青春って難ですか?
副題「夕陽に向かって青い春を叫ぶ」
ザザ…ン……と音を立てながら、波が寄せては返す。
足元の砂を掬ってみれば、それはサラサラと指の間から零れていく。
正面に戻した視界にはどこまでも青い空と、いくつかの白い雲、そして人気の無い海が映っていた。
「なぁ、何でこの時期に海なんだ?」
横で熱心に何かを読んでいる亮太に、今更ながら尋ねてみる。
突然海に行こうと言われ深く考えずに頷いてしまったが、まだ肌寒いこの時期に海に来たって何もすることが無い。
要するに、暇だった。
「ちょっとやりたい事があるんだ」
「ふ~ん。何を?」
どうせ碌でもない事なんだろうなぁ、と思いながら尋ねてみたら、亮太は自分が読んでいた何かを俺に渡した。
「あ? 何だこれ」
カバーの掛かっているそれは、一見しただけでは本らしいと言う事しか解らない。
なので軽く流し読みをしてみたところ、少し古めかしい漫画だった。
これが一体何なのかと思っていると、亮太が横から手を伸ばしてきた。
「ここ」
そう言って亮太が捲ったページには、夕日に向かって叫んでいる集団の絵。
「おぃ、亮太」
まさかこれをやるんじゃないよな? と俺が尋ねるより早く、亮太が口を開いた。
「これがやりたいんだ」
……何で満面の笑みなんだ。
こんなのどんな熱血野郎でも実際にはしないだろう。
それをいたって普通、いや、寧ろ冷めてるだろう俺にやれと?
「……亮太、お前一人でやるってのは駄目なのか」
「え~、それじゃ淋しいだろ」
淋しいとか思う頭があるんなら、まず恥ずかしいと思ってくれ。
心の底から思ったが、言っても通じないだろう事は経験から分かっている。
なので、さらに聞いてみた。
「何でやりたいんだ?」
「だって、『青春~』って感じするだろ?」
それを聞いて思わず俺は天を仰いだ。
ああ、何だって俺は毎回毎回こんな事で振り回されなきゃいけないんだろう。
こいつと友人やってる俺が悪いのは分かってるけど、だからって友人を止めようとは思えないから困ってるんだ。
「いって~な~。何するんだよ、彰」
「お前が馬鹿な事言ってるからだ」
「馬鹿って何だよ~」
俺に殴られた箇所を押さえながらこっちを向いてる亮太は、訳が解らないと言った顔をしていた。
そんな亮太を見て、俺は溜息を吐く。
悪気が無いのは知ってるんだ。
ただ、思考回路が人とはズレているだけで。
「あのさ、俺はやりたくないんだ。横には立ってやるから、一人で叫んどけ」
溜息を吐きながらそう言うと、亮太は渋々と言った様子で妥協した。
波打ち際に歩いていく亮太の後に付いて、止まった所で隣りに並ぶ。
深呼吸を繰り返す亮太の横で海を眺めていて、ふと気が付いた。
叫ぶのはいいとして、こいつ、何て言うつもりなんだ?
「なぁ、亮太」
何を叫ぶんだ? と続いた言葉は、丁度重なった叫び声に掻き消されてしまった。
「彰が大好きだ~~~~~~~~!!!!」
「あ、もちろん友達としてじゃなくね?」
振り返った亮太が、にっこり笑って言った。
そして俺が唖然としていると、焦点が合わないほど近くに亮太の顔が迫って来て……。
何があったかは、聞かないでくれ。