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第4話 もしかして:カメムシ


命からがら逃げた俺は草原に座り込んでいた。いつの間にか初めに気絶していた場所まで戻ってきたらしい。


どうにも非生産的な時間を過ごした感覚が拭えないが、命があるだけでも儲けものと考えたほうが良いのだろう。


座り込んで息を整えながら先程のことを思い出す。


いや、概ねのことは納得は出来ないが理解はできる。あのネコのような生物は見たこともないような凶暴な形相であったが、ここが異世界だと言うならば別におかしくは無い。つまり良くある異世界転生で見る魔物に近い存在なのだろう。古今東西、どの物語でも何故か魔物は理由もなく人を襲ってくるものである。


問題はその後だ。何故か俺の口からカメムシが出てきて、あの魔物を颯爽と倒してくれた。


「いや、やっぱり意味わからんな……」


しかし、あのカメムシは外から口に入ってきた訳では無いはずだ。寝ぼけていた初めならまだしも、あの状況で口に入ってくるカメムシに気づかないはずがない。


つまり俺の口の中でカメムシが生まれた(?)ってわけだ。これには自然発生説を唱えたアリストテレスさんも驚いて腰を抜かすに違いない。


(せめてまた同じようにカメムシが出てきてくれれば納得できるんだが)


そう考えた俺はカメムシが口から出てきた時の状況を振り返る。


「えーと、初めは草原で寝ぼけてた時だったかな。」


そう、都会では経験できないような心地良い空気を味わおうと大きく息を吸い込んだ時だったはずだ。


「そんで、あの魔物に追われている時。」


確か限界まで走ったせいで呼吸が乱れ、大きく息を吸った時……


「ん? つまり……?」


俺はおもむろに深呼吸をした。


ゴフッ!


思いっきり息を吸った瞬間、俺の口からは勢いよくカメムシが出てきた。どこか見覚えのあるようなつぶらな瞳でこちらを見ている。


「いや、うん。え? 」


どうやら俺の脳はあまり理解したくないらしい。とりあえずもう一度深呼吸を――――


コフッ


うん、もう1匹出てきたね。もう驚きは無いね。


合計4つのつぶらな瞳がこちらを見ている。


「……なるほど。」


つまり、理解したくは無いが、納得したくは無いが、どうやら俺は口からカメムシを出すことができるようになってしまったらしい。


(ハッハッハ! 良かったじゃないか! 異世界転生につきものの能力はちゃんとあったんだ! はぁ……)


正直なところ、全く嬉しく無い。いや、むしろ、せっかくの能力が『口からカメムシが出せる』だと? こんなの外れスキルどころの騒ぎじゃないだろう。


こんな能力のことはさっさと忘れ去ってしまいたい。そう思いながら視線を落とすと、律儀にこっちを見るカメムシ達と目が合ってしまう。


「なあ、お前らは一体なんなんだ? 」


カメムシ達は動かない。


「せめて喋って説明でもしてくれればなあ……」


カメムシ達は動かない。


「微動だにしないな。動けないのか? 」


カメムシ達はふるふるとその身を震わせる。


( ん? もしかして……)


「ちょっとその場で飛んでみ? 」


カメムシ達は少し飛び上がった後、元いた場所に着地する。


「一周まわってワン!」


カメムシ達はよちよちと歩いて1周回る。


なーるほど。こいつら俺の指示で動いてるな?


思い返してみれば、魔物に追われている時も出てきたカメムシに何か話しかけたような気がする。


「と、とりあえず、もう少し何ができるか試してみるか……」


律儀に指示に従って動くカメムシ達に、俺は少しずつ愛着を覚え始めていた。






「ふむふむ」


たっぷり1時間ほどカメムシ達と遊んだ甲斐もあり、この能力についていくつかわかったことがあった。


まずは、当初の予想通り、俺は大きく息を吸い込むことでカメムシを口の中に生み出せるらしい。また、何匹出せるのかと試してみたが、2匹出した後はただの深呼吸になってしまった。


次に、出したカメムシには指示が出せるらしい。どうやらカメムシ達にも考える脳はあるようで、多少曖昧な指示でも自分で判断して行動してくれるようだ。


最後に、自分の認識から外れたカメムシには指示が出せないこともわかった。認識から外れたカメムシが消えるのか野生に帰るのかはよく分からないが、1匹認識外になると、新しく1匹出せるようになるようだ。


(普通の異世界転生モノに登場する能力と比べると随分としょぼく見えてしまうが、これはこれで楽しいな!)


目の前のカメムシ達を回らせてみたり、踊らせてみたり、飛ばせてみたり……


なんだかペットみたいで可愛い。


さぁ次はブレイクダンスもどきでもさせてみようか――――


「……ッッ!」


ん? なんか遠くの方から聞こえたような?


「……けて! 」


なんだ? なんか女の子の声のような・・・?


「……誰か、助けて!」


その意味を理解した瞬間、俺は反射的にその声の方向へ駆け出していた。

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