第三話 奪われる、そして立ち上がる
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あれから数日後、親父にミカエル様の使者とすれ違った事を伝えた。
「はぁ~、やっぱりか。お前達が出て行ってすぐ使者の方がお見えになったからもしかしたらと思ったけど・・・。ん~どうしたもんか」
親父は頭を抱えた。薬が効いていれば良かったが、あいにくと、あの時薬の効果は切れるギリギリで鋭い者が見ればわかる程度だった。こればっかりは、バレてない事を祈るのみだ。
「しばらく、エヴァを外に出すのは控えよう。もし、ばれた場合『ガルシア家』は、大天使ミカエル様に反逆したとして、関係者全員処刑ということもありえるし」
考えたくはないけれど。
「まっ、そうなるよな。とりあえず、エヴァ、お前は地下の部屋にいろ。あそこは食堂ともつながっているから食事面は問題ない。すまないが、耐えてくれ」
エヴァは、にこっりと微笑んだ。
「承知いたしました。これは、わたくしがミネルヴァ様の魂を持つがゆえ。謝らないで下さい」
エヴァはその後、地下に降りた。
「後はバレていないことを祈るしかない」
親父の言葉にうなずく。バレるな!と。
◇◇◇
しかし、数日後、そんな希望を踏みにじるようにある一通の手紙が届いた。それには、天使の翼の紋章が書かれていた。
それは、バレてしまったことをありありと物語っていた。
『ご機嫌よう、イデワルド。急な手紙を許せ、今回そなたに伝えたい要件は、もうわかっているな。エヴァ・ガルシア、いや・・・ミネルヴァを引き渡せ。そなたは頭の良き男、だからこそ賢明な判断をせよ。本来ならば我に反逆したとして、そなたらは処刑も有りうるのだが、明日の夕刻の鐘までにミネルヴァを引き渡せば、許そう。明日が楽しみでならん、では』
親父が読み終わるのと同時におれは思わず叫んでいた。
「ちくしょう!何で今になってバレるんだ。ミネルヴァを引き渡せ?ちげえ、エヴァだ!!あいつは、ミカエルなんてやつの娘じゃねえ!!」
おれの言葉を聞きながら親父は俯き、エヴァは泣いていた。
「カイ、おれはエヴァを引き渡すつもりなんざ、これっぽっちもねえ」
親父の絞り出したような声が聞こえてはっとする。親父は笑っていた。
「いいだろう?エヴァはもう俺の娘なんだ、簡単に渡すかよ。とことこんぶつかってやる」
親父のその言葉は今までで、一番の父親の背だった。
それからおれたちは準備した。幹部には訳を話し、無理にこれ以上ついて来なくていいと。しかし驚いたのは、幹部の誰一人、その下のやつらまでもが最後までついてくると言った。
「ありがとなてめぇら。最後まで俺について来い」
その言葉はボスという率いる人間の重みだった。
◇◇◇
次の日の夕刻の鐘が鳴った。そして少しすると王国の騎士団達が大軍でやって来た。
「始まるな。・・・腹ぁきめろてめぇぇぇらぁぁぁぁ!!!」
親父のその一言で戦いが始まった。王国の騎士達とおれらで乱戦になっていった、序盤は拳銃などで応戦していたが、だんだんと王国側が《天力》を使い、炎や水を操り、攻撃してきた。おれらは、ミカエルのせいでなすすべなくだった。
決着は、親父と騎士団長が一騎討ちをした。
結果・・・親父は相討ちになった。おれは親父にかけよった。親父は傷だらけで口から血が滴っていた。
「ごめ、んな、負けちまった。エヴァ、を、頼む、な。俺、は、この命の、最後が、俺の子供の、ために、戦、えて、幸せだった。ありがと、う。そ、して、こ、んな、親父で、ごめん、な」
にこっと微笑んでいる親父がどうしても辛くて、顔が歪んでしまった。
「そ、んな、顔、すんじゃね、えよ。ゲホッ、ゲホッ。お前は、学、が、あり、機転が、きく。つ、よく、強く、生き、てくれ」
親父はそう言うと、ゆっくりと、眠るように息を引き取った。
おれは、泣きたくなる気持ちを押し殺した。
「お疲れ様でした、ボス。・・・親父、おやすみ。眠姫の加護が貴方に永遠におつることを」
その後、ミカエルは『ガルシア家』を貴族の席から剥奪するように皇族に働きかけた、エヴァは見つかり、捕まってしまった。あの乱戦で生き残った者は牢獄に入り、数日後、皆処刑された。
おれは、同胞達のおかげで逃げ延びたが、何とかギリギリだった。
そして今、荒れた海が見える断崖絶壁に、おれはたたずんでいる。
「もう無理だ」
バシャン!崖からおれは飛び降りた。・・・あぁ、全て奪われた。救ってくれた、親父や部下達、裏社会のことを教えてくれた幹部の皆は、死んだ。唯一の妹も大天使に奪われた!
許してくれ、親父、皆。むこうで説教聞くからさ。
これで、楽になれる。海の冷たさが今は、とても救いの手だな。
その時、こえがした。沈みゆく中で声が聞こえた。
「おい、人の子。お前、死ぬのか?・・・くくっわははっ!馬鹿じゃねえのか、お前。そんなことで命をすてるのか、まだ何もしてないのになぁ」
うるさい、そんなこと?ふざけるなよ!
「おれは全てを奪われたんだぞ!それを、そんなことだと?いい加減にしろ!」
誰だか知らねぇが、ぶっ飛ば、す。って、なんでおれ喋れるんだ。ここは海の中だぞ?喋るはおろか話なんて出来ない、出来るはずがないのに。
「なっんで。そんなはず」
「おいおい、今更だな」
声をした方を見ると、真っ黒なモヤを纏った10歳くらいの男の子が鎖につながれながらあぐらをかいていた。
お前は、誰だ?おれに話しかけてきたのはお前か?」
「ああ、つうか俺以外いないだろうがよ。それと俺は大天使ミカエルの影、ギベアだ。いわゆる、邪神様だ」
「邪神ね。その邪神様がおれに話しかけてきたのはなぜ?」
ギベアは、怪しげに笑った。
「お前、俺の封印を解いて他の4人の兄弟たちも色んな国に封印されているから解いてくれ。代わりに、俺は死ぬまでお前に付き従い俺の能力を貸す。っていう契約してくれね?」
「・・・はぁ?」
「だから、俺の他にも6人兄弟がいるから!全員の封印を解いてくれってこと!か・わ・り・に、俺の能力を貸してやる。つっても、俺ら邪神の能力ってのは《天力》じゃあねえ。《天力》は大天使ミカエルの魔力と言われているが実際は、天界に住まう者の魔力、俺らの能力・・・《地力》は邪神とかの堕ちた天界に住まった者の力だ。それに、外国のやつは《天力》をうすめた魔力を使っている。まっ、だから狙われたんだけどな」
だめだ、追いつかない。でも、これは絶好のチャンスかもしれない。妹を、エヴァを取り戻すためなら邪神だろうともう、手段なんて選ばない!
「なるほどな。いいぞ、邪神様。契約、受けてやるよ。だが、疑問と頼みがある」
ギベアは満足気な笑みを浮かべた。
「気に入った。いいぞ、聞いてやる。ただし、俺のことはギベアと呼べ。契約を交わせば俺とお前は主従関係だ。主人が様なんてかっこうがつかねえだろ」
「分かった。ギベア、疑問ってのはその《地力》?っていうのはどう貸すんだ?」
「ん?そんなん簡単だ。お前と契約を交わす時に俺の魂の一部がお前に移る。そうするとお前は俺の主導権を握る。そうすりゃあ《地力》が使える。以上。簡単だろ?使い方は・・・見て覚えろ。で、頼みって?」
「ふう・・・俺がこれからすることに一切くちをだすな」
ギベアは鼻で笑った。また、怪しげに。
「いいぜ、お前が何をしようとそれに付き従ってやる」
その言葉を聞いてあと。俺は契約陣を描き、そして俺たちは契約の言葉を言った。
「邪神、ギベアがここに契約を確立せん!」 「カイ・ガルシアがここに契約を確立せん!」
「「以下、この契約破るものは時神クロノプルスの名において幾万の死を受けん!」」
その言葉を言った瞬間、まるで一瞬熱風を浴びたような感覚に入った。そして、ギベアの鎖が砕けちった。
「契約完了だ。改めて、俺は大天使ミカエルの影ギベア。カイ、今から俺はお前の従者だ」
3話目いかがでしょうか?大分話が進んだと思います。これからもできる限り書き続けさせていただきます。
読んで頂き、本当にありがとうございました!!