第21話 モテない理由がない
(むっ!!! 見事……としか言えない。あの歳で……あそこまで考えて動ける、とは)
受けの体勢に入ったバトムスは、綺麗にルチアの斬撃を受け流そうとした。
ただ、今日はいつも以上に頭を使って戦っていたルチアは、ギリギリのところで踏ん張った。
このまま前に崩れないように、踏ん張った。
次の瞬間、バトムスは木製の剣を手放し、ルチアの服を掴んだ。
「っ!!!???」
視界がいきなり動いたかと思うと、思いっきり体勢が崩されていた。
「俺がここで止めてなかったら……頭から地面に激突してたよな、お嬢」
「くっ!!!」
素早く横に入り、腕と肩を掴み……脚を掛けて一蹴。
前に倒れないようにと踏ん張っていた力を利用され、ルチアが打開する間も与えず倒した。
「そこまで!!!」
審判を務めていた騎士も、バトムスが手心を加えたことを理解していた。
当たり前と言えば当たり前だが、死に直結する可能性がある衝撃を与える前に止めた。
その時点でバトムスの勝利だと判断した。
「割と頑張ったんじゃねぇの、お嬢」
「っ、うるさいですわ!」
バトムスからの称賛を全く受け取ろうとしない。
ツンデレのツンなのか……と思いきや、ガチのツン。
バトムスの言う通り、普段よりも粘ることが出来た。
それはバトムスだけではなく、普段から二人の戦いを見ている騎士も同じ感想だった。
それでも、ルチアにとって負けは負け。
一泡吹かせることも出来なかったため、相変わらず悔しさがこみ上げてくる。
ただ……アルフォンスの前で負けてしまったとしても、変わらず顔に悔しさは現れるが、涙は流さなかった。
「……ねぇ、さっきのバトムスの動き…………あれは、体技なのかな」
アルフォンスからの質問に、護衛の老騎士は少し考え込んでから頷いた。
「はい。体技の一つと言えるでしょう。ただ、徒手格闘をメインに戦う者であっても、基本的に使おうとはしないかと」
「………………狙うのが難しいから、かな」
「それもありますが、実戦では投げられる間に短剣などで刺されるという可能性が非常に高いのです」
モンスターとの戦闘、人との戦闘ではまず使われることはない攻撃方法。
だからといって、老騎士はバトムスがルチアに仕掛けた攻撃方法を、無駄だとは思わなかった。
(アルフォンス様には危険性が高いと説明したが、投げられた相手が子供であれば……直ぐにその発想に至る可能性はまずないだろう…………バトムス君の場合、その可能性すら考慮していそうな思慮深さを感じる)
老騎士は……拳を握る力を強めた。
バトムスという子供は、アルフォンスが友人と認めた子供。
そんな人物を、大人の思惑で強制的にアブルシオ辺境伯家から引き抜くような真似は許されない。
それでもバトムスという子供が、アルフォンスの側近になってくれたらと、再度思わずにはいられなかった。
「見事な戦いぶりだったよ、二人とも」
「……ありがとう、ございますわ」
「ありがとう……ございます?」
「ふふ、今は普段通りに話してほしい」
「分かったよ」
言われた通り、バトムスは普段通りの口調に戻した。
「それにしても、バトムスはあの動き……受け流し? が得意技なのかい」
「あぁ……どうなんだろうな。個人的には、多少上手く出来てる、ぐらいにしか思ってないんだけど」
バトムスからすれば、ルチアの動きは読みやすい。
大剣という武器を使っていることもあって、同世代の騎士候補たちの攻撃よりも読みやすい。
「そうなんだね……ルチア嬢も、果敢な攻めだった。普通は、あんな技術を持ってる相手に、あそこまで果敢に攻められないよ」
(ん~~~…………これって、あれだよな。モテない理由がないってやつ、だよな?)
前世が中坊であったバトムスは、同世代でモテる奴の武器は顔の良さか、そこそこの顔を持ってる面白い奴、顔はそれなりで運動部に入っててそれなりに活躍してる奴。
といった認識を持っていた。
簡単に言ってしまうと、あまりにもモテに関する知識が浅すぎた。
だが、適当に「ルチア嬢もよく戦えてたよ」と言うのではなく、アルフォンスのどう考えても普通ではない技術を引き合いに出して「ルチア嬢も、果敢な攻めだった。普通は、あんな技術を持ってる相手に、あそこまで果敢に攻められないよ」と褒められると……お世辞ではなく、ルチアも本音で褒められたと感じた。
勿論、王族とはいえまだ七歳であるアルフォンスは、それらを狙って褒めたのではなく、ただただ純粋に思ったことを伝えただけである。
それでも、今回の称賛のしかたは間違いなく、ルチアに対するベストアンサーであった。
「っ、ありがとう、ございますわ。とはいえ、今回も負けてしまったので、まだまだこれからですわ」
(うちのお嬢みたいに、これから何人落されていくのか……いや、既に何十人も撃墜させてるのか?)
アルフォンスに視線を戻し……バトムスは改めて目の前にいる同世代のハイパーイケメンは、正真正銘王子様なのだと認識した。




