……!じゃあ今のキスは何とも思ってねーのかよ」

「犬のべろちゅー」

「ふざけんなってーもう」

「嘘うそ」


彼女の顔を見たら優しく笑っていて。一気に罪悪感が押し寄せてばつが悪くなった。だから小さな声で「ごめん」と謝った。


「馬鹿か、お前」


うなだれた俺を、優しく抱き締めてくれた。変な意味のあるものじゃなくて、お母さんの包容、みたいな。

それでポンポンと背中を叩かれて、何か少しずつ満たされた気がした。思わず俺は彼女の背に腕を回した。


「寂しいならさ、私が相手してあげるから。あんまり考えすぎない方がいいよ?」


体を離して肩を掴まれて、顔を覗きこまれる。そしてそう言って笑った。

俺はポツリと自白するように呟いた。


「ずっと好きだった人が、彼氏作って。ずっと仲が良くて兄妹みたいに過ごしてきたんだ。それなのに俺から離れてっちゃって」

「うん」

「お前は、俺から離れていくの……?」


急にしょげた声の俺に小さく笑ってから、彼女は答えた。


「絶対とは言えないよね」

「だろ?」

「でも出来るだけ優先してあげる。いつでも甘えていいよ。あんたが私を必要とするならね」

「じゃあ一緒に居て」


突然、雨の音がした。外を見たら、天気雨。

俺は窓に駆け寄った。その後をゆっくり彼女が隣に来る。


「すぐ止むでしょ」

「だな」


彼女の横顔を盗み見た。

穏やかな顔は、紛れもなく女の子らしいものなのに。どうして俺らは気付かなかったんだろう。

でもこれが普段から甘ったるい声の女子だったら、俺は彼女の言葉を信じられなかったと思う。絶対彼女もすぐ俺を捨てるって。

でもそれを感じさせないのが本当の彼女だった。


「そろそろ帰る?多分止むよ?」


ぼーっと考えていたら、彼女がいつもと変わらない顔をしながら俺を見ていた。

俺たちは支度をして教室を出て昇降口に向かう。


「これ、か」

「は?お前なに」


鼻で笑われたけど。少しドライくらいがいい。きっとその方が長く続く。


「んー、いや、これ言ったらお前笑うからいい」

「そんな変なこと考えてたんですかー」


これが幸せ、か。なんて口が裂けても言えない。

靴を履いて、玄関から一歩外に出る。グラウンドからは既に人の姿が消えていた。


「あ、」


彼女の微かに弾んだ声に、指差した方角を見る。

下の方が僅かに空に溶けてるけど、ハッキリした綺麗な虹。


「お、虹じゃん」

「綺麗だねー」


彼女はいそいそとスマホで写真を撮った。

そういうとこ女子らしいな、なんて新たな発見をして。

俺は素早く周りに人がいないか確かめてから、腕を引いて触れるか触れないかくらいのキスをした。


「馬鹿じゃないの」


変わらない飄々とした返事で俺の前を行く。けど俺はにっこり笑った。

だって耳が少し赤い。

隣に走っていって、寄り添う。少し触れた指先は、あったかかった。



きっともう、前のように友達としてじゃれあう関係には戻れない。でもそれは嬉しい発展で、これからは寂しくないから幸せだと思った。

俺はすぐに遊び相手の女子のメアドを消した。もう必要ないから。

それが彼女の計画なんて、俺は知ることもないし、知らなくていいんだ。


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