第30話 巣立つのはいつか
「よし、行くか。パーズ」
「ガゥっ!」
マーサルベアのパーズと共に街を出て、森へと向かうバトムス。
当然ながら……まだ、護衛の騎士は同行している。
「……バトムス。本当のところ、パーズと二人だけで行動したいと思ってるか?」
「? いや、別にそんな事思ってませんよ。だって、ジーニスさんが傍に居てくれたら無茶苦茶安心出来るんで」
「そうか……なら良いんだが」
よくバトムスの護衛として同行しているジーニス。
訓練場での訓練でバトムスの模擬戦相手もすることもあるため、バトムスがどれだけ成長しているのかある程度把握している。
(邪魔に思われていないなら、それは良いんだが……これからどんどん体も大きくなる。それを考えると……十。いや、さすがに十歳は……まだ危険があるか。しかし、十二歳にもなれば、俺たちの護衛は必要ないだろうな)
現在、バトムスは七歳だが、FランクやEランクのモンスターであれば、一人で討伐出来る。
相手が複数体となれば楽な戦いではないが、それでも負けることは殆どない。
(それに、パーズもこれから先どんどん大きくなる筈だ……あまり奥に入り過ぎると、それはそれで心配だが、日帰りできるまでの探索範囲であれば、あと数年……五年も経てば、自由に移動出来るだろうな)
先日、バトムスがパーズに模擬戦というものが、どういう戦いなのかを細かく細かく必死で伝え、それから現役騎士の男と模擬戦を行った。
結果、Dランクほどのモンスターであればある程度余裕を持って討伐出来ると判断。
つまり、現時点でバトムスとパーズのタッグは、そこら辺の冒険者よりも高い戦闘力を持っていることになる。
「っ、見つけた。パーズ、あの三体のホーンラビットを狙うぞ」
「ガゥっ!」
二人はホーンラビットの死角から飛び出し、襲撃。
直前で二人の足音に気付き、反応したホーンラビットではあるが、パーズの爪撃を食らった個体はそのまま吹き飛ばされ、木に激突。
見事角が木に突き刺さり、身動きが取れない状況になった。
「っ! ふっ!! はッ!!!」
「グゥアアアアッ!!!!」
(ん~~~~……普通のホーンラビットぐらいじゃ、がっつりとした戦いにはならないみたいだな)
一体のホーンラビットが身動き取れなくなっている間に、二人は残り二体を仕留め……最後の一体に慈悲を与えることなく、首にブスっと刃を突き立てて討伐成功。
(ホーンラビットって、確か冒険者の奴らは、ところどころ新人殺し的なところがあるって言ってたんだけどなぁ……)
ジーニスにその話をした知人の冒険者の話は、決して嘘ではない。
ホーンラビットの額にある円錐型の角は、確かに勢い良く飛んで突き刺さなければ殺傷能力がない。
勢い良く突っ込んで来ようとするタイミングで躱して、カウンターを叩き込めばノーダメージで戦えるのだが……話を聞き、それを寸分狂いなく実行出来るルーキーは多くない。
何度か攻撃を躱し続け、タイミングを把握してからカウンターを叩き込めるようになる者が大半であり……その間に最悪心臓や肺などが貫かれ、あっさり死んでしまうルーキーもいる。
しかし、その様な新人には要注意人物であるモンスターに対し、バトムスは自ら距離を縮めて斬撃を叩き込もうとした。
「そういえばバトムス、結局騎士になるつもりはないらしいけど、それなら冒険者にでもなるのか?」
「それ、ハバト兄さんにも同じ事、訊かれましたね」
討伐したホーンラビットの死体を解体しながら、バトムスはジーニスからの質問に答える。
「今のところ、その予定はありませんよ。俺が冒険者としてデビュー? すれば、まず同世代の人たちと、仲良く出来なさそうなんで」
「なるほど……その可能性をすっかり忘れてたな。ん~~~~…………ほぼほぼ、バトムスに嫉妬した連中に絡まれるだろうな」
「やっぱりそうですよね」
ジーニスは冒険者ではないが、なんとなく何がどういう理由でそういう流れになるのか、ある程度解る。
バトムスが孤高の強者を気取りたい訳でもない事を知っているため、無理にどうせならそっちの道に進んだ方が良いんじゃないかとは言えなかった。
(とはいえ、やはり勿体ないとは思ってしまうけどな)
騎士には当然ならず、冒険者には興味こそあれど、今のところなる予定はない。
その流れからして、傭兵にもならないのは容易に想像出来る。
明らかに平均以上の戦闘力を有しており、将来有望な戦闘者になるのが確定していると言っても過言ではない……そんなバトムスがそういった道に進まないことに対して、どうしてももどかしく思ってしまう騎士たち。
ただ、全員がある程度の理解を持っているため、誰一人無理にバトムスが進む道を軌道修正しようとはしなかった。
しかし、平均以上の戦闘力、将来有望な戦闘者になるのが確定していると言っても過言ではない存在であっても……まだ子供であり、全てを対処出来る訳ではなかった。




