(10-4)マギーとカワード家③
娘さんが6人もいると、夕食のテーブルが本当ににぎやかだった。
長女ルミちゃん14歳、次女レイちゃん13歳、三女リアナちゃん11歳、四女メアちゃん9歳、五女アステルちゃん7歳、六女ステラちゃん4歳。
不思議なことに、上から順番に赤毛・銀髪・栗毛、交互に青と緑の目を持っていて、とても色彩豊かなご家族だ。栗毛はニーナさんのお父さんの髪の色らしい。
全員の名前が、「光」や「星」を指すいろいろな国の言葉で、それだけでもご両親の大切なキラキラの宝ものなんだな、というのが伝わってくる。
しかもニーナさん以外が全員魔力持ちということで、ものすごい量の食事が隙間なくテーブルに並んでいた。フィリアスさんひとり分の食事ですら量が多いと思っていたけれど、実はそんなの何てことないのでは、と思える大迫力だ。
「毎回これを用意するニーナさん、本当にすごい……!」
驚く私に、ニーナさんはぶんぶんと勢いよく頭を横に振った。
「半分くらいは自分で料理するけど、半分くらいはマジックボックス頼みかな」
カワード家はいろんなお店と契約して、お惣菜や食材をマジックボックスにストックしているとのこと。その契約のついでに、フィリアスさんの分のマジックボックスの契約もしてあげたのだそうだ。
「おかげさまで、高原のお家のごはんがものすごく豪華で幸せでした。ちょっと太っちゃったけど。運動しなきゃ!」
そう言ってお腹をぽんぽん叩いて見せたら、三女のリアナちゃんが食卓の向かいで身を乗り出した。
「ねぇ、マギーちゃん、運動好き? テニスしたことある?!」
「うん、学生時代にちょっとしたことあるよー」
「今度一緒にやりたい!」
「いいよ、やろうやろう!」
隣のメアちゃんが、「リアナ姉ばっかりずるいー」とむくれる。
「メアだって、マギーちゃんと一緒にダンスしたい!」
「メアちゃん、ダンス好きなの? 教えてくれる?」
「うん!」
「アステルちゃんとステラちゃんは何が好き?」
「本!」「えほん!」
「わぁー、私と一緒! うちのお父さんとお兄ちゃん、本屋さんなんだよ。今度お店に遊びにきてね。一緒に本読もう」
「いくー!」「いくー!!」
みんな元気でとってもかわいい。ハーフォードさんが嫁と娘にデレデレになるのがすっごくよくわかる。
「マギーちゃん、すごいね。あっという間にみんなと仲良くなっちゃって。友だちいっぱいいるでしょ」
ルミちゃんが目を丸くして私を見た。
「そうだね、そこそこ多い方かも」
「ちなみに、男の子の友だちはどのくらいいる?」
恋愛小説大好きなレイちゃんがワクワクした顔をして聞いてくる。
「女の子と男の子、ちょうど同じくらいかなぁ」
「…………フィー兄、大丈夫かなぁ。ライバル多そう」
「こーら、変なこと言わないの」
ぼそぼそと何かつぶやくルミちゃんを、隣に座ったニーナさんが笑ってこづいている。親子というより姉妹みたいな仲の良さで、見ていてほのぼのしてしまう。
食べ終えて、大量の食器を洗うのが大変そう、率先して頑張ろう、と思っていたら、さすがのハーフォードさんの娘さんたちだった。
ルミちゃん、レイちゃん、リアナちゃんのお掃除魔法が大活躍して、あっという間に片付いてしまう。まだうまく魔法を使えない年少組は、お姉ちゃんたちのやっていることを一生懸命見て真似しようとしている。これはみんな良い魔術師さんになりそうだ。
順番にお風呂に入って、子どもたちが次第にお休みなさいとベッドに向かって消えていく。最後に大人ふたりになった時、ニーナさんがとっておきのものを出してくれた。
「これ、見る? ディー…うちの旦那さんが撮ってくれた昔の写真アルバム。フィー君も写ってるよ」
「見ます!すっごく見ます!」
そっと開く。いきなり、3人の写真に釘付けになった。蔦の生えたお家の前で、今よりだいぶ若いハーフォードさんとニーナさんが幸せ全開の笑顔で笑っていて、その間に、とても痩せた小さい男の子が、無表情で、そっぽを向いて立っている。ハーフォードさんが男の子の肩をがっちりと抱いていて、それがなかったら今にも走って逃げそうだった。
「うっっっわぁ! これ、子どもの頃のフィーさんですか? ちっちゃい! かわいい!」
「そう、8歳の頃だね。この頃は本当に痩せてたねぇ」
高原の家の柱に刻まれていたフィリアスさんの6歳の頃の身長を思い出す。確かに6歳にしてはとても小さかった。今みたいに背が高く伸びるまで、フィリアスさんにどんなことがあったんだろう。
手が止まらなくなって、次々にページをめくっていく。
写っているフィリアスさんはどれもたいてい、そっぽを向いたり、下を向いたり、写真から逃げるようにそこにいた。それでもちょっとずつ成長していく姿に目が離せない。
やがて、1枚の写真に、私は釘付けになった。
ふっくらと少年らしい頬になった銀髪もじゃもじゃ頭の男の子が、一心不乱に焼き栗をむいている。写真を撮られていることに気づいていないようで、真正面から捉えられていて、真剣なアイスブルーの瞳が、とてもとてもきれいだった。
「それ、あまりにもフィー君が夢中で食べてるから、ディーが面白がって隠し撮りしたやつ。10歳の頃だね。ガイザーブルの学校に通い出した直後くらい」
「フィリアスさん、ガイザーブルに行ってたんですか?」
私はちょっと意外な気持ちで尋ねる。
大陸一の商家であるガイザーブル商会がカンティフラスの王都に作った魔術学校は、歴史のある商業学校、芸術学校と違って、近年設立された学校だ。
今では王立学院の魔術科に次ぐレベルの高さを誇り、大陸中から学生が集まってくる。13歳からの入学となる王立学院と違って、小さい頃から勉強できる環境も整っている。私の友だちにも、ガイザーブルの学校で勉強してから王立学院の魔術科に入学してきた子が何人もいた。
でも、フィリアスさんが子どもの頃は、まだ設立されたかされていないか、ぎりぎりの時期な気がする。
「うん。フィー君はガイザーブルの創立1期生。3年勉強して、それから王立学院に入って、ずっと寮生活。うちから歩いていける距離なんだから、ここから学院に通えばいいって何度も言ったんだけど、寮に行きたい、勉強に集中したいって一点張りで。ちょうど2人目の子どもが生まれた後のタイミングだったから、私たちに遠慮したのかなぁ、って」
少しさびしそうなニーナさんの横顔を見ながら、私はフィリアスさんの気持ちが何となくわかる気がする。
うちの兄にも仲良しのアンナさんがいる。早く結婚すればいいのに、なかなか踏み切らないふたりは、たぶん、妹の私のことを気遣ってくれている。私のせいで、ふたりが足踏みをしているのはじれったくて、ええい!遠慮するなよ!って気持ちになるのだ。
だから、私は、近いうちにひとり暮らしを始めようと思っていた。きっと、王立学院の寮に入りたかったフィリアスさんも、似たような気持ちだったんじゃないかな。ええい!もっといっぱい幸せになれよ!って。
私が焼き栗のフィリアスさんをいつまでも熱心に眺めているので、ニーナさんは笑った。
「それ、気に入った?」
「ちっちゃい頃のフィリアスさんのふっくらほっぺた、かわいいな、つっついてみたかったな、って思っちゃって」
「もちもちしてたよ。つっついたら、すっごく嫌がられたけど」
「え、いいな、ニーナさん、うらやましい!」
「今のフィー君のほっぺた、つっついてみたらいいんじゃない?」
「えぇー、今はあんまりもちもちしてない気がする……」
「でも、フィー君、お肌きれいだよね」
「それは確かに!」
よし、マギーちゃん、次はほっぺたつっつきチャレンジね、とニーナさんは含み笑いしながら、写真を台座から外して、手渡してくれた。
「これ、マギーちゃんにあげる。原本は別のところに保存してあるから焼き増しできるし、気にしなくていいからね」
「わぁ、ありがとうございます! 大事にします!」
そう言ったところで、私は、大変なことに気づいてしまった。
「ニーナさん、これ、魔術写真ですよね?」
「うん、そうだよ」
「15年くらい前って、まだ、マジックスナップカメラ、売り出されてない気が……?」
私が子どもの頃に家族写真を撮るといえば、写真館に行くか、カメラマンが大きな箱のような写真機を抱えてきて、よっこらしょっと撮影してくれるものだった。しかも白黒写真。
一般の人でも手軽にカラー写真が撮れるマジックスナップのカメラが売り出されたのって、せいぜい10年くらい前だった記憶がある。
「マジックスナップに使われている魔法陣を開発したの、ハーフォードなの」
ニーナさんは得意げに胸を張った。とてもとてもうれしそうで、旦那さんが大好きなのがすごく伝わってくる。
「写真の魔法陣を作ってしばらくは家族写真だけで使ってたんだけど、ガイザーブル商会に頼み込まれて、今は独占使用権を貸してあげてるんだよね。あと、ほら、最近よく見かける魔力自動車、あの動力部分にもハーフォードの技術が使われてる」
私は耳を疑った。マジックスナップも魔力自動車も、もはや日常に欠かせないアイテムだ。その技術提供をしているって、
「毎年入ってくる特許料、とんでもない金額なんじゃぁ……?」
ニーナさんは笑って首をすくめた。
「フィー君とマギーちゃんが仕事を辞めても、みんなで一生遊んで暮らせるくらいの余裕はあるかな。だから、マギーちゃんも好きなことを好きなようにしてね。家族全員幸せにするのがハーフォードの生きがいだから、遠慮なく!」
なんだかとんでもないことを言われてしまった気がする。
そういえば、ここのところフィリアスさんとの距離が近すぎて、時々忘れてしまいそうになるけれど、兄弟そろって滅多にいない特級魔術師なのだった。
フィリアスさんも何かとんでもない特許を持ってたりするんだろうか……?
できれば私が理解できる範囲での話だといいな、と思いながら、手の中の写真のフィリアス少年を見た。
焼き栗は、冬の公園の露店で買える名物だ。次の冬には一緒に買いにいきたいな。公園に季節限定で作られるアイススケートリンクにも誘ってみたら……滑らず風魔法で浮いていそうだな。
ふふ、っと笑ったら、隣のニーナさんもふふっと笑った。
「マギーちゃんがいてくれてよかった」
やさしい声でつぶやいて、ニーナさんはアルバムの次のページをめくった。




