4話 空には水色
第6ステーションでの仕事も今日で最終日になる
最終日だというのにピリオドの心はここにあらず、昨日事を思い出していた。100年歌姫のパフォーマンス。今までは特に気にした事もなかった、画面越しで見た事もあるが自分とは違う世界すぎて興味の対象にならなかった
しかし昨日、本物を目の前で見るとやはり心に来るものがあったアンドロイドが歌う歌は全て一緒だと思っていたが、昨日のは違った自分もそうなりたい。一瞬思うがすぐに諦める自分は日陰の存在どこの誰かに訳もわからないまま狙われている、そんな状況で人前に出る事など自殺行為でしかない
せっかく生きているのだ記憶は無くとも今もそれなりに楽しい事もある夜のドライブも好きだし、数は少ないが知り合いもいる。だがたまに鼻歌くらいは歌ってみてもいいかとピリオドは考えていた
ピリオドがぼーっとそんな事を考えている間もコンマが確実に仕事をこなすので仕事に不備はない
最終日の仕事も終わり椅子に逆に座ったバンマスに呼び止められる
「ピリちゃん1週間おつかれー。どう?うちでずっと働く気になった?」
今日の髪型はゲーミングリーゼントのバンマスがいつもの質問をしてくる
「今は無理そのうち気が向けば」
「まぁそうだよねー。気長にまっとくよ、それでさこれは俺の趣味なんだけど1曲歌って?」
沈黙を返すピリオドだったが
「歌ってくれたらボーナスでるよ?」
普段なら絶対に頷かない、しかし今は金欠だバイクの為にお金は必要なのだ
「額は?」
そこで提示された金額は破格だった1週間の給料の半分のになる額だ。何故こんなに?と思案するピリオド
「言ったでしょ趣味だって。色んな人の歌を聴くのが好きなのよ、それが上手くても下手でも、思い出に音が付いてれば記憶にも残りやすいしね、俺の為だけのコンサートってわけ、どう?贅沢な趣味しょっ」
背に腹は代えられないそれに目立つわけでもない見るのはバンマスのみ。溜息をつくとピリオドは舞台へ上がる
舞台に上がったピリオドはその景色を見てなんだか懐かしい感じがした、もちろんピリオドが舞台へ上がったことも人前で歌ったことすらなかった。もちろん嫌な気がしたわけではない少しだけわくわくしている自分が居たことに気づいたのは地上に戻ってからだった
客はバンマスだけボーナスも出る100年歌姫に影響された事もあり全力で歌ってみようと思った
そしてピリオドは歌い始める曲は仕事中になんとなく覚えた曲だった
バンマスはピリオドが歌い始めると上手いと思った、曲自体は今まで何度も聞いたことがある曲だ、そしてサビになると鳥肌が立っている自分に気づく今までこの曲でそんな事になったことはなかった逆に座っていた椅子を押しのけて立ち上がりその歌に聞き入った
ピリオドは歌う仕事で聞いた曲の中でなんとなくいいなと思った曲を、歌い始めると思っていたよりも楽しかった。聞いてくれてる人がいるたった一人だけだがそれは今までにない感覚だった、高揚、興奮、解放、今はどんな感情だろうか。
感情が膨れ上がり歌にはますます力が入る。最初から本気では歌っていた、感情に引っ張られどんどんと楽しくなってくる歌う事が快感になってくる
2回目のサビでピリオドの周りを緑に淡く光る粒子が発生して包み込んで行く、その粒子は次第に広がっていくと同時にピリオドの体も熱くなっていく
そんな中ふと目に入ったバンマスの隣の机の上に転がっているコンマが警告色を出していた、そしてピリオドも何故かこのままではまずいと思い歌を途中でやめる
「あれなんでやめちゃうの?それにしてもいつの間に演出も仕込んだのすごかったよ!歌もカッコよかったよ!見てよこれ鳥肌たちゃったよ」
そういって袖をまくって腕を見せて来る
「ボーナスはここまでこれ以上は別料金」
オーバーヒートしそうな体をなんとか誤魔化し余裕を見せてピリオドは返した
その後もしつこく食い下がられたが給料だけ受け取り足早に退散する、途中でやめたのに律儀にボーナスは言われた通りの額が入っていた。ありがたい思いと最後までできなかった申し訳なさでいつかまた機会があればその時は無料で最後まで歌おうと思う
ふらふらになりながらホテルに帰ったピリオドは自分の体を冷やす為に風呂場での診断機能を使う、そこには異常なしの表示がされる故障かと思いコンマに機材を検査してもらうが異常はなかった表面温度は38度内部も40度とアンドロイドとしては一般的な熱量だった
熱で思考力も低下しているのか考えが纏まらない。とりあえずシャワーを冷水で頭から浴びるが暑さはは消えなかった風呂から上がるがそのままひどい疲労感に襲われて眠りについた
次の日、目覚すと昨日の疲労感はスッキリと消えていた
「コンマ昨日のはなんだっと思う?」
「不明、身体的異常ハナシ」
「昨日の緑の光が出た時にコンマが警告色出してたでしょ?あれはどいう警告?」
「メモリーニ該当ナシ当機ハピリオドノ歌唱中ハ沈黙シテイタ」
おかしいコンマは昨日確実に警告色を出していたそれについてコンマ自身が覚えていないと
「ポンコツめ…」
「ソノ言葉ハピリオドノ蔑称」
生意気なコンマを軽く小突くと着替え始める今日は地上に帰る日だ
支度が終わり最後にバンマスに顔を出そうかと思ったがまだ寝ている時間だと思いメッセージだけを残して第6ステーションを後にする
帰りのリニアは乗っている人はほとんどいない、この日は天候が悪いらしくカヨア島への便はもちろん他の着陸場所も天候不良が重なっていた。唯一あるのはキリバス海上都市行きのランチリニアだった
キリバス海上都市は景色は綺麗だが他の主要都市へのアクセスが悪い為、他の場所の天候回復を待つ方が早い場合が多いからだ
人もまばらなリニアの中で座って仕切りを閉めようとしていた時だった向かいから歩いてくる人物にピリオドは目を奪われた、それは100年歌姫だった100年歌姫は通路を挟んだ斜め前の席に座るといつものピリオドと同じように素早く仕切りを閉めた
ピリオドは思う何故こんな一般席に100年歌姫が乗っているのか?あんなVIPが一般席に座るわけがない…
一旦仕切りを閉めて考える、人違いかもしれない、でも本物だと思う。声を掛けようかどうしようかと迷う、割とミーハーなピリオドだった
そんな事を考えているとリニアはキリバス海上都市に着いてしまった、少し残念だと思い仕切りの中で他の客の足音が聞こえなくなるまで待つ、客の足音が聞こえなくなると仕切りを開けて出口に向かうが同じように一人残っていた、100年歌姫だった
「あっ」
ピリオドは思わず声を出がてしまうがその後なんと声をかけていいかわからず顔を伏せて出口に向かう
出口に向かうと入れ替わりに入ってこようとしている人が居た、それは武装した人間だった手の甲には対アンドロイド用の衝撃増進装置、体に沿うような骨組みだけのパワードスーツ装備していた
襲撃だと思い構えを取ろうとした時、肩にトンッと何かが触れるその後すぐにピリオドの頭上を水色が過ぎ去って行く
100年歌姫が入り口付近の襲撃者の顎を回転しながら蹴りで捉えるとガクンと二人は崩れ落ちたその後、外に居た5人も顎への一撃で落としていく、襲撃者をあっという間に制圧してしまった
歌姫はクルリと向き直りスカートを軽く手で払う
「巻き込んじゃってごめんなさい怪我はない?」
「はい、あ、あの100年歌姫さんですよね?」
「あらバレてた」
歌姫は少し恥ずしそうに頬を掻く
「一昨日のライブ見ましたサイン下さい」
咄嗟の自分の発言に驚く、言ってしまったものは仕方ないものの色紙なんてもってもいない。書きやすそうな物を探すが目に着いたのはコンマのみ、ちなみにこの時代の服は防汚処理がされているので書くことはできない、電子サインと言う物もあるが人によっては嫌う人も居た
目を泳がせて何かを探すピリオドを見て歌姫は自分の荷物の中から色紙を取り出しスラスラとサインを書きながら話してくれる
「そうあの中に居たんだね、あれは私のストレス発散なの」
「音楽で何かを感じたのは始めてでした」
「それは嬉しいね。それとさっきは何色だった?」
「綺麗な水色でした」
「やっぱり見えたんだね目がいいね」
歌姫も自分で聞いておきながら少し赤くなっていた
「あっ」
「それと私はアルファできればお仲間にはそう呼んで欲しいな」
書き終わると色紙をピリオドに渡し、1秒で12回の高速ハンドサインをする意味は私も仲間、その行為はアンドロイドを証明する行為でもあった
「なんでわかったんですか?」
「さっきあなたの肩を借りたでしょ、その時かな人だとあの衝撃は崩れ落ちるからね」
「そうなんですか、あっ私はピリオドです」
「ピリオドちゃんねよろしく」
アルファはピリオドに手を差し出し握手を求める
服で手を拭い握手に応じる
「ふふっ人みたいだね、殺菌抗菌機能あるでしょ」
「そいえばそうですね」
テンパってしまって自分は何をしているんだろうとピリオドは思う
「今日の事は出来れば秘密ね、過激なファンに困ってるなんてあまり知られたくないしね」
あれを過激なファンで終わらせていいのか、装備的には対アンドロイド用の重武装だった。ピリオドだって勝てるかどうかわからない
「機会があればライブにも来てね、それじゃまたね」
軽くウィンクをしてアルファは去って行った
帰りの列車の中でピリオドは今回の事を考えていた。確かに歌には何か動かされる物もあったしかしそれは普段と違う環境で仕事をしたからそれに感化されたのだろうと、やはり自分には自分の生き方がある元の生活に戻れば今回の気持ちも薄れていくだろう、それでも今回は今まで気づかなかった自分に気づけた有名人を前にしてテンパるなんて意外と自分はミーハーなのだと感じた
アルファにもらった色紙を眺めるとそこにはアルファのサインと共に《水色のアルファより》と書いてあったファンサービスの一環だろう。一瞬赤くなった顔を思い出し近くでライブがある時は行ってもいいかなと思えた自分、今回の一番の変化だと思う
そんな事を考えていた帰りの列車で嬉し恥ずかし気分のピリオドを絶望に叩き落すメールが届いた




