十一話 ホルデライデでにて、兄弟探し ~宿編~
やっと2桁です!2桁なるまで話が続きましたーー!
「身分証をご提示下さい」
たくさんの荷馬車でやってきたいくつもの国からの貿易を持って来た商隊が列をなして入国許可をもらうため、大門で待っている。次は俺たちの番だ。
「身分証のご提示を。って、これは君主の剣の菊池様ではないですか!またもやようこそ、ホルデライデへ」
「はいよ~。いつもありがとうなぁ~、キーベの門番はん」
どうやら顔見知りみたいなようだ。まーそれはそうだろうな、だって着てる服が君主の剣の制服だし、商会の息子として色々な国を見たこともあるだろうし。でも最近は、君主の剣としての仕事であんまり出て行ってないって言ってたっけ?
「今回は何人でお越しですか?」
「えーと、53人でよろしゅう頼んます」
「かしこまりました」
門番が大門の奥に行ったかと思うと、意外とすぐに帰ってきた。手には53枚のカードを持って。
「こちら、53人分の入国許可証になります。もう知っておられると思いますが、再度お伝えしておきます。こちらの入国許可証は失くされると2000WC(約1万円)の罰金になります。お気をつけ下さい」
ヤンカーは、門番から入国許可証をもらうと軽く手を上げ礼を言った。
「はいよ。ありがとさん」
そうして、俺たちはホルデライデに入る事ができた。大門を抜ければ美しい街並みが広がり、屋台が所せましとひしめき合っていた。
「今晩は、俺らんとこが営業してる宿に泊まります。俺が言うのもあれやけど、結構いいとこなんで、心配せんでいいですよ」
少し移動すると、「リテーラーテ ~高級宿~」と書かれた暖簾の店の前で止まった。
「着きましたよー」
馬籠がゆっくりと開いた。そこには、従業員総出で出迎えをしてくれていた。
「「「いらっしゃいませ!!!ようこそ、リテーラーテへ!!!」」」
従業員総出なのもあって、歓迎されてるはずなのに変な緊張をしてしまった。
「おーおー。さすがやな。でも、いっつもここはサービス精神旺盛でありがたいんやけど、ちょいとやり過ぎ感が消せんのよなー」
やっぱりそうなんだ。
「いえいえ、朗信坊ちゃま。これぞ我々の意思表示にございますれば」
前に進み出てきたのは、70過ぎの低身長でピシッとした姿勢を保ったおじいさんだった。
「よぉ、リテージィ。久しぶりやなー、あっと、水泉はんらは初めてやな。この人は俺の元世話係でこのリテーラーテのオーナー、エメリッヒ・リテーラーテちゅうんや」
「ご紹介にあずかりました。エメリッヒ・リテーラーテと申します。以後お見知りおきを。して朗信坊ちゃま、このお方達は?」
スラっとした、佇まいと申し分ないほど洗礼されたマナー。俺たちは思わずびっくりしてしまった。慌ててギベアが挨拶する。
「おっと、申し遅れましたね。私は朱鷺原水泉と申します。ベゼルガイダークの隣国、二バルトセの小貴族上雲玲家の嫡男、上雲玲菊様の従者をしております」
サクッと俺の新しい紹介もやってくれて、ちょっと設定を即興で作ることがなくて楽になった。
「おぉぉ、貴族様でございましたか!これは、最上級のおもてなしをせねば!!」
(お、おいギベア。な、何か俺ら凄いことになる気しかしねぇんだが・・・)
(ああ、なんかすげぇじいさんなのかもしんねぇな・・・)
リテージィは、手を軽く3回パンパンッと叩いた。すると、3人が前に進み出た。
「菊様、水泉様と郎信坊ちゃま。こちらの3人がここにご滞在なさる間の専属メイドの」
「エメリー・ライシャルです」
「と、専属執事の」
「アレック・エナーセルです」
「アレックの兄で、リック・エナーサルです。よろしくお願いいたします」
リテージィの紹介によって、ここに滞在する間の専属がつくことを知った。
「彼らは、この宿でも特に評判が高い専属5本指の内3人です。専属5本指は、とても高貴な方の接客などを長年務めた者たちです。粗相は絶対にいたしません、ご安心下さい」
すごいな。っていいのか?こんな良い人を当ててもらちゃって・・・
「それでは、お部屋にご案内するのですが、何かお達しはございますか?」
「と言いますと?」
「お客様の中には、部屋に入られるのを拒まれるお客様もおります。その他諸々何かございますか?」
なるほど、確かに部屋に入られるのを拒む人もいるんだろうな。それじゃあ取りあえず。
「では、私たちの部屋は入用の際のみ入っていただきたいのですが、よろしいですね?」
「はい、かしこまりました。分かりましたね」
3人は、律儀に90度の礼をした。
「「「承知いたしました」」」
「では、お客様を部屋へ」
3人が俺たちの荷物を持ってくれたので超楽だった。他の50人は各々別宿に泊まるらしく、今は俺たち3人だけだ。
「こちらへ」
と通された部屋3つは、左から「凪の間」「紅葉の間」「如月の間」の名札が掛かった部屋だった。
「皆様、お好きな部屋へどうぞ」
エメリーに言われ、俺が「凪の間」でギベアが「如月の間」、ヤンカーが「紅葉の間」になった。俺専属のリックがバッグを部屋まで持ってきてくれた。
「では、夕食は午後の7の鐘がなりましたら、ご訪問させて頂きます。それでは、ごゆっくりどうぞ」
「あの」
出ていきそうになっていたリックを呼び止めた。
「お風呂とかってどうなんですか?」
「お風呂は、お部屋の中にもございますし、8階に大浴場と露天風呂、個室魔力サロンがございます。詳しくはお部屋の中の説明書をお読み下さればよろしいかと存じます」
「分かりました。ありがとう」
リックは礼をして、部屋を出た。
「あぁぁぁ!最っ高だーーーー!」
部屋はホルデライデ独特の美しい間取りと家具。そして、窓から見える美しい街並み!祭り!祭り!
「なんて良い所なんだろうか!!」
時計を見ればもうすぐ6の鐘が鳴る。その前にギベアとヤンカー呼んでお風呂に入ろうかな?
すると隣の部屋、「紅葉の間」からヤンカーが扉を開けた音が聞こえた。
「おや?水泉はんも風呂ですか?」
「ええ、ちょいと入っておこうと思いましてね」
「では、一緒にどうです?」
「いいですね。行きましょう」
どうやら2人でお風呂のご様子。いい機会か。俺は、2人の足音が聞こえない所まで待って扉を開けた。
「ほいじゃまっ。ちょっと出かけるか。まずはっ」
俺は《地力》で少し細工を自分の体に施し、ギベアから居場所を悟られず、かつ心を読まれないようにした。ギベアからすれば俺は眠っている事になっているはずだ。それから俺は印を組んだ。教えられていない、印を。
『憤怒 執行印 憎悪』
その瞬間、俺はリテーラーテの宿から消えた。
次に俺が現れた場所は、木々の生い茂る森の中だった。
「ふー、着いた着いた」
俺はしばらく歩き、ある真っ暗な洞窟の前で止まった。
「ここは、封印されし七欠片の1柱、グリードがここにいる」
別に封印を解くわけじゃない。俺は、こいつに隠し契約を施すために来た。
隠し契約は、本人や術者以外は確認することの出来ない契約。大抵は隠し契約をされないために、本能的に防御してしまうから、あまり上手くいかな。でも、今のグリードは封印で眠りの中だ。
「契約をするのに丁度いい」
俺は手を洞窟の方にかざして、契約を詠唱した。
「カイ・ガルシアがここに契約を確立せん。汝グリードを我が配下となせ」
「以下、この契約破りたる時は時神クロノプルスの名において、幾万の死を受けん!」
契約を詠唱し終えると、ギベアと契約した時のような感覚に一瞬入った。
「そんでもって」
『憤怒 執行印 妬み人形』
印を組み、現れたのは人の容姿を持つ人形10体だ。人形だとわかる理由としては、縫い目がいくつか見えるからだと思う。
「妬み人形たち、ここで目隠しの結界を張り続けろ。そして、破られた時は応戦。ただし、その時俺が近くにいても応戦しろ。決してこのことは言うなよ」
妬み人形たちは、俺の支持を聞いて目隠しの結界を張り始めた。
「そろそろ帰るか。・・・ギベア、許してくれ。俺はもう手段なんて選んでいられないんだ」
洞窟はホルデライデの領土内、城下町から3キロほど離れた場所にあったが、そこからでも城下町は輝いていた。
どうもー!金木犀 稜ですー。
いかがでしょうか?
今回は、やっと着いたホルデライデでの兄弟探し・・・っと行っているギベアたちに反してカイは何やら裏で動いているもよう・・・あ、怪しい!
さあさあ!そんな闇あり谷あり宿ありのお話はしばらく続きます。どうぞお付き合い下さいませ♪
最後に、次回予告じみたことでも。
次回はギベアとカイに亀裂が⁉へっ、ヤンカーの奥さんってこの人だったのーー!
って感じです!それでは、次の話でお会いしましょう!




