第十話 中二病という言葉は異世界にはない
「今まで言っていなかったが、俺には前世の記憶があるんだ」
帰って初クエストお疲れ様会をしたあとに、改めて家族へと話をする。
ポカーンと口を開けた妹。考え込む表情の父。いつも通りニコニコの母。すごいな母さん。
「前世の記憶ってー?初代こくおー様みたいなやつ?」
「そうだ。初代国王は色んな発明を残しただろう。そのほとんどは兄ちゃんの前世で普通にあった物なんだ。だから多分初代国王と同じ世界か、似た世界で生きていた記憶がある」
「へー。どおりでにーちゃん賢いんだな!え、そしたらご飯は?」
「え?あぁ、国王はあんまり料理には詳しくなかったみたいだな。国王が開発した食材を使って色々作っているのは確かに前世のレシピが多いな。ハンバーグは普通にあるけど、今日みたいに玉ねぎを炒めずにすりおろして入れたハンバーグは俺が前世で作っていたやつだな」
「あのハンバーグ美味しかった!にーちゃん前世の記憶あってくれて良かった!美味しいものいっぱい食べられるし、色々教えてくれるし!」
「そりゃ良かったよ。自分でも勉強するんだぞ?」
「それはまた、べつのはなしー」
ビティアは相変わらずだなぁ。
「前世のあなたは、どんな人生だったの?家族は?」
「35歳のときに死んだっぽいんだよね。両親は小さい頃に死んで、兄妹もいないし親戚づきあいもなかったよ。結婚もしなかった。家と仕事の往復みたいな暮らしだったかな。不幸でも無いけどとびきり幸せでもない、ね」
「そう……ご家族はいなかったのね。」
はぁ、と息を吐く母。
「良かったわ。ご両親やご家族のもとから、あなたを奪ったわけでは、ないのね」
「そんなはずないよ!!」
それが心配だったのか。全くこのひとは。
「前の人生で家族もなく寂しい死に方だったからさ、今回は絶対家族を大切にして、幸せに生きようと思ったんだ。だから、こんな混乱させるようなことなかなか言えなかったんだけどさ」
「混乱なんて気にしなくていいのよ。私達を大切にしようと思ってくれて、幸せに生きようと思ってくれてありがとう。本当に、それが嬉しいわ。話してくれてありがとう……」
「うん、こちらこそありがとう母さん」
本当に、この人から生まれて良かった。あと生まれる瞬間とか赤ちゃん時代の記憶がなくて良かった。いくら母親でも精神年齢おっさんが乳を飲むのはちょっと。
「コールセンターとは、前世にあった言葉か?」
父がようやく口を開く。
「そうだね。コールセンター自体は、冒険者ギルドとか、役所みたいに仕事をする施設の名前、みたいなものかな」
「どんな仕事だったんだ?」
「電話っていう……国王の開発リストにも多分あると思うんだけど、離れたところにいる人と会話が出来る機械があるんだよね。それを使って、離れたところからお客さんから問い合わせを受けるんだ。「この商品使い方が分からないんだけど」とか、「壊れたんだけどどうしてくれるんだ」とか」
「イメージがつきにくいが、なかなか大変そうだな。お前もそこで働いていたのか?」
「うん、色んな仕事もしたけど最後の10年くらいはコールセンターで働いていたかな。最初はそういう問い合わせを受ける人として入ったんだけど、途中から昇進して、電話中の人のサポートをしたり、よりたくさん電話と取るにはどうしたらいいか?を考えて実行していたよ」
「それがお前の言っていた生産性、効率というやつか。その記憶があったから今日も早く多くクエストをこなそうとしていたんだな」
「そういうこと。」
「生産性について詳しいことは分かっているのか?」
「前世のコールセンターとどこまで同じかは色々試してみないと分からないね。ざっくり言うと『より短時間で』『より多く』を達成できればいいんだけど、細かいテクニックとかもあるだろうし裏技が使えるかも試したい」
「裏技?」
「クエスト達成時の文言では、クエスト一件か、一回のノルマあたりの目安時間みたいなのが設定されているみたいなんだ。今日もざっくり言うと、クエストを受けてから帰って来るまでで4時間だったのが、2頭持ってきたから1件あたり2時間っていう計算で標準より早いっていう判定結果だった」
「だったら常により早く、より多くを心がけてればいいというわけか」
「基本はね。でもこれ、なんの時間だと思う?討伐にかかる時間?ギルドを出てから報告に来るまでの時間?今日の感じだとギルドを出て帰って来るまでっぽいけど、例えばこれが薬草をあらかじめ持っていて、クエストを受けた瞬間に提出して完了報告したらどうなると思う?」
「2時間どころか、1分だな……」
「でしょ。でもそれって流石にズルと言われるのか、それとも採取にかかった時間は別カウントとされるのか、じゃぁ薬草をどこかで買ってきてすぐ提出したらどうなのかとか、検証しなきゃいけないことはいっぱいあるよ」
「なるほどな……。今日の討伐を見たところ、Dランクの魔獣までは大丈夫だろうから、今後は好きにクエストを受けて検証してみなさい。家の手伝いよりも優先で良いぞ」
「ありがとう。母さん、いいの?」
「もちろんよ。ちゃんと気をつけるのよ。勝手に決められちゃったけど、その分パパが手伝ってくれるもの。ね?」
こ、これがBランク魔法使いの圧……。
「と、当然だ」
父も冷や汗である。
「えーいいなー!あたしもクエストいきたーい!」
「ダメだ。……はぁ、クエストに行くのは良いが、ビティアの訓練と勉強も見ること。いいな?」
「もちろん」
Aランク冒険者になっても家庭内の立場は弱めの父である。
カミングアウトは緊張したけど、して良かったな。やっぱり良い家族だ。
ちょっと思うところがあり一度本作を非公開として更新をストップします。申し訳ありません。




