馬鹿と何とかは高い所がお好き
副題「紐があるだけ多分マシ」
――バンジーがしたい
なんでも、芸人がバンジーに挑戦するTVを見て唐突に思ったらしい。思っただけに留まらず、即座に実行に移すのが亮太の良い所であり悪い所だ。更に言うなら、何故か俺まで巻き込んでくる所も。
俺だって最初は拒んださ。けど、亮太が捨てられた子犬みたいな顔して訴えてくるから……。要するに、それに負けた俺が折れた。惚れた弱みなんだろうから諦めるしかない。
ただその理論でいくと亮太も俺に惚れてるはずだがら、泣く子と末っ子には勝てないってやつの間違いかもしれないな。
やたら見晴らしが良い。地上が遠い。そして、怖い。
俺って高所恐怖症だったのか、知らなかった。単に産まれて初めての高さに恐怖を感じているだけかもしれないが、どっちにしろ怖いことには変わりない。
台の上には手摺りがあるけれど、それだけだ。下を見れば高さが目に付き、上を見れば空が心なしかいつもより近い。特に上を見るとバランス感覚が狂ってふらつくので余計に怖かった。手摺りを持っていないと転んでしまいそうだ。
そんな俺とは対照的に、亮太はとても楽しそうである。下を見ては高いとはしゃぎ、上を見ては空が近いとはしゃいでいる。あ、やっぱ空が近く感じたの気のせいじゃなかったのか。
ひとしきりはしゃぎ回って気が済んだのか、亮太がバンジー用のロープを装着してこちらに向かってくる。ちなみに俺はここに登った時点でさっさと着けてもらった。
「彰、バンジーしよう!」
「ああ、そうだな」
嫌な事は早く済ますに限る。そう思い、亮太に手を引かれるまま台の端に移動した。高さが余計に意識されて恐怖が増す。いや、マジで真剣に怖いんだけど何だよこれ何mあるんだよって地上300mだよバカ野郎。なのにお前は何でそんなに嬉しそうなんだ亮太め本気でイカレてやがる。
先に亮太が飛んで、俺はその次。……の予定なんだが、俺、飛べるのか?
「イヤッホ――――ッ!」
眼下に広がる光景に呆然と立ち竦む俺に気付かぬまま、亮太は歓声すら上げながらあっさり飛び降りていった。今だけはあの能天気さが羨ましくて堪らない。少しは躊躇え。って言うかなんで飛び降りても嬉しそうな声のまんまなんだよ。
半分涙目になってる俺を余所に、亮太は地上に無事降ろされたらしい。マイク使って叫んでる。スピーカーは隣にあるので本来ならうるさくてしょうがないんだろうが、今はそれすら気にならない。
「おーい! 彰も早く飛べよー!」
そんなに叫ばなくても今行くさああ行ってやる、行ってやるとも。
俺の思考回路は今、確実におかしくなってるだろう。緊張のあまり、どこかの線が切れてしまった気がする。主に恐怖を感じる部分。
でもまぁそんな事は関係無い。ここまで来たらもう、飛ぶだけだ。
「――――――――ッ!!」
一瞬とも永遠とも思える浮遊感の後、俺の意識はホワイトアウトした。
次に目を開けた時、亮太が心配そうに顔を覗き込んでいて、ちょっと得したかもと思った俺はそうとう重症なんだろう。
世界一高いバンジースポットは321mだとか……無茶しやがって。