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後編

 文化祭の喧噪は夜に溶けていった。

 校舎を包んでいた色とりどりの装飾も、片づけの段ボールに押し込められ、ただの灰色の壁に戻っていく。さっきまでの賑やかさが幻みたいで、僕の胸にはぽっかりと穴が空いたような寂しさがあった。


「……やっと終わったね」

 美咲が隣で笑った。体育館の照明もすでに消え、グラウンドには打ち上げの残り火のように、数人のクラスメイトが談笑しているだけだった。


「おつかれ。勇者さま」

 ふざけた調子で呼ばれて、思わず苦笑する。

「もうそれやめろよ。恥ずかしいって」

「でも、ほんとに勇者だったじゃん。最後のシーン、鳥肌立ったよ」


 その言葉が、胸の奥に深く刻まれる。

 あの舞台で僕が立っていられたのは、彼女が隣にいたからだ。


---


 帰り道。

 校門を出ると、夜風が涼しく吹き抜けた。もう暑さは消えていた。

 提灯の明かりも消えて、静かな住宅街が広がっている。クラスメイトは駅前のファストフード店に流れていったが、僕と美咲は自然と二人きりになった。


「ねえ」

 信号待ちで、美咲が口を開いた。

「文化祭、終わっちゃったけど……なんか寂しいね」

「わかる。

 準備のときは早く終わってほしいって思ってたのに」

 二人して笑う。笑いながら、同じ空虚さを共有しているのを感じた。


 歩き出す。アスファルトに足音が並んで響く。何かを言わなきゃとわかっているのに、言葉が喉で詰まる。


---


 住宅街の角を曲がると、小さな公園があった。ブランコと、古びたベンチ。

「ちょっと休もうか」

 美咲がベンチに腰かける。僕も隣に座った。


 夜空は澄んでいて、星がくっきりと浮かんでいる。

 しばらく沈黙が続いたあと、美咲がぽつりと言った。


「……悠真、ありがとうね」

「え?」

「私、実はすごく緊張してたんだ。魔法使いのセリフ、多くて覚えるの大変だったし。でも、悠真が隣にいたからさ、最後までやり切れたような気がするよ」


 彼女の笑顔は、舞台のライトよりも眩しく見えた。

 胸が高鳴る。今言わなければ、もう一生言えない気がした。


「……俺さ」


 声が震える。けれど、逃げたくなかった。

「俺、美咲のこと……好きなんだ」


 吐き出した瞬間、世界が静止した。心臓の鼓動だけが響いている。


---


 美咲は驚いたように目を瞬かせ、それからゆっくりと笑った。

「やっと言ったね」

「……え?」

「気づいてたよ。ずっと。舞台の練習のときも、目が合うたびに慌てて逸らしてたでしょ?」


 顔が一気に熱くなる。否定する余裕もなかった。

 美咲はそんな僕を見て、くすっと笑うと――


「私も、悠真が好き」


 その言葉は、夜風よりもやさしく心に触れた。


---


 僕は思わず立ち上がり、星空を仰いだ。

 文化祭の幕は降りた。でも、ここから始まる物語がある。

 勇者でも魔法使いでもない、僕と美咲の物語が。


 彼女が立ち上がり、僕の隣に並ぶ。

「ねえ、これからも笑顔満載で行こうね」

「あぁ。君と一緒に」


 夜空の下、二人の笑い声が溶け合った。

 青春の物語は、まだ終わらない。


                    --- 完

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