馬鹿もそんなに悪くない
副題「お花畑であははうふふ」
気まずい。もの凄く気まずい。
昨日の今日で、一体どんな顔すればいいんだ。
とか悩んでる俺の横で、亮太は普段通りに普通じゃない事をしている。
亮太は気にしてないらしいが、十七にもなって男が花冠編んでるって十分異常だよな。
しかもやたらと巧いし。と言うか、何で編んでるんだよ?
「なぁ、何で花冠編んでるんだ?」
「ん~? だって、ほら」
とさ、と軽い音がして、完成した花冠が俺の頭の上に載せられた。
……いや、ちょっと待て。
何故俺が被らなきゃいけないんだ?
亮太が被るのもそれはそれでおかしいけど、俺よりはましだろ。
「亮太……」
「彰、すっごく可愛いよ」
脱力する俺に向かって、亮太は満面の笑みを浮かべてくれた。
別に良いけどさ。もう慣れてるし。
「懐かしいな~、覚えてる? 昔こうして彰に花冠編んだの」
「覚えてるよ」
この場所に来て、真っ先に思い浮かんだのがそれだったしな。
「あの時、彰泣きそうになってたから、俺、どうにかしなきゃって思ったんだ」
恥ずかしい話だが、俺は小さい頃亮太の家の庭で迷子になった。
とんでもなく広い庭で一人きりになって、おまけに木が生い茂ってるせいで薄暗くて、生まれて初めて怖いと思った。
「だからいきなり花冠編みだしたのか」
「そう。それで編み終わった花冠彰にあげたら、すっごく綺麗に笑ってくれて……」
心細くて不安でいた俺の前に現れて、いきなり花冠を編みだしたおかしな同級生。
怖いのなんてすっかり吹っ飛んでしまって、気が付いたら笑っていた。
「あの時から、俺、彰のこと好きになってたんだと思う」
亮太はそう言って、いつもとは少しだけ違う笑い方をした。
と言うか、ここでそうくるか。
「返事、聞きたいんだけど。昨日は彰そのまま走っていっちゃったから」
いつもの笑顔に戻った亮太が詰め寄ってくる。
木の幹に凭れていた俺は反応が遅れ、亮太の腕がその逃げ道を絶った。
つか、近い。顔がむやみやたらに近い。
前は気にしてなかったのに、今はやたらと意識してしまう。
こいつが、その……あんな事、するからだ。
「彰、何か顔赤くない?」
「気のせいだろ」
「絶対気のせいなんかじゃないって。熱でも出た?」
亮太の手が額に当てられて、思わず目を瞑る。
「熱は無いみたいだけど」
首を捻っている亮太を余所に、俺は自分の反応に戸惑っていた。
なんだか、今の俺は俺じゃないみたいだ。
心臓が馬鹿みたいにドクドクしてるし、呼吸もなんだかしにくい。
「彰?」
「え?」
「どうかした? ぼーっとしてるけど」
「あ……」
何でもない。そう言おうとしたけど、喉につっかえて、言葉にならなかった。
「本当に、どうしたんだよ? 彰」
いつもと違う俺を心配する亮太の、珍しく困惑した顔。
ちょうどあの時の顔に似ている。
「あぁ、そっか」
「え? 何?」
「……俺も、好きだよ。あの時からずっと、お前の馬鹿に付き合い続けれるくらい」
気が付くと勝手に口角が上がって、笑みの形を取っていた。
そうだ。やっと分かった。
どうしても亮太を嫌いになれなかったのは、確かに一番初めの出会いもあったけど、それ以上に、必死に自分を慰めようと不器用に花冠を編んでくれた、あの時の亮太がいたからだ。
花冠を俺に被せて、不安そうに自分を見つめてきた亮太の思いが嬉しかったから、だから笑ったんだ。
でも俺は鈍感だから、自分の気持ちに気付かなかった。
「あ、あきら? あの、本当に? 俺たち……両想いって、こと?」
「なんでそんなに驚いてるんだよ」
気付いてしまったらもう笑いが止まらない。
どうしてこんな簡単なことが分からなかったのか、自分が不思議で堪らなかった。
「あ、あのさ……キス、していい?」
「何今更聞いてるんだ。昨日はいきなりしてきたのに」
「だってさ、恋人になって初めてのキスになるんだし……」
普段あれだけ突拍子もない事をしてるのに、案外可愛いことを言う。
なんて、思ってしまった俺も大概重症だ。
全く、馬鹿だ馬鹿だと亮太に言っているけど、一番の馬鹿は、やっぱり俺なんだろうな。
亮太の言うところの"恋人としての初めてのキス"をしながら、そんな風に考えた。