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第8話 本当にカメムシを出せるんですね……

◆ ◆ ◆


名前:ユウヤ・ヨシダ


スキル:口からカメムシを出す能力


レベル:1


タイプ:アオクサ □

    スコット

    クチブト


説明 :スキル所持者は口からカメムシを出すことができる。スキルで出したカメムシには指示を出

    すことができるが、一定時間指示が無いカメムシは自動的に消滅する。現在、一度に2匹ま

    で出すことができる。タイプを切り替えることによって、出すカメムシの種類を切り替える

    ことができる。それぞれのタイプの特徴は以下のとおりである。


アオクサ:一般的なカメムシ。果樹から果汁を吸う。

スコット:山地などの寒冷地に適応したカメムシ。

クチブト:肉食性のカメムシ。




未覚醒スキル:『――――』『――――』


◆ ◆ ◆



鑑定書から視線を上げると、ユナがこちらをワクワクしたような目で見ていた。


「どうでしたか?」


俺は直接見た方が早いだろうと思い、ユナに鑑定書を渡す。


「ありがとうございます」


そう言ってユナは鑑定書を受け取り、その内容に目を通す。


「えーと……。なんていうか、本当にカメムシを口から出すだけのスキルなんですね……」


いや、そりゃあ俺も同じことを思ったよ。なにかまだ気づいていない能力があるんじゃないか、とかね。まさか本当に口からカメムシを出せるだけだとは……。


悲しい現実を再認識し俺がなんとも言うことができずにいると、ユナが鑑定書をこちらに返し、励ますように続ける。


「それでもあの魔物、キラープラントを倒せたのですから実はすごいスキルなんですよ!」


「キラープラント?」


「あ、言ってませんでしたね。私が襲われたあの魔物の名前です。あの草原は生息地じゃなかったはずなんですけどね……」


ユナはそう言って考え込んでしまう。俺はそんな様子のユナから視線を外し、もう一度鑑定書を見る。がっかりはしたが、書いてあるスキルの内容は大まかに俺が認識していたものだった。タイプと言われてカメムシの名前を並べられてもわからないが、とりあえず出せるカメムシは一種類だけではない、ということだろう。


「よかったら私の鑑定書も見ますか?」


俺が自分の鑑定書を見返していると、ユナがポーチからもう一枚の鑑定書を取り出す。


「え、いいのか?」


「はい!ユウヤさんのも見せてもらいましたし、私のスキルは隠すようなものでもありませんから」


「わかった、ありがたく見せてもらうよ」


俺がそう言うと、彼女が鑑定書を差し出してくる。



◆ ◆ ◆


名前:ユナ・ミュラー


スキル:鑑定


スキルレベル:1


説明:対象に取ったものについて鑑定し、その情報を知ることができる。鑑定書を使用することで、文面に起こすことも可能。現在、許可を得た人についての情報、植物についての情報、動物についての情報を鑑定可能。


◆ ◆ ◆



俺は彼女の鑑定書に目を通す。ユナ・ミュラーって名前だったんだな。なんだかTHE・異世界スキルって感じで非常にうらやましい。そんな彼女のスキルの内容は概ね想像していた通りの内容であったが、1つ分からないものがあった。


「なあユナ。俺のスキルにもあったが、この“レベル”ってなんだ?」


「レベルはスキルの熟練度みたいなものです。ただ基本的に1から動くことはないんですけどね」


「そうなのか?」


「はい。ものすごく貴重で大きな経験をすると上がることもあるようですけど、生きているうちにレベル2まで上がる人は1 %もいないといわれているんですよ」


なるほど、ポ〇モンみたいにどんどん上がっていくものではないのか。まあ、とりあえずは気にしなくても良いってことだな。


「ところで、ユウヤさんは“未覚醒スキル”というものに心当たりはあるんですか?」


「いや、無いな。これも珍しいのものなのか?」


ユナは俺が持つ鑑定書の最下段を指しながら言う。


「そうですね……。少なくとも私は見たことないです。スキルも1人につき1つが普通ですし」


この“未覚醒スキル”ってのも異世界転生だからこそなんだろうか。字面的には今後なにかしらのスキルを手に入れられそうな気もする。


「まあしかし、ユナにもわからないなら色々と考えていても仕方ないな」


そんなこんなで、お互いのスキルを見合った俺たちはレストランを出ることにした。外では寒い風が吹いており、未だ街の喧騒は衰えていないものの、もう休むべき時間であることを告げていた。


「そういえばユウヤさんってどこに泊まるか決まっているんですか?」


ユナにそう言われて俺はハッとした。確かに俺ってお金もないし、どこに泊まるんだろう。異世界初日に野宿は流石にご遠慮したいし……。


「しょうがないですね、私がいい宿紹介しますよ!お金も持ってないでしょうし、今晩は私が奢ってあげます!」


ユナは可愛げに胸を張りながらそう言う。彼女と会った時からうすうす感じていたが、どうやらユナは俺に対して先輩風を吹かせたいらしい。しかし、彼女ほどの年齢では、どうしても頼もしさより可愛らしさが勝ってしまっていた。


「すまん。野宿は嫌だし、お言葉に甘えさせてもらうよ」


「はい! お任せください!」


俺を先導するユナの背中は、やはりどこか可愛げなのであった。




「さて、つきましたよ」


レストランがあった賑やかな通りから少し離れた、閑静な裏通りにある一軒の建物を指さしユナは止まった。目の前の建物には『月明の宿』と書かれた若干さびれた看板がぶら下がっている。


「私はいつもここに泊まっているんです。物静かでいい宿ですよ」


それにお値段も安いですしね、と小声で加えてユナが言う。


「確かに良さそうな宿だな。それじゃあ俺もここに泊まろうかな」


「はい、それがいいです! ユウヤさんの分も手続きしてきますね」


そう言ってユナはカウンターへと向かっていく。どうにもこっちに来てからユナに世話になりっぱなしだな。そんなことを思いながら俺は宿の中へと入っていった。




カウンターで店主と話すユナを待つこと数分。どうやら手続きを終えたようで、ユナがこちらに向かって歩いてくる。


「お待たせしました! これがユウヤさんのお部屋の鍵です!」


ユナは手に持っていた2つの鍵のうち、片方をこちらへと放ってくる。


「今日はいろんなことがあって流石に疲れましたね」


「そうだなあ。俺も早くこの世界になれないといけないな」


そんな話をしながら、2人でカウンター横の階段を上がる。廊下を歩き、俺たちの部屋の前まで付くと、まるで当然のことかのようにユナが話し出す。


「それでは明日はここに朝8時くらいに集合しましょうか」


「え。うん」


「じゃあ、おやすみなさい!」


そういって手を振りながらユナは彼女の部屋へと入っていく。


「お、おやすみ」


(……そうか。ちゃんと考えてなかったけど明日もユナと一緒にいるんだよな)


俺はかろうじて彼女の部屋のドアが閉まる前に言葉を返すことに成功したが、日をまたいで女の子と行動を共にする、なんていう現実世界でも起こらなかったイベントを前に、なんだか不思議な気持ちになってしまう。


(ま、まあ、まだお金も返せていないわけだし、当然だよな……?)


そんなことを考えながら、俺は遠足前日の小学生になったような気持ちで自室の鍵を開けるのだった。

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