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◆他人による自傷

「おい!おい先生…!」


俺がいくら呼び掛けても、その後先生は目を開かなかった。

死ぬのか?

ウソだろ?

抱きかかえると、肩口からナイフの先が突き出ているのが見えた。

思わず、痛みを感じて顔をしかめる。


遠くで、サイレンの音。

遠くで、車の行き交う音。

どこかの家が扉を閉めた音。

俺の息の音。

胸に耳を当てると、先生の鼓動が聞こえた。

…どうすりゃいいんだ…

そして、

重い木の板を引きずる様な音。


「…!?」

「あれ?シラさん…先生?…」

「テメェは…」


俺が聞いた音は、オルゼが診療所の扉を開けた音だったらしい。

遠くで聞こえた様に思えたのに。

ヤバイ。

コイツも…


「先生!?!?!シラさん、まさか…」

「チ…ッ」


しかたねぇ、

と、先生の肩に刺さったナイフに手をかけようと…


「抜いちゃ駄目です!出血が酷くなります!」

「…」

「シラさん!」

「!」


首に、ひんやりとした指の感触。


「……」


レイナ先生の閉じていた瞳が、ゆっくりと開いて俺を捉える。


「離れてくださいシラさん!」


オルゼの叫び声と共に、俺は先生から引き剥がされた。

先生が、俺の目の前で、苦しそうに倒れる。

だって、

だってよ、でも。


「シラさん…先生を、殺そうとしましたね」

「…ああ」

「今先生は、貴方の分身になっています」

「え?」

「貴方の狂気をコピーしてしまったんです。触ったでしょう先生に!」


ドン。

異音に振り向くと、先生の身体が床に、

…まるで物が落ちるかのように…倒れる瞬間だった。


「…おい、先生!しっかり…」

「気絶しています…貴方さえ、いなければこんなヒドイ事には…」


やけに冷静…じゃねぇかよ。

オルゼは、その冷静な声で、しかし震える手で、診療所の電話からどこかに連絡をとっているようだった。

俺は診察室に取り残されたまま。倒れたレイナ先生と共に。

コピー、って、なんだ?

そんな事って、出来るのか?

生きてるのか?

触るなって、一生懸命俺に言っていた。

先生は何度も言ってた。

そんなよ。

そんな…そんなんで、つらくねぇのかよ。


そんなところで、一人で倒れてて、寒くねぇのかよ。寂しくねぇのかよ。


近寄って、座りこんだ。

血の染みに手をかけると、生暖かい。

指についたそれを舐めてみると、指先の血は既に冷たくなっていた。

あんた自身に聞きてぇよ。

先生。

あんた。

寂しくねぇのかよ。


「すぐに、救急車が来るから…シラさんも来て、頂けませんか…」


オルゼのその言葉に、無言でうなずく。

警察を呼ばれたんだろうか。

そんなもの、逃げちまえばイイ。いつだって逃げられる。そう言う自信がある。


戻ってきたオルゼにばれない様に、先生の指を握り締めた。

先生を背にして座って、後ろ手でぎゅっと握り締めた。

触っちゃイケナイなんて、俺が言う事聞くとでも思ったか。

生きてろよ。

死ぬなよ。

なんども心の中で、指先で、そう繰り返した。



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