第九話 カイと暴走
この前、感想をいただいて最高にうれしかったです。
ぜひ何でもいいので感想をいただきたいです!
「こちらの宿で少し休まれてから、後で俺が迎えに上がりますんで」
ヤンカーはそれだけ言うと、宿から出ていった。通された部屋は、ベッドがついた、この国独特の和風と言われる雰囲気が香る部屋だった。入った瞬間に目を見開き、フリーズしてしまうほど豪華で、後で請求されるんじゃないかと一瞬冷汗が出るほどの部屋だった。
「ギベア、ここ本当にタダか?」
「タダ、のはずだが・・・怖いな」
「ああ」
あのヤンカーの事なので、元主もこんなんである。
「さて、取りあえず姿を一旦戻すぞ、その姿中は、魔力を吸い取られ続けるからな」
ああ、だから昨日気絶するみたいにすぐ寝たのか、魔力を取られていたのに《地力》で能力を使ったんだから、そりゃあそうなるわ。
「まぁそういう事だ。俺は慣れてるから多少能力を使ってもピンピンしてるが、お前は、な」
やっぱ、腹立つな!ギベアのやろぉ
「どうでもいいから、取りあえず解いてくれ」
「はいよ」
被っていた魔力が消えて、爽快感に包まれた。
「よし、姿も元に戻したことだし。んじゃ、ここの服に着替えてフロントに行って、貸し切り風呂の鍵をもらいに行くぞ」
貸し切り風呂、抜かりないなぁヤンカー。
「ああ、キークは本当に支えてくれてたよ」
先に着替えて、部屋の扉に向かう後ろ姿様に言ったが、俺は聞こえていなかった。ただ、少し見るとやっぱりヤンカーの・・・元従者達の話になるとこんな感じだ。
俺もちゃっちゃと着替えて、先に行ったギベアを追っていった。ギベアは、もうフロントで鍵を貰ったらしく、階段で2階に降りると、鍵を持って立ちつくしていた。ここの高級宿は、4階で構成されていて、俺たちの部屋は3階のスイートで4階がお風呂とかだ。
「遅いぞ、ギィ」
なるほど、普段のラフな感じでも部屋の外だと兄弟設定を使うわけだ。
「すいません。というか、兄さんが速いだけです」
「まあいい、四階まではエレベールで上がるぞ」
「はーい」
へぇ、この宿にはエレベールがあるのか。エレベールは、人が10人ほど入れるくらいの空間に、転移陣を掘り、各階の同様の場所に人・物などを飛ばすというもの、建設に金がかかることなどから、ほとんど一般の所では作られない。
そういえば、ガルシア邸だとエレベールを応用して、横棟の移動に使ってたっけ?
「乗れ」
エレベールに乗り込み、内側にある壁に、手を当てる、すると体内にある魔力を活用し、4階に移動した。
「ついたぞ、ここの『皐月』って書いてるとこだ」
見ると、数か所扉があり、『楓』・『桔梗』・『牡丹』などと、ベゼルガイダークにしか咲かない花の名が書かれた扉があった。
「あった、ここだ」
「ええ、皐月と書いてあるので、ここで間違いないようです」
入ると鍵を閉め、服を脱いでお風呂を満喫した。久方ぶりのお風呂は最高だった。
「いいお湯でしたね」
「ああ、良かったなぁ、あれは」
そう喋りながらフロントに行き、鍵を返した。そのタイミングで、ヤンカーが迎えに来た。
「どないでした?ここんとこの風呂はお気に召しましたやろか」
「ああ、いい湯をありがとう」
「そうですか。それは良かったですわ。んじゃ、ベゼルガイダークをご案内いたします。外の馬籠にお乗りください」
1階に降りると、外に、馬車のような物を待たせていた。
「すんませんが、こっから結界を張らさせていただきます。ご容赦ください」
「やはり君主の剣となると、ある種の名士のような存在ですから人だかりができてしまうのでは?」
俺が言うと、ヤンカーが頭を掻きながら照れくさそうな演技をして言った。
「ええ、まあそうなんです。だから、いつもは周りから隠れるために、ある限られた人にのみ俺に見える結界を張って過ごしています。道行く人には、ただの平々凡々な人に見えておるんです」
それだけ言って、馬籠に乗り込み、こっちに手招きしてくれたので、俺たちも乗り込んだ。
「お邪魔します。っで、これからどこに連れて行ってもらえるのですか?」
「そうですねぇー。「楼善幸」っちゅう老舗の和菓子屋に行こう思てます、今はちょうど三つ鐘がなりましたし。もう予約しとりますよ」
「楽しみだな、ギィ」
「はい!甘味は好きです」
エヴァが好きだったな、ベゼルガイダークの華宝っていう和菓子がおいしいと1つ分けてくれたっけ、とても綺麗だったな。
「それは良かったですわ。ついでに華陽お嬢も呼んでありますよ」
(いっとくが、キークは表面上「お嬢」って呼んでるけど、立場はキークの方が上だぞ)
(えっ、そうなのか!)
とか言っていたら馬籠が止まった。いつの間にか、外は人通りの少ない裏路地のようだった。
「着いたのですか?」
「いいえ、もっと先のはずなんやが・・・してやられましたわ」
ひきつった笑みを見せながら言ったが、にしては余裕があった。
外に生物・・・人間の気配がする、8、いや13かな。どうしたもんか、3・4人、強い魔力を持っているな。まぁ、それだけだけどな?
「いったん僕がやってきます。待っておいて下さい」
「いえ、俺が行きますよ」
乗り出そうとする菊池の姿をしたヤンカーが答えた、いつの間にか紅白の袴をまとっている。
「菊池様、ギィに行かせて下さい」
「せやけど」
諭すギベアと、諦めないヤンカー。その時、ギベアがヤンカーに耳打ちした。何と言ったかは分からないが、ヤンカーが一瞬苦しそうな目をしたがすぐに戻り言った。
「わかりました。ガレックはんの言う通りにしますわ」
「ありがとうございます」
俺はそれだけ言って、馬籠の扉を開けて飛び上がってすぐ印を組んだ。
『炎 執行印 焔球華』
華のような焔が、面前の敵を焼いていく。まるで華が人を喰らうように。
「おいっ!どうなってやがる!話がちがうじゃねえかよ!貴族の娘をさらうんじゃなかったんじゃねえのかよ!!」
なるほどね。掴みかかってくる敵を格闘技で払い落とす。
「こいつ強ぇえぞ⁉」
「厳密に言えばおめぇらがよえーだけだぞ?」
「なにを言いやがる!おい!あいつらを連れて来い!」
リーダー格の男が、下っ端のやつに命令した。あいつら・・・どいつが来るんだ?楽しみだなぁ
ん?楽しみ?何を思ってるんだ、俺・・・・・・。そうこうしてると、奥から人影が現れた。身構えて、何の印を結ぶか頭をフル回転させた時だった。
奥からやって来たのは、信じられないモノだった。
「おい・・・どうして、子供がいるんだ」
奥から連れて来られたのは、俺たち兄妹が拾われた時と同じくらいの年の子が2人だった。兄妹に見えた。
後ろから、ギベアとヤンカーが嘆く声が聞える。
「ふんっ、こいつらはガキだが顔だちもいいし、《天力》が使える希少なガキだ。本当は貴族のやつに売る前に使いたくはなかったが、しょうがない」
「何を、言っている。子供は、お前らの道具じゃないぞ!!」
「はっ、知るかよ!やれ、ガキども」
兄妹が俺に手を突き出している。
許せなかった。俺はその瞬間、とんでもない憎悪がうごめいたかと思うと、意識が落ちた。あるのは、意識が落ちる寸前、ギベアが「カイ!」と叫んだ声だけだった。
◇◇◇
次、目が覚めると、そこはあの宿の部屋だった。
「起きたか。しばらくは安静にしてろ」
ギベアが腕をくんでこっちを見ている。無表情なのに、どこか寂しそうな、後悔しているような表情に見えた。
「ギベア、俺はいったい・・・?」
「お前は、暴走を起こして、手が付けられなくなっていたんだ」
「あっ」
そうだ、あの時俺はあいつらが憎くて憎くてしょうがなかった。それでーー
「あの後、俺とキークでお前を何とか止めた。キークに至っては、元の姿に戻って《天力》の力を使っていた。俺も使わざるおえなかった。これは俺の監督不行き届きだった。すまなかった」
「いい、俺が全て、悪かっ、た、か、ら・・・・・・」
◇◇◇
「寝ましたか?」
いつの間にキークがいた。カイが寝たのを計らってきた・・・というかさっきから薄く、記憶を曖昧にさせ眠らせる「誘夢香」焚いていたからだろうが。
「ああ、まさかこいつがこんな力を持っていたとはな」
「ええ、驚きです。この力はもはや七欠片の皆様にも匹敵します」
「そうだな、少しこいつについて調べてくれ。頼んだ、キーク」
キークは跪き、ただ一言「承知いたしました」と言って出て行った。
俺はカイの横に座り言った。
「俺がお前を憎ませないようにしてやるから」
そして、今日は終わった。
いかがでしょうか?
観光要素は次回に見送りになってしまいましが、戦闘シーンを入れてみたのですが、カイが暴走してしまって、すぐ終わってしまいました(汗)
今度どこかで、ギベアとヤンカーの戦闘を引っ張りだそうと思います。
ご拝読ありがとうございました!引き続きなにとぞよろしくお願いします!




