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第7話 レストランにて

俺たちは他愛もない会話をしながらユナの先導で歩き続けていた。ユナが人懐っこい性格だからか、それとも俺の残念スキルに親近感でも湧いたのか、俺たち二人は出会った時よりも随分と仲良くなったように感じる。


そんな風に考えているとユナが声を上げる。


「あ、見えてきました!」


ユナが前方を指さしながら言う。


「あれがキネアの街です!」


日はもう完全に沈もうとしているが、目の前にはそれに逆らうような喧騒が広がっていた。確かにキネアの街とやらは大都会というほどの大きさではないようだ。しかし、街道に並ぶ中世風の建物や、冒険者らしい恰好で酒場の店先でジョッキを傾ける大男などを見ると、どうにも異世界に来た実感を湧かせる。


「なんというか、とても賑やかな街なんだな」


「ここは冒険者達の拠点のような街ですから、夜はいつもこんな感じなんです!」


ユナは楽しげな表情で話し続ける。


「私たちもどこかでご飯にしましょうか!」


「ああ、そうしようか。案内してくれると助かるよ」


「はい、もちろんです! お任せください!」


自信ありげにそういったユナはワクワクした足取りで街の中へと歩き出す。


「早くしてくださいー! 今度こそ置いてっちゃいますよ!」


ユナが振り返って手を振りながらこちらに向かって叫ぶ。どうやらお腹の減り具合がもう限界を迎えているようだ。そんな様子に笑いながら、俺はユナの方に向かって歩き出した。






カランコロン


「いらっしゃーい! あらユナちゃんじゃない! 空いてるとこ適当に座っちゃって!」


案内された店に入った瞬間、いかにも定食屋のおばちゃんのような風貌の定員が大声で言う。ユナは手慣れた様子で手近なテーブルに座り、卓上のメニュー表を引き寄せた。


「行きつけのお店なのか?」


俺は反対側の席に座りながらそう尋ねた。


「はい! この明るい感じがお気に入りなんです!」


そういいながらユナはメニュー表をこちらに差し出してくる。


「私はいつも同じものを頼むんですけど、ユウヤさんはどうします?」


「えっと、そうだな……」


俺は受け取ったメニュー表に視線を落とす。そこには異世界らしく見たこともないような文字列が並んでいたが、なぜか読むことはできるらしい。


ご都合主義、万歳。と喜ぶのはいいが、残念ながらメニューに並ぶ食材の名前には一つたりとも心当たりがない。


「……俺もユナと同じものを頼もうかな。」


俺があきらめてそういうと、ユナは厨房の方に手を挙げ声を張り上げる。


「おばちゃーん!いつもの定食2つ!」


「あいよー!」


ユナの声に厨房から元気の良い返事が返ってくる。


「そういえば、ユウヤさんが遭遇したネコ型の魔物ってどんなヤツだったんですか? 」


「あれはやばかったよ……。すごい獰猛そうな顔してて――――」


そんな話で空腹を誤魔化しながら、俺たちは料理が運ばれてくるのを待つことにした。






「おまちどうっ!」


ドンッ!という音を立てて大きな揚げ物のような塊とパンがテーブルの上に置かれる。


「これは?」


俺がは運ばれてきた料理を指さしながらユナに尋ねる。


「ビッグピッグと呼ばれる動物のお肉に衣をつけて揚げたものです。かかってるソースとの相性が抜群なんです!」


なるほど。つまりトンカツのような食べ物なのだろう。


「そのビッグピッグっていうのは――――」


俺はもう少しこの料理について聞こうと前方を見たが、ユナは目の前の料理に視線が釘付けでこちらの話はまるで聞こえていないようだ。どうやらとっくにユナの空腹は限界を迎えていたらしい。


「とりあえず食べ始めようか」


「はい! そうしましょう!」


そういうと、ユナは待ってましたとばかりに目の前の料理に勢いよく手を伸ばし始める。そこまで景気の良い食べっぷりを見せられてはこちらもお腹が空くというものだ。さっそく俺も異世界に来て初めての食事に取り掛かることとした。






「そういえば」


皿の上をあらかた片付け終え、満足げな顔をしたユナがそう切り出す。


「ユウヤさん、色々聞きたいことがあるって言ってませんでしたっけ?」


確かに色々とユナに聞こうとしてたんだった……。運ばれた料理の迫力と美味しさですっかりと忘れていた当初の目標を思い出した俺は、さしあたりこの世界について詳しく聞くことにした。


「この世界に今日襲われた魔物のような存在がいることはわかったんだが、それ以外にも普通の生き物っているのか? さっきユナはビッグピッグのこと“動物”って言ってたから気になったんだ」


「あー、そのあたりのことをお話しするのであれば、あの“天災”のことを説明しなきゃですね」


「天災?」


「えーと、どこから話しましょうか……」


そういってユナは少し暗い顔をしてその“天災”について話し始めた。




「今から大体7年前のちょうどいまくらいの時間ことです。突如、夜空に大量の流れ星のようなものが出現する、という事件が起きました」


「流れ星。隕石が落下してきたってことか?」


「いえ、人々は落ちてくるであろう流れ星に恐怖したのですが、不思議なことに地上のどこにも実際に隕石として落下してくることはありませんでした。しかし、その時を境に世界中で様々な異変が起き始めました」


「異変?」


「例えば、世界中に魔物と呼ばれる非常に凶暴な生き物が出現しました。ちょうど今日、私たちを襲ったような生き物のことです」


そのユナの言葉に、俺の先ほどの疑問は解消された。


「さっき料理に使われていたビッグピッグとやらは“動物”。つまりその時に出現した生き物ではないってことだな?」


「はい。ビッグピッグは古くから家畜として飼われてきた生き物なのでこの世界では“動物”と呼んでいます」


なるほど。つまり天災以前から存在していた生き物を“動物”。天災以降に出現した凶暴な生き物を“魔物”と呼んでいるわけだ。


「この魔物の出現のほかにも、色々な異変が起きました」


そう言ったユナはグラスに注がれた水を一杯飲み一息ついた後、続けて話し始める。


「例えば、一部の人のスキルが変化したり、ダンジョンと呼ばれる建造物がいきなり出現したりしました。学者さんは、これらの現象は世界に“魔素”と呼ばれるものが急速に供給されたためだと言っています」


「じゃあもしかしたら俺がこの世界に転生したのもその天災のせいなのかもしれないな」


「もしかしたらそうなのかもしれません。『召喚士』というスキルも天災以降に見られるようになったスキルだと聞いていますし……」


なるほど。今の話で知りたかったことは概ね知れたような気がするな。


「ありがとう! ユナのおかげでこの世界について大体わかったような気がするよ」


「それは良かったです! そうだ、私からも聞きたいことがあるんですけど良いですか?」


「もちろん!」


俺がそう言うと、ユナは少し言いづらそうに切り出す。


「えーと……。初めて見たときは驚いちゃったんですけど、ユウヤさんのスキルって具体的にどんなものなのですか……?」


「あー……、ごめん。実は俺自身もカメムシを口から出せるようになった、ってこと以外はよくわかってないんだ……」


俺がそう言って顔を上げると、何故かユナは少し誇らしげな表情でこちらを見ていた。


「それなら、私のスキルでユウヤさんのスキル、調べてみませんか?」


「え、そんなことできるの?」


驚いた俺がそう聞くと、ユナはいつか見たように胸を張って答える。


「ふふん! お忘れですかユウヤさん! 私のスキルは『鑑定』ですよ! まあ、相手の同意がないと分からないんですけどね……」


ユナの声の調子は尻すぼみになっているが、俺にとってはこの変なスキルについて解明できる願ってもないチャンスだ。


「それは、ぜひお願いしたい!」


「もちろんです! ちょっと待っててくださいね!」


そういってユナは腰にさげたポーチから一枚の紙を取り出す。

「これは鑑定書。私が知りたいことを念じながらユウヤさんの胸に押し当てると、その説明が浮かび上がってくるはずです!」


そういってユナは身を乗り出し、俺の胸に紙を押し当て、何かを念じるように目を閉じた。その瞬間、鑑定書が淡く光りだしたかと思うと、その表面には文字が浮かび上がっていた。


「はい、どうぞ! まずはユウヤさんが確認してください!」


俺はユナが差し出した鑑定書を受け取り、書かれている文字に目を落とした。




◆ ◆ ◆


名前:ユウヤ・ヨシダ


レベル:1


スキル:Lv.1 口からカメムシを出す能力


タイプ:アオクサ □

    スコット

    クチブト


説明:スキル所持者は口からカメムシを出すことができる。スキルで出したカメムシには指示を出すことができるが、一定時間指示が無いカメムシは自動的に消滅する。現在、一度に2匹まで出すことができる。タイプを切り替えることによって、出すカメムシの種類を切り替えることができる。それぞれのタイプの特徴は以下のとおりである。


アオクサ:一般的なカメムシ。果樹から果汁を吸う。

スコット:山地などの寒冷地に適応したカメムシ。

クチブト:肉食性のカメムシ。




未覚醒スキル:『――――』『――――』


◆ ◆ ◆

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