風紀委員の子猫ちゃんは狼さんに食べられる
朝から生徒玄関に立って、みんなの服装をチェックする。とはいってもみんなちゃんとしているから、基本的には挨拶して終わりって感じなんですけど。
「おっ子猫ちゃんおはよ♪」
靴を脱ぎながら私に手を振る、隣のクラスの大神さん。
「おはようございます。……その、やっぱりスカートの丈が、み、短いと思うんですが……」
染めた金髪にカラコンの碧眼。それに、12月にもなって太ももの際どいところまで見えるほどに織り込まれたスカート。
風紀委員になったからには──ともう2ヶ月は言い続けてるのに、まったく変えてくれそうな気配はない。
「子猫ちゃんは今日も真面目だね〜。あ、そうだチョコいる? 貰ったんだけどあたし苦手でさ」
「えっあっ、、いただきます……じゃなくて! 校則なんですから、ちゃんと守ってください」
「浅女の生徒らしい服装、だっけ? い〜じゃん少しくらいさ。他の風紀委員の子たちは見逃してくれるよ〜?」
確かに先輩や同級生の風紀委員の方たちが大神さんを注意しているところって、見たことないんですよね。
でも、それはきっと大神さんが全然聞いてくれないからで。ヘンな噂もありましたけど、そんなはずは……
「ならさ、子猫ちゃんがあたしのスカート直してよ」
逃げる暇もなく、あやしげな笑みを浮かべる顔が近寄ってきた。
冷たい空気を押しのけた生暖かい吐息が、耳たぶを優しく撫でて、背筋をゾワゾワ逆立たせる。
「えあっ、私が大神さんのを……っ!」
ハッとして、すこし距離をとる。
——大きな胸。ハリのある太もも。大神さんの華奢な腰まわりを、ゴクリって喉を鳴らしてみてしまった。
「タハハッ、なに顔真っ赤にしてんの! も〜子猫ちゃん可愛すぎじゃん」
「お、大神しゃっ、また私を揶揄いましたね!」
彼女はお腹を抱えて、金髪を振り乱して笑っていた。つくづく本当に意地悪な人だ。
なのに──
「でもね、真衣乃が嫌じゃないならシてもいいんだよ?」
無駄に整った顔が寄ってくる。寒いのか、薄く紅潮した頬。急に聖母みたいな優しい表情——彼女がたまに見せる“ズルい”顔——で、見つめてきた。
「……しませんからっ! 直す気がないなら早く教室に行ってください!」
「ちぇ〜フられちゃったか〜。んじゃ、気が向いたら教えてね」
ぽんぽんって、私の頭を軽く叩いてから歩いていく。後ろ姿を見ていると、彼女のまわりには自然と人が寄ってきていた。
というか、あれ? 大神さん、私の名前覚えてたんだ──普段はもっぱら“子猫ちゃん”呼びだから、知らないものだと思ってた。
あんまり得意じゃない人。校則を守らない悪い人。私の常識の外にいる人。
大神美空さん。彼女の名前を心の中で呼んでみると、心がくすぐったい。いないのに心を乱してくるなんて──
本当に、嵐みたいな人だ。
「あれ、若槻ちゃんどうしたの?」
お昼休みの風紀委員会室には、だいたい2年生の玉野先輩がいらっしゃる。
ノートからこっちに顔を上げて、垂れた黒髪をすっと耳にかける。お姉さんって感じがして、私の憧れの先輩だ。
「ええと、なかなか注意を聞いてくれない人がいて。その、玉野先輩ならどうすればいいか教えてくださると思って」
「ふふっ、若槻ちゃんは真面目ね。ならその子の特徴を教えてくれるかしら」
先輩は言いながらパイプ椅子を引き出し、私も促されるままに横へ座った。
「髪を金に染めてて、カラコンしてて、あと、スカートがすっっっごく短いんですっ! 注意しても私を揶揄ってきますし──」
「……あのさ若槻ちゃん。その子、大神さんじゃない?」
「そうです! 先輩、どうしたらいいですか?」
話が早くて助かる。……というか、大神さんのことは先輩たちも知ってたんだ。
玉野先輩は私から目を逸らして、持っていたペンに目を落とした。
「そのね若槻ちゃん。あんまりあの子とは近づきすぎない方がいいかもよ。ヘンな噂、知ってるでしょ?」
気まずそうな先輩。
噂って、大神さんが“女の子をとっかえひっかえしている”ってやつですよね? 確かにハレンチですけど。
「でも、風紀委員として見過ごせません!」
「……若槻ちゃんは本当に真面目だね。じゃあね、大神さんとふたりきりには、絶対になっちゃダメだよ」
真剣な眼差しで、でも少しためらいがちに先輩は私の手を握った。
しっとりとした手のひらは、明らかに緊張している。
「ぜったいに……いい?」
「わ、わかりました、頑張ってみます」
それからしばらく玉野先輩とお話しして、風紀委員会室を出た。
先輩は終始私を心配してくださっていたけど、なにが心配なのかは教えてくれなかった。
なんかこうけむに巻くみたいな? 「とにかくダメ」とか「なんででもダメ」とか。
ちゃんと言ってくれた方が、私としては気をつけ安いんですけどね。
お昼休みの一番賑やかな時間の廊下はとにかく人が多くて、とにかくいろいろなことが目につく。
「あの、リボンはちゃんと着けてください」
「わっ! 真衣にゃちゃん今日は見逃して〜」
「だ、ダメです。校則は守ってくださいっ」
「ちぇ〜! 真衣にゃちゃんに言われたら仕方ないか〜」
笑いながらリボンを着ける子を見ながら、私も腕章を正してみる。この腕章をつけていると、自分も律しなければと身が引き締まるのだ。
皆さんにばいばいしてから、歩きだす。
にしても……皆さんは私のこと、子猫っぽいからと“真衣にゃ”なんて呼ぶんですよね。身長が低い(だいたい150cmな)ことは認めますけど、子猫は言い過ぎですよね?
くらべて大神さんは背が高いですし、羨ましい──って! なんでこんな時まで大神さんが出てくるんですか!
「あれ、子猫ちゃん呼んだ?」
「よんでません!! って、おおかみしゃっ──」
包み込んでくる、さっぱりとした柑橘系の香り。私の情けない叫び声は、口を塞いだ大きくて温かい手に吸い込まれてしまった。
そのまま廊下のポケットみたいな、教室と教室の間のちょっとした物置きに連れ込まれる。
「あぶないあぶない。子猫ちゃんの悲鳴なんて響いたら、あたしが捕まっちゃうから」
「ご、ごめんなさい……? あれ私、悪くないですよね」
「ま〜〜〜どっちのせいとかないじゃん? それよりさ、コレ。渡してなかった」
手渡されたのは私の好きなホワイトチョコ。前に聞かれて少し話したことはありましたけど、まさか覚えていて……いや、それはないですよね。
受け取ったら、なんだか顔がぽかぽかしてくる。
ありがとうございますって言いたいのに、ただ見つめ合ってしまう。
「……それでさ、子猫ちゃんにお願いがあるんだけど」
頭を下げて、わざわざ覗き込んできた。瞳の薄い青色の輝きは、実家で眺めていた青空みたいに綺麗で──
「も、もので買収しようとしたってそうはいきませんっ!」
咄嗟に目を逸らす。注意するときはちゃんと顔を見ないといけないのに、視線を上げられない。
拳を握り込んで、震える声を張り上げた。
「だいたい、大神さんはいっつもそうですっ! 私の注意は聞いてくれませんし、いっっっつもからかってきますし、それに──」
「真衣乃」
聞いたことのないような真剣な声。両手で優しく頬を包まれて、グイッと上を向かされる。
「真衣乃はあたしのこと、嫌い?」
なんで、そんな顔して──
「……嫌いじゃ、ないと思います」
甘い顔だった。でもそれは、いつもの私の反応を楽しむ表情じゃなくて、たまに見せる聖母みたいな顔で。
「そっか。じゃあ、もうちょっとだけ困らせてもいいってこと?」
「?! そ、そんなわけっ」
急にいい顔が寄ってくる。大神さん、こんなにまつ毛長かったんだ──
お互いの唇がくっつく。たった一瞬のことだったのに、顔から火が吹き出そうなくらいに熱い。
「な……な、なにしてっ」
「あれ、子猫ちゃんには刺激的だったかな?」
目の前には、頬を薄く染めてクスクスと笑う大神さん。それからすぐに、廊下の向こうへと走り去ってしまった。
私はホワイトチョコを握ったまま、その後ろ姿をただ眺めることしかできない。
まさか私のことまでたぶらかすつもりなんじゃ……いや、大神さんならお友達とでもキスするのかもしれませんし。いやいや、キスは好きな人とすることで。ならやっぱり——
そうして私は、まだ柔らかさと香りが残る唇を指でなぞりながら、しばらく突っ立っていた。
***
最近の私は、ちょっと変だ。
初めて女性同士の恋愛を描いた小説を買った。ブックカバーをしないと表紙がちょっぴり刺激的で読めないけど、その背徳感がページをめくる指を進ませる。
──空き教室で、主人公とヒロインが抱きしめ合う。恥ずかしそうに笑って、ふたりは溶けるみたいに熱い口づけを──
「子猫ちゃん、何読んでるの?」
「ひゃい?!」
肩にずしりとした感触が降って来る。パッチリとした青い瞳と筋の通った高い鼻。違うクラスの大神さんがなんで──と停止している間に、私の手から小説が離れていった。
「へぇ? 真衣乃って、こういうの好きなんだ」
「好きってわけじゃ……」
「じゃあ、なんで読んでんの?」
「し、知りませんっ、早く返してくださいっ」
手を伸ばす。でも、背の高い彼女が腕をあげてしまえば、こっちは背伸びして飛び跳ねても届かないわけで。
まわりをぴょんぴょん飛び跳ねていたら、そのまま大神さんに飛び込んでしまった。
柑橘系の香りが濃い。ふかふかしているし、何より温かい。
「ふふっ、今日は大胆じゃん?」
「ちがっ!」
ばっと離れたのに、心臓がうるさい。
顔も熱くて、目を合わせられなかった。
何か言わないと──必死に頭を回転させて、相変わらず着崩した制服に目がいった。
「大神さんっ! 今日の放課後、指導しますからっ……覚悟してくだしゃい!」
教室に、わたしの声が響く。
「いいよ。受けて立ったげる」
優しく微笑んだ大神さんは、それだけ言い残して帰っていった。
コンコンコン
背骨の低いところが、ぞわっとする。どうぞって声をかけたら、大神さんが入ってきた。
「ほ、本当にきたんですね……」
「? 子猫ちゃんとの約束だもん。すっぽかすとかなくない?」
首を傾げると、長い金髪がサラサラと肩から流れる。ちょっとした動作なのに、目が離せない。
私の前に座る大神さん。とりあえず用意しておいた反省文の用紙を渡すと、あからさまに嫌な顔をされた。
「え……”指導”って、こういうことなの? てっきりその、子猫ちゃんが直々に正してくれるんだと思ってたんだけど」
なんでそこでもじもじするんですか?!
「これ以外にありませんっ。早く書いたら、帰っていいので——」
長机を越えるように、ぐぐぐっといい顔が寄ってくる。青い瞳に、引き込まれそうになる。
「あたし、こんなんじゃ反省しないよ?」
「そ、そんなこと言われても……どうしたら、ちゃんと反省してくれますか?」
「だ・か・ら」
制服のリボンを緩めて、胸元をはだけさせた。すぐに顔をそらしたけど、私の目は大神さんの大きな胸に吸い寄せられる。
白くて、ちゃんと谷があって、着けている下着も——
「見すぎだよ?」
「っ、そんなことないです」
立ち上がる。本当に、からかわれてばっかりだ。
顔が熱い。今すぐ風にあたりたい。
「席を外します。おとなしく、書いておいてくださいねっ」
走りだそうとした手を、掴まれた。
「顔真っ赤じゃん。そんなんで外出たら、勘違いされちゃうよ? 真衣乃は、えっちな子なんだって」
「な、なんで私が——」
柑橘の甘酸っぱい香りに包まれる。抱きしめられたんだって気がついてじたばたしたけど、大きくてふわふわな大神さんから、離れられなかった。
胸の中から顔を上げて、抗議の視線を送る。
「てか真衣乃って、ほんと危機感ないよね」
「きき、かん……?」
「あたしの噂、知ってるでしょ」
前髪の影で、大神さんの瞳が昏い。
「知ってますけど。だ、だから何ですか! 大神さんは、大神さんで——」
言い切る前に唇をふさがれた。匂いが濃ゆくなって、くらくらしてくる。
離れるその瞬間、またキスをしてきたつやつやな唇を追いかけてしまった。
「逃げないんだ? このまま子猫ちゃんも食べちゃうけど」
子猫ちゃん”も”って言われて、心にずきりと痛みが走る。やっぱり大神さんは、女の子なら誰にでも手を出す悪い人。私にキスしたのだって、きっと注意してくる風紀委員を減らすためなんですもんね。
でも、そんな悪い人に——
「私は、ぜったいに負けません。大神さんが校則を守ってくれるまで、何回だって指導しますからっ」
余裕たっぷりに見下ろしてくる大神さん。その顔が、赤く色付いた。
「……ああもうほんとっ、どうなっても知んないから」
体を持ち上げられる。風紀委員室になぜかあるソファーへと、優しく寝かされた。それから私に馬乗りしてきて、金色のカーテンで視界を奪いながら顔を近づけてくる。
抵抗しないといけない。わかっているのに、力がはいらなかった。
流される自分が、嫌いだ。風紀委員にだってなりたくてなったわけじゃない。小さくて弱い自分がなさけない。だから、自分を通せる大神さんが羨ましかった。
どうして。悪い人なのに、どうしてこんなに気になるの? 名前を呼ばれてドキドキするの? 初めてのキスまで奪われて、なんで嫌いになれないの——
「真衣乃、泣いてるの?」
「真面目に、なってください」
声を絞り出す。いま気を抜いたら、私はまた流されてしまうから。
「大神さんが悪い人なのがいけないんです。いっつも私の心をぐちゃぐちゃにして、そのくせに自分は女の子をたぶらかして遊んでるから。私だって、大勢の中のひとりでしかないんですもんね」
「それは違う。真衣乃は、特別だよ」
「そんなの、信じられないです。だって大神さんは……悪い人です、から」
「そう、なっちゃうよね。でもね——」
ぼやけた視界の中で、苦虫を嚙み潰したような顔だけが浮き立って見える。
胸が、苦しい。
「あたしは……真衣乃のことが好きだから」
大神さんは、私から顔をそらした。のぞく耳を、真っ赤にそめて。
「いま、なんて——」
「真衣乃が好きって言ってんの! 噂だって、知らないところで大きくなっちゃっただけだし……」
心に刺さっていた棘が、ぽろぽろと抜けていくような感覚。
「……まだ信じられないです。ちゃんと目を見て、いってください」
大神さんは、泣きそうな表情で私を見返してくる。——そんな顔されたら、私が悪い人みたいじゃないですか。
「好き。いつも一生懸命で、私にちゃんとぶつかってきてくれる真衣乃のことが、大好き」
「なんで……ですか?」
「なんでって、その……真面目で、みんなが嫌がることでもちゃんとやってるし、分け隔てなく接してくれるところとか。しかも可愛い。小さいところも、顔にすぐ出ちゃうところも、ぜんぶ、かわい——」
「も、もういいですっ」
顔が爆発しそう。今の大神さんはたじたじで、それでも私にちゃんと向き合ってくれている。
「その、真衣乃は……どうなの?」
向き合わないと、この気持ちに。
「き、嫌いじゃないです。むしろその、どちらかといったら、好き……かもです」
今度は私が視線を外した。すると白い腕が顎に伸びてきて、クイッと戻される。
「あたしばっかじゃ、ハズいんだけど」
ようはどこが好きか言えってことですよね。でも大神さんのどこが好きなのかなんて、私まだよくわかってませんし……なら、せめて。
手を伸ばす。いつもは届かないその真っ白の頬を、包み込む。
引き寄せて、唇を奪った。
いままでのキスよりも大神さんが近い。全身が密着しているし、なによりも、心が満たされている気がする。
大神さんのまつ毛は、かたく交差していた。
えへへっ、可愛い。
なんだか思い返せば、大神さんはちゃんと私を見てくれていたんですよね。気が付けなかったというか、気が付かないようにしていたというか。
いや、大神さんがちゃんとしていれば問題は——でもそれだと、出会えてなかったかもしれないわけですよね。風紀委員としては複雑です。
「ぷあっ……真衣乃、やってくれたね」
「大神さんだって、いままで何回も——ぁんっ」
くちばしでついばむみたいに、私の唇を彼女の薄いそれがはんできた。
もっちりしていて、熱くて、湿っていて——
とんとん、と。閉じた唇をノックしてくるなにか。それから口元をなぞるみたいに動いてきた。
くすぐったさに負けて唇が緩む。そのまま、ぬくもりを感じる分厚い舌先が、口内に押し込まれる。
「っ」
逃げ惑う私を執拗に追いかけて、絡んで、熱を奪うみたいに吸ってきた。
大神さんと溶け合う。身体の境界が、わからなくなってくる。
ふわふわした感覚が、心地いい。
キス、意外と好きなのかも——いや、きっと大神さんとだから安心するんですよね。
「ふふっ、食べちゃった」
「……風紀違反、れす」
「ダメだった?」
「………………ふたりきりならいい、ですよ」
***
冬はコートにマフラーにタイツに……チェック項目がとにかく多くて大変です。
まあ、皆さんしっかりしているので挨拶をしてお仕事はだいたい終わりなんですけど。
「子猫ちゃんおはよ~」
大きなあくびをしながら、大神さんが歩いてきた。
相変わらず短いスカートからは真っ白の足が覗いていて、オーバーサイズのコートにストレートの金髪が良く映えている。
「お、大神さん! 昨日注意しましたよね!」
「ん~、そうだっけ? だって昨日はさ……?」
「ちょっ! 何言おうとして——」
走り寄った私を、甘いみかんの香りが包み込んだ。
「朝からかわいいね。キスしちゃいたい」
見下ろしてきた黒い瞳。カラコンをしている時を青空だとすれば、今は夜空みたい。気を抜いたら、いつまででも見つめ合ってしまいそう。
「み、皆さんに見られますからっ……」
「あたしはいいよ。真衣乃があたしのものだって、みんなに知らせておきたいし」
優しい声だった。そわそわしてしまうのは、きっと嬉しいから。でも——
「まだ……ダメです。私は、風紀委員なので」
「そっか、じゃあ気になるとこ直してよ。ふたりきりのときにさ」
耳たぶに絡みつく熱い息。震える背筋をぎゅぅっと抱きしめられて、それからゆっくりと、大神さんが離れていく。
背中に回そうとした手を、咄嗟にひっこめた。
「も~子猫ちゃん、顔真っ赤じゃん」
いつものように余裕たっぷりに微笑む彼女は、ずるい。
だって私は、こんなにドキドキしているのに。
「み……美空、さん!」
「は、ハイッ」
目を見開く大神さん。そのきらきらと輝く瞳を、じっと見つめる。
「……あとでちゃんと指導しますから。覚悟しておいてくださいねっ」
少し間をおいて楽しみにしてると答えた横顔は、赤く染まっている気がした。
〜fin〜




