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筆耕マギーは沼のなか  作者: コイシ直
第3章 特級魔術師フィリアス・テナントの不可解

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(3−3)フィリアスの気になる女史③

「手元に置く、って、それはどういう意味で……って、今お前に聞いても仕方ない気がするな」


 ハーフォードは言いかけて、感情が抜け落ちたようないつものフィリアスの顔を眺め、すぐに答えを諦めて苦笑した。腕組みをして、視線を宙に向けて軽く考える。


「彼女を手っ取り早くそばに置いておくには……業務補佐官か」


 フィリアスはうなずきながら、引き続きの無表情で、パチリと指を鳴らした。


 戸棚からふわりと茶器が飛び出してきて、自動で紅茶をいれる準備が始まる。フィリアスの部屋にいても、めったに茶が振る舞われることはない。先ほどの「業務補佐官」という言葉で、よっぽど機嫌がよくなったんだな、と察したハーフォードは、ありがたく茶をいただくことにした。


 魔術師団長には通常、1、2名の業務補佐官がつく。主にスケジュールと書類の管理をするためで、魔術師でなくても構わない。むしろ、自由な性質を持ちがちな魔術師よりも、几帳面(きちょうめん)な一般文官の方が向いている職だった。


 ただ、フィリアスは、これまで業務補佐官を置いたことがない。他人に任せるより自分ですべてやってしまった方がよほど早い、という理由で。


 業務補佐官の任務には、魔術師団長の手紙を代筆したり、自分の師団への告示を書いたりすることも含まれる。筆耕官が出向してもおかしくない仕事内容ではあった。


 応接テーブルの上のものが消え、紅茶の入ったティーカップとソーサーが、ハーフォードの目の前にふわりと飛んできた。さらに、マドレーヌがいくつか盛り付けられた小皿までやってくる。本気で機嫌がいい、というか、もはやそこを通り越して完全に浮かれているのでは?と疑いたくなるような高待遇っぷりだ。

 

 フィリアスは、どこから取り出したのか、トートバッグを膝の上に置いて、がさごそと中を探っている。バッグの表面に大きめに描かれているのは、2頭身の愛らしいシルエットのオオカミで、目つきの悪さがフィリアスに似ているな、とハーフォードはとっさに思う。


 そのカバン、まさかお前のか、と聞こうとした次の瞬間、彼は言葉を飲み込んだ。


 フィリアスが、パステルカラーの小花柄の布の包みを取り出したのだ。あのフィーが!まさかのパステルカラーの!あどけない花柄の包みを!いそいそと!


 今朝がた見かけた小柄な女の子の姿が脳内にちらつく。うん、確実にあの子の持ち物に違いない。


 包みがほどかれると、そこにはパンケーキの山があった。フィリアスはそのうちの1枚を両手で持って、モシャァと(かじ)り付く。いかにも家庭料理らしく、形がところどころ少しいびつで、しかしこの上なくふんわり美味しそうなパンケーキで、中に入っているのはクルミに見える。


「フィー、それ、もしかして、マーガレット嬢の手作りか……?」


 齧り付いたまま、首を横に振り、もごもごとフィリアスは返した。


「彼女の兄が作った」


 まさかのすでに、家族ぐるみの付き合いだった……!


 ハーフォードは一瞬、全ての思考を放り出し、パンケーキを頬張るフィリアスをひたすら眺めながら、(早いとこ新居を見つけてやるか)と妙な思考がよぎってしまった自分に戦慄する。こんなに兄馬鹿だったろうか、俺。


 それと同時に、心配が頭をよぎる。一応、いちおう、本当にいちおう、言っておいた方がいい気がした。


「フィー、お前もすでに知っていると思うけど、念のため忠告しておくぞ」


 もぐもぐと口を動かしたまま、フィリアスの目がきょろりとハーフォードの方を向く。


「マギーちゃん、むちゃくちゃモテるからな」


 もぐ、とフィリアスの口が止まった。


「お前も出席してたと思うけど、去年の王宮の納会。マギーちゃん、超絶人気だったぞ」


 王宮では年末、業務に関わる人々の1年間の労をねぎらい、大広間で立食形式の宴が開かれる。ステージでは楽団や劇団のショーもあり、気軽に他部署との交流も深められることから、かなり人気の催しだった。特に出会いを求める若い層にとって。


「すごく人に囲まれてる女の子がいると思ったら、マーガレット嬢で、最初は司書の連中に男女問わず話しかけられてて。次に見た時は、お前の部下の魔術師連中と楽しそうな笑顔で話し込んでて。で、それをみた陸軍と海軍と近衛隊の若い男子からも声をかけられまくる、と。特定のパートナーはいないらしい、今がチャンス、ってうちの部下の野郎どももこそこそ噂してたが」


 ほら、飲め、とフィリアスのティーカップを近くに引き寄せてやる。黙ったまま、フィリアスは、ごくりと紅茶を飲み込んだ。


「お前が業務だか何だかで、彼女を囲い込みたいのは理解した。が、それに嫉妬する野郎どももいるだろうし、なんとかして彼女を自分のものにしたがる奴も出てくるかもしれない。マーガレット嬢を手元に置くなら、責任を持ってちゃんと守るんだぞ。あと、何より一番大事なのは、彼女の気持ちだからな。そこを間違えるなよ」


「…………わかった」


 ボソボソと返すと、フィリアスは再びパンケーキに齧り付いた。先ほどより食べるスピードが猛烈に速い。


 こいつ、本当にわかったんだろうか、とハーフォードは、情緒未発達の弟分のことを大変不安になりつつ見守った。


3章はあと1話。

21時過ぎごろ更新します!

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