第52話 完勝
「いやぁ~~~、バトムス。話は聞いたよ」
「は、はい」
現在、バトムスはギデオンの私室にいた。
個人的に呼び出される様な内容に……思い当たる節がある。
というか、思い当たる節しかなかった。
(や、やっぱり不味かったか?)
なんとか平民だから仕方ないという体を取ったが、それでも形だけ見れば平民が貴族の令息に喧嘩を売ったという構図は変わらない。
どんな罰が下されるのかと冷や汗をダラダラ流すバトムス。
「もう、本当に……あっはっは!!!!!」
「…………?」
急に笑い出すギデオンを見て首を傾げるバトムス。
笑う姿を見たことはあれど、腹を抱えて笑う姿は初めて見た。
「いやぁ~~~、もう……本当に……是非とも、その場で見てみたかったよ。バトムスの一人三役の芝居を」
「あ、あぁ……あれですか」
バトムスは三人に恥をかかせるのが目的であったため、少しバカっぽく見えるような、小物臭がするような演技をした。
当時は勢いに任せ、恥ずかしさなど皆無の状態で行ったが、改めて是非とも見てみたかったと言われると……それはそれで恥ずかしさを感じる。
「……え、えっと。その、怒って……ませんか?」
「? ふふ、何故娘の為に動いてくれたバトムスを怒るんだい。僕としては、彼らを挑発した上でその場でボコボコにしても、あれよこれよと言いくるめて何とかするつもりだったから、寧ろ平和的に……寧ろボコボコするより辛い目に合わせてくれ感謝してるぐらいだよ」
ギデオンも親である。
貴族社会に身を置いていれば、様々な嫌味を言われることはあり、それは面と向かって真意を隠した状態で伝えられることもある。
ただ、既にその世界に何十年と身を置いており、慣れている。
しかし、この先その道に進むのであれば、自身と同じく様々な事を言われ続けるとしても……ルチアがそういった事を言われていると思うと、体裁や貴族の友好関係利害関係など無視し、どういう了見でそんな事ほざいてるんだと問い詰めたくなる。
そんな中、バトムスが貴族の令息とは言えど、カッコ良いのか……それともカッコ悪いのか。
非常に重要な内容を引き出し、バカガキ三人に裁きを下してくれたことを、本当に嬉しく思っていた。
「シャルトもそう思うよね」
「……あまり大きな声では言いませんが、今回の話を聞いた時、本当に上手くやってくれたと褒めたい気持ちで一杯でした」
「そ……そうだったん、ですね」
思いの外、大人達から絶賛されていると知り、少しぐらいは小言を言われるかもと思っていたバトムはどう反応すれば良いのか困ってしまった。
「それにしても、バトムスが何かを行うとすれば、実力行使かなと思ってたんだけど、なんでそっちは選択肢になかったんだい?」
「いや、まあ……俺にも一応常識はあると言いますか」
平民だから知らなかった、解らなかったという言葉をスラスラと語れる時点で、実力行使に出る際も上手く言葉で言いくるめられることは明白。
だからこそ、ギデオンはやるなら挑発からの実力行使だと予想していた。
「あと、こう…………なんと言いますか、令息方や令嬢方……後はアルフォンス様の雰囲気も含めて、何かが違うと感じて」
「あぁ~~~~~、そっか。そうだよな。確かに、バトムスが初めての参加だったことを考えれば、そうなるか……それでも、よく短い間に三人を小バカにする策を思い付いたね」
「あれは咄嗟の行動というか、問題にならない程度に……言い訳にならない程度にあの方々がやってた事がどれだけカッコ悪いのか証明しようと考えたら、真似をするのが一番という考えに至っただけで」
「アルフォンス様も傍に居る事だし、問題無く収まるだろうと」
「は、はい」
結果として王族を利用する形になった。
貴族でもない……ほぼ平民のガキが取る行動としてはいかがなものかと総ツッコみされそうだが、アルフォンスはバトムスのことを友人と認識しているため、アルフォンスの証言でバトムスには何の罪もないという証明に繋がる。
「……ふふ、ふっふっふ、はぁ~~~~~、本当にもう……その場に入れなかったことが本当に悔やまれるよ。ねぇ、シャルト」
「主に令息、令嬢の方々だけのパーティーでしたので、致し方ないかと」
口ではそう言うシャルトだが、主であるギデオンと同じく、是非ともルチアを馬鹿にしたバカガキ三人がピエロになる光景を見てみたかった。
「それでね、バトムス。これは私からの感謝の気持ちだ」
そう告げると、ギデオンは先日ルチアの執事候補として同行する際に約束していた鉱石や魔石などの素材……に加えて、追加の物を取り出した。
「っ!!!!!????? ……ぎ、ギデオン様……この、鉱石は」
「ふふ、直ぐに解ったみたいだね。こっちの鉱石はミスリル鉱石で、こっちは火竜の魔石と骨、爪、牙、血だよ」
「……………………」
追加でテーブルの上に置かれた品々の詳細を聞き、バトムスはあまりの衝撃に意識が飛びそうになった。
どう考えても、良い仕事をしたからと言って、七歳の言葉に与える追加報酬ではない。
「あの…………何故?」
「私が予想していた以上の結果だったからね。バトムスは彼等の行動をカッコ良いかカッコ悪いか……その二択の見え方だけに焦点を絞っただろう」
「そう、ですね」
「陰口を口にする、貴族社会であれば……そういった議論の余地を入れ込むことなく、そこだけに現場にいた者たちの論点を絞った。あまり理解していないかもしれないけど、その時点でバトムスは完勝していたと言っても過言ではないんだ」
「な、なる、ほど?」
何はともあれ、バトムスは無事ミッションコンプリートし、追加報酬まで得られた。
ただ……その追加報酬が実際にバトムスの手によって使われるのは、まだまだ先の話であった。