第46話 考え方を変えれば
(あぁ~~~~~、憂鬱だ~~~~~~~~~)
遂にその日が訪れてしまい、バトムスは馬車で移動中、どんどん憂鬱な気分になっていた。
なんとか思いっきりめんどくさいという気持ちを抑え込んではいるが、やや眉間に皺が寄っていた。
「ふふ。バトムス、眉間に皺が寄っているよ」
「っ、申し訳ありません」
「もっとリラックスするんだ。何も心配する必要はないよ。ね、ルチア」
「……そうですわね」
父の言葉に対し、ルチアはほんの少し楽しみといった表情を浮かべながら答えた。
(確かに、慣れっこって顔してんなぁ…………普段のお嬢は全然尊敬出来ねぇけど、社交界っていういかにもクソめんどくさそうな場所に何度も参加してるところだけは、尊敬出来るな)
もし自分ならと想像した場合、バトムスは何かと理由を付けて欠席しようとする。
バトムスは決してコミュニケーション能力が不足しているわけではない。
前世でも陽の者ではなかったが、人の顔を見て話せないということもなく、今世は前世の記憶を持っているということもあってか、相手が同年代であろうと子供であろうとも普通に話せる。
ただ……明らかに権力が絡んでいる。
子供ながらにそれを意識してるであろう連中とは、基本的に話したくない。
出会いが出会いだったこともあり、バトムスの中でアルフォンスは例外だが、基本的にアブルシオ辺境伯家の子である令息や令嬢意外と関わりたいと思えない。
(アブルシオ辺境伯家の屋敷もデカいと思ってたけど、ここの家の屋敷は更にデカいな)
なんとか……なんとか、田舎者丸出しの顔にならないように堪えるバトムス。
前世では、目の前の屋敷よりも大きい建物を見たことも、入ったこともあるバトムスだが、目の前の屋敷の様な巨大な家は見たことがない。
その豪華絢爛さも相まって、驚くなという方が無理であった。
「さぁ、こっちだよ」
ギデオンとルチアの後に付いて行くバトムス。
(うわぁ~~~~、豪華な服着た連中がくそほどいる)
当然、ギデオンとルチアもパーティーに参加用の礼装、ドレスを身に纏っている。
バトムスも今回の為だけに購入した子供用の執事服を身に付けている。
ただ、そういった者が何人も何人もいる光景を見てしまうと……どこか圧倒されるところがある。
(リラックスしてくれって言われても……無理だっつーの)
なんとか表情は保てているものの、見る者が見れば緊張しているのが解る。
(ん~~~~、やっぱりそこそこ緊張しちゃってるね)
ギデオンは当たり前の様にバトムスが緊張していることに気付いていた。
(バトムスなら、さっきの言葉で理解してくれると思ったんだけどね……初めて訪れる屋敷の中ということもあって、緊張してるのかな)
ギデオンは……偶にバトムスとビジネスの話をする。
そして、ギデオンはバトムスが提案してくれたアイデアのお陰で、非常に懐が潤っている。
一人の従者の子供が、辺境伯家の当主にアイデアを提案し、見事新たな財源を生み出した。
それだけでも驚嘆に値する出来事なのだが、バトムスの場合は現時点で強さも普通ではない。
まだ子供であることに間違いはないが、それでもゴブリン程度のモンスターであれば複数体を同時に相手して倒すことが出来る。
だから凄いだろ!!! と周りがバトムスに伝えたとしても、バトムスからすれば前世で誰かが生み出した商品をパクってるだけであり、転生者だからこそ興味を持ったことには全力で取り組んでいるだけ、と応える。
ギデオンはそれらを聞いたとしても、一つ目はともかく二つ目はやはりバトムスは努力を積み重ねられる者だと褒める。
(バトムス、君は……自分自身が思っているよりも凄い人間なんだよ)
考え方を変えれば、現時点でバトムスと同年代の中には、バトムスよりも優れている人間は一人もいない。
だからこそ、自分が頂点だと考えれば、緊張も和らぐ……と、ギデオンは思っていた。
少々危ない思考ではあるものの、容姿やところどころの部分を除き、バトムスが非常に多くの強味を持っている人物であることは確かであった。
「それじゃあ、私たちは向こうの会場に行くから、二人ともまた後で」
ギデオンは執事であるシャルトと共に、大人達のパーティー会場へと向かう。
「シャキッとしなさいよ」
「えぇ……解ってますよ、お嬢様」
もうここまで来たら、あれこれ考えても仕方ない。
やけくそ気味ではあるが心を決め、子供たち専用のパーティー会場へと足を踏み入れたバトムス。
(うわぁ~~~~~~、どいつもこいつも高そうな服着てんな~~~~)
会場には、ルチアと同じく豪華なドレスや礼服を着ている令息たちが既に数十人以上集まっていた。
そして当然……バトムスと同じく執事服や、メイド服を着ている者も同じ数ほどいる。
(ん? なんか…………あれだな。もしかしなくても、お嬢じゃなくて……俺が見られてる、のか?)
自意識過剰なタイプではないバトムスだが、この時ばかりは疑う余地がないほど、同じく執事服やメイド服を着ている者たちから視線を向けられていた。




