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第6話 スポンサー

「あぁ~~~~………………」


間の抜けた声を零しながら日向ぼっこを楽しむバトムス。


先日まで未経験ながらも、真面目に練習に取り組んでルチアのダンス相手として踊って踊って踊りまくっていた。


報酬を貰った。大金であった。

それに関しては非常に嬉しいものの、興味がないことを頑張るのは、やはり苦痛であった。


そんな苦痛の時間から解放され、特に何も考えずにのんびりとした時間を過ごしていた。


「やぁ、バトムス。そんなにボーっとしてどうしたんだい」


「……ジョゼフか」


偶々通りかかった人物は、バトムスより一つ年齢が上のジョゼフ。

未来の騎士候補であり、バトムスからアドバイスを受けたことで、それまでよりも明るく前を向いて訓練に取り組む様になった。


「お嬢とのダンス相手期間が終わったから、のんびりだらだらしてるんだよ」


「そ、そうなんだ……やっぱり、バトムスはルチア様の相手をするのは嫌なの?」


アブルシオ辺境伯家に仕える騎士の息子であるジョゼフからすれば、ルチアのダンス練習相手になれることは、光栄の極みに近い。


当然、ジョゼフにとっては光栄の極みだが、他の従者たちと同じく二人が犬猿の仲なのは知っていた。


「嫌に決まってるだろ。当主様に頼まれたから仕方なくって話だ」


今現在、丁度ルチアが子供たちがメインのパーティーに参加している頃だが、バトムスにとってはルチアがうっかり他家の令息に手を出してしまうとも、どうでも良い。


「……やっぱり、バトムスは色々と凄いね」


まだ幼く、語彙力が足りず上手く説明出来ない。

ただ、なんとなくバトムスが凄いということだけは解った。


「さんきゅ。あっ、そろそろ昼だろ。ジョゼフはもう飯食ったか?」


「いや、まだだよ」


「んじゃ、料理長に頼みに行こうぜ!!!」


勢い良く飛び起きると、バトムスはジョゼフの手を引いて厨房へと向かった。


「え、え、え!!!???」


ジョゼフからすれば、何故食堂ではなく厨房? という疑問が止まらない。

しかし、その疑問が解消されることはなく、気付けばあっという間に厨房前に到着。


「ん? バトムスか。もしかして、料理長に用か?」


「はい!!!」


「……とりあえず、お前が来たってことは伝えてやるよ」


昼飯時となれば、食堂で食べる兵士たちの料理を作らなければならない。


料理長レベルとなれば、アブルシオ辺境伯家の血筋を持つ者たちの料理だけに集中すれば良いのだが……バトムスと面識がある……と言うよりも、友人に近い関係である料理長はそういった差を無視して料理を作り続けている。


「何か用か、バトムス」


(デ……デカい、っていうか、太い?)


行っていた作業を終え、十分後に二人の前に現れた料理長……クローゼル・キルチ。


非常に優れた体格を持っており、身長が高いだけではなく、全体的に太い。

それもその筈であり、クロ―ゼルの前職は騎士。


現役時代……その前から料理に興味を持っており、地道に努力を重ね続けた結果、アブルシオ辺境伯家の料理長にまで上り詰めた。


「クローゼルさん。今日の俺たちの昼飯、チーズ入りのハンバーグを作ってください」


「……分かったよ。スポンサー様の意見には答えないとな」


前世の知識を使い、当主であるギデオンと手を組んで大金を得ているバトムス。


しかし、その大金を食べるだけ腐らせることはなく、食事に投資……つぎ込んでいた。

そしてこの世界にはない食事に関して、バトムスはクロ―ゼルの力を借りてなんとか再現してもらっていた。


バトムスはアブルシオ辺境伯家の厨房に様々な調理用のマジックアイテムを購入し、使ってもらっている事もあり……料理人達からすれば、まさにスポンサー的存在。


料理長のクローゼルからしても、自分が考えたこともなかった発想を教えてくれ、更に材料まで買い揃えてくれ、疑問は尽きないものの……発案者と実験者という良い友人といった認識。


「だが、ちゃんと野菜も食うんだぞ」


「あいよ~~」


厨房に戻ったクローゼルは早速チーズインハンバーグと、これまたバトムスの発案で取り寄せ……現在育て中の米を炊き、野菜サラダの調理に取り掛かる。


「へっへっへ。ぜってぇに美味ぇから楽しみに待ってろよ、ジョゼフ」


「う、うん」


チーズは貴族王族だけが食べられる高級品、ではない。

だが、平民からすれば多少背伸びしなければならない食材であるため、日頃から食することは出来ない。


ジョゼフとしても、容易に両親に強請ることは出来ない。


ただ……バトムスは、現在はアブルシオ辺境伯家が治める領地以外の場所で、超優秀なマジックアイテムを使用しながら人を使って多量で購入しいる。

そしてただ他領で購入するだけではなく、少しでも生産力を向上しようと、そういった研究に関しても稼いだ金を投資している。


「やっぱり、実戦じゃ目潰しは有効だと思うぜ」


「……ひ、卑怯とか、考えてられない、ってこと?」


出来上がるまでの間、バトムスは騎士らしからぬ戦い方をジョゼフに教えながら過ごし……約一時間後、二人専用の昼食が出来上がった。


「ほら、食べようぜ」


「う、うん」


チーズインハンバーグから漂ってくる香りにやられながらも、ジョゼフはなんとかナイフとフォークを使って食べやすいサイズに切断。


「っ、っ…………っ!!!!」


未来の騎士候補として、なるべく丁寧な動きで食事しなければならないのだが……幼いジョゼフの食欲は悪魔の誘いを断れず、思いっきりかぶりついた。


「へへっ、美味いっしょ」


「うん、うん!!! 本当に美味しいよ、バトムス!!!」


普段食べている料理が不味いわけではない。

寧ろ十分栄養が足りている食事を食べているが……チーズがインしている……それだけの差であるにもかかわらず、まるで新しい衝撃を受けたかのような感覚に、ジョゼフの手は一気に加速。


当然の事ながら、二人の体はまだ小さい。

二人とも訓練に参加しているとはいえ、子供も子供。

大人の食事量と比べれば、当然量は少ない。


しかし……この日の昼食では、クローゼルが一応用意していた二人のおかわり分のご飯、ハンバーグ、野菜サラダを全て食い尽くした。


「うっ、っ……食べ、過ぎた」


「あっはっはっは!!!!! ちょっと食休憩しないと、あれだな」


腹がぽっこりしてしまうほど昼食を食べ過ぎて動けなくなった二人は、昼の訓練に参加するのが遅れてしまった。

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