(17-5)あふれる
とうとう今日は大園遊会の最終日。
昨年1年間にこの国でめざましい功労があった者たちを王宮に招いて、表彰式とパーティーが行われる日だ。
大変光栄なことに、私の実家、レーン古書店もお呼ばれしている。うちの兄が、大変価値のある古文書を見つけ出したからだ。歴史的な大発見だったらしく、おかげさまで家族そろって参列できる。
今回の受章については、たぶん兄本人よりも、父の方がより深く喜んでいる。古文書の発見を伝える新聞記事はすべて切り抜いて大事に保存してあるし、王宮からの招待状が届いた時には、何度も何度も眺めて涙ぐんでいたらしい。
その父は、昨日の列車で王都にやってきた。中央駅で出迎えた兄と私を見るなり笑みくずれ、ぎゅうぎゅうハグして大はしゃぎだった。
いよいよ今日の午後、他の参列者とともに首相から表彰状と勲章をいただく。その後のパーティーでは、王家の皆様との交流も予定されている。
他業種の功労者とも縁をつなぐチャンスで、ビジネスが広がる可能性も大きい。事前に公表されている今年の表彰者リストをにらんで、父と兄は白熱の作戦会議を繰り広げていた。
私としては、最近いろいろなことが身の回りで一気に起こりすぎて、バタバタとこの日を迎えることになってしまったけれど。
一応、事前におめかしの準備は整えてある。
「どうでしょう?」
着込んだワンピースで、くるりと一周回ってみせる。
フィリアスさんは、眉を下げ、とても悲しい顔になる。
「どうして俺は付き添えないのか」
「だって熱が下がりきってないから」
ぐう、と喉を鳴らして、フィリアスさんはベットに再びばたんと横たわった。
「2日も寝込むと思わなかった。失敗した」
「それだけ力を使ったってことでしょう? よくがんばりました。やっと元気になってきてよかったけど……今日もゆっくり休んでね」
「完全体が見たかった」
落ち込んだ顔で、魔術の実験に失敗した学者みたいなことを言い出した。
一瞬、完全体ってなにごと?と思い、ヘアメイク後の姿のことかと思い至って私は微笑んだ。
「お店でヘアメイクしてもらった後、写真館で家族写真を撮る予定だから。後で見せるね。フィリアスさんが贈ってくれたニーナ・ブルーのかんざしもちゃんとつけて参列する!」
無言のフィリアスさんが、横になったままパチリと指を鳴らす。
ぱらり、と、1枚のカードのようなものが、その手に現れる。
「今はこれで我慢する」
「なぁに?……え?」
覗き込んだ私は、凍った。写真だった。私の。たった今の。
ぽやんとゆるんだ表情で写真を見ていたフィリアスさんが、「あ。」という顔をした。
「フィリアスさん」
「はい」
「これはなんですか」
「はい」
「マジックスナップ写真に見えます」
「はい」
「もしかして、フィーさんって、カメラが手元になくても魔術で写真を撮れるんですか?」
「…はい」
「もしかして、時々、フィンガースナップの音がしても何の魔術も起こらなかったのって、これだったりしますか?」
「………はい」
徐々に身を起こし、とうとうベッドの上で正座したフィリアスさんが、こわごわ指を鳴らす。
パラパラパラパラ、と、知らない間に撮られた私の写真が現れる。
パラパラパラパラ……
パラパラパラパラ……
「え、何枚あるの?」
「200枚くらい?」
「にひゃくまい」
私は真顔になった。フィリアスさんはうなだれた。
「フィリアスさん」
「………はい」
「この子、持って」
「え?」
「いいから早く」
私はフィリアスさんの腕に、とってもおっきなクマのぬいぐるみをボフンと預ける。
昨日、フィリアスさんの具合が悪いことを聞きつけて、カワード家の娘ちゃんのアステルちゃん7歳とステラちゃん4歳が、ふたりで抱えて持ってきてくれたのだ。
とってもやさしいふたりは、「フィー兄、元気になるまで一緒にいていいよ!」と大事なお友だちのクマさんを貸してくれた。
フィリアスさんはお礼にクマさんを魔術でトコトコ歩かせて、ふたりはキャッキャと大喜びだった。
「ここを撮って」
「え」
私は、フィリアスさんとクマさんの周囲の空間を、四角く指先で切って見せる。
「フィリアスさんとクマさんのツーショット」
「う」
「まだかなー」
「う」
観念した顔で、フィリアスさんの指が鳴る。
そろり、と写真が差し出された。
若干引きつった顔のフィリアスさんと、くりくりしたお目めがキュートなクマさんの写真。
「よし!かわいいから許しちゃう!」
私はほくほく顔で、その写真を手帳に挟んで大事にしまい込んだ。
「まぁ、別に私の写真は撮ってもいいんだけど。他の人には見せないでね。だらしない顔してることもあるだろうし。あと、私もフィリアスさんと一緒の写真撮りたい!完全に元気になってから。だからもう、ほら、横になって」
「……ありがとう」
正座したままのフィリアスさんが、思いっきり顔に安堵を漂わせる。
私はふと、どうしても気になってしまう。
「フィリアスさん」
「うん」
「ちなみに、他に何か内緒にしてることない?」
知らない間に私の人形を作っているし、私の写真も撮っているし。何だかちょっと信用ならない。余罪があるんじゃなかろうか。
「内緒にしていること……」
おうむ返しでつぶやいて、フィリアスさんの顔がぎくりとこわばった。最近ポーカーフェイスをやめることが多くなったフィリアスさんのお顔は、素直で嘘がつけなくて正直面白い。
「フィーさん? 何を隠しているのかな?」
私は小説の名探偵になった気持ちで、ずいっとフィリアスさんに近づいた。公聴人のクマさんには、もといた椅子に腰かけ直してもらう。
「捜査で君のお父さんに話を聞きに行った時に……」
フィリアスさんは、小さな声で白状し始める。
「ふむふむ」
私は偉そうに腕組みして、うなずいて見せる。ちょっと楽しい。
「小さい頃の君は、犬が大好きすぎて『大きくなったらアレクのお嫁さんになる!』って言ってたって聞いて」
「……あ、はい」
「『なんで、パパのお嫁さんになる!じゃないんだよぅ』って、君のお父さんが泣き始めて」
「………あ、うん」
「愕然とした。絶対に嫌だ。俺のお嫁さんになるって言ってくれないと困る、ってとっさに思って」
「……」
「アンブルストンから帰ってすぐに、寝ている君の指を測って」
「…………」
「これを作った。錬金魔術で装飾品を作ったのは初めてなんだが、一応、形にできたと思う」
フィリアスさんが、おずおずと差し出す。とても美しい、指輪だった。銀の。フィリアスさんの目と同じ色の石がはまった。たぶん薬指ぴったりサイズの。
「俺のお嫁さんになるって言ってほしい」
「………………いま?」
「俺の寿命は全部あげるって約束するから」
「………………じゅみょうぜんぶ?」
「俺のお嫁さんになるって約束してほしい」
「………………」
「マギー」
「………………」
「好きだ。大好きだ。愛してる」
フィリアスさんの顔が、とろけている。
私の顔は、真っ赤になっている。
出かける時間まで、あと5分。
(第2部おわり)
第2部、お読みいただいてありがとうございました!
たくさんのいいねや評価、本当にありがとうございます〜。すっっっっごく嬉しいです。
第3部では、フィリアスにぜひ!待望のレモンポセットを平和に飲んでもらいたいなぁ、と思います。
ちゃんと新居を見つけられるのかな……。
その前に、別の物語を1作品、投稿させていただきます。
タイトルは、『灯台守の十二か月』。
2月中には連載スタートできれば、と思ってます。
引き続き、お楽しみいただけますように!
どうぞよろしくお願いいたします。




