3話 100年歌姫
ピリオドがバイクを破損してから二日後、重い足取りで仕事場に向かっていた。スクーターも扱いやすく気軽に使えて悪くはないがやはり自分のバイクが恋しい。そして後日見せられるであろう請求書を思うと余計に足取りが重くなるがその為にも稼がなくてはいけない、だがその為の相棒は今は修理中なので単価の安い仕事をするしかなくなっていた
「仕事は?」
バーに着くとマスターの後姿を見て話しかける。バイクが無くなった事は連絡済み、探すから1日待てと言われて今日になった
「探したが今のピリオドに出来そうなのはこれくらいだな」
マスターが画面に6件表示させる、2件は大人の店でのサービス、2件はウェイトレス、1件はカジノの用心棒、人前になるべく出たくないピリオドにとってはこの5件は即却下だった
残った1件に目を通すそこにはライブ会場の裏方と書かれていた
「どうだ?」
「この5件の意図は?」
最初に目を通し5件はピリオドなら絶対に受けないだろう内容だ、マスターがわざわざ用意するにはそれなりの意図があるはず
「一応探しましたよってポーズだよどうせ選べるのは1件だけだろう?その1件も友達の依頼だからな選びやすくしてやっただけだよ」
「場所と期間は?」
「期間は1週間場所は…」
そういうマスターは指で天井を指していた
マスターに依頼を受けてから3日後ピリオドはマルク諸島のカヨア島に居た
ここからランチリニアで宇宙へ向かう。ランチリニアによって今やカヨア島は世界でも屈指のリゾート地になっていた。昼に行動することの少ないピリオドはその賑やかさを眺める事も無くランチリニアへ乗り込んだ
21世紀後半軌道エレベーター計画が立ち上がるがその費用と既得権益とテロの危険性でとん挫した。理論上は可能であってもそれを潰すのは人間だった
変わりに発達したのが22世紀初頭に発見された重力を緩和する技術だった。費用も安く既存のリニア技術と組み合わせて気軽に宇宙に行ける手段としてランチリニアは発達していった
今では新幹線の東京ー大阪間の料金程度で気軽に静止軌道衛星上までは行ける、そこから先、火星と月へはそれぞれ料金は上がるが比較的安価で行けるようになっている時代だった
昼なのでフードを深く被るわけにもいかずピリオドは仕方なく帽子を深くかぶって席に着くと隣との仕切りを早々に閉め人に見られないようにする
モニターを付けて適当なニュースを流すとそのまま静かに出発まで待っていた
ランチリニアが時間になり出発をする。体で感じる負担はエレベーターくらいだ
ピリオドは窓から小さくなっていくカヨア島を眺めていた
目的地は静止軌道衛星上にある第6ステーション。規模は台東区くらいの大きさでステーションの中では3番目に大きな場所、カヨア島からだいたい45分程度のフライトだ。リニア区間が終わり無重力区間が始まると速度はゆっくりになったように感じる
そのゆっくりした時間の横で流れるニュースはフェムトファイバーの次の素材が新発見され今度こそ起動エレベーターが出来るかもという200年以上前から使い古されたネタだった
そんなニュースを聞き流していると目的地である第6ステーションに着く
第6ステーションに入るとそこはカヨア島に負けず劣らずの賑わいだ、こちらの方が狭いので人口密度も高い。もう一つ違いがあるとすればそれは道が狭い事、物資は地下の搬入路から運ばれているので道は人が歩く為だけにあるので道幅は狭い明るさは地球の昼間と同程度、申し訳程度に見える空は宇宙だ
24時間宇宙が見えて眠らないステーションそれが第6ステーションの謳い文句だった
ここまで人が多いとピリオドを気にするものはいない。皆自分の目的に向けて一直線に動く、念の為帽子を深く被り直しピリオドはマスターに言われた場所に向かう。ステーションの中心からは少し外れた娯楽街に立ち並ぶ雑居ビルの中でも少し大きめの場所にあった
ビルの最上階に向かうと出迎えてくれたのは色が虹色に変わるゲーミングアフロの派手な男だった、年齢はマスターと同年代だと思われるがこちらの男の方が活力にあふれているのでマスターよりも若い印象を受けるかもしれない
「ピリオドちゃんねー、あいつから聞いてるよー、自己紹介いる?ここじゃバンマスで通ってるからそれでよろしく」
マスターが話を通してくれていたのだろうこちらの事は深く聞かずそのまま仕事の話をする
やる事はライブ会場での裏方、照明、音響の設定、天井の開閉、舞台の移動に会場の監視と多岐に渡った。試しにと渡されたプログラムを流していく主にコンマがだピリオドはコンマに手を触れてやってるふりをするだけだった
「あいつが紹介するだけあって完璧に近いね、まぁ本番はその場の雰囲気で急な変更入るかもだけど明日からよろしくねー」
マスターから聞いた話だと専属の演出職人がいるらしいがその人がバカンスに1週間出るらしくその代理だった、運び屋に比べると安いがそれができないピリオドにしては1週間で悪くない金額だった
面接と試験を終えるとマスターには観光でもしてこいと言われたが人混みが嫌いなピリオドはそそくさとホテルへ帰る
24時間眠らない町でも一応時間はあってピリオドが働くのは夜の時間帯だった、全てのステーションの時間はグリニッジ標準時に統一されていた
初出勤の日ピリオドは驚いた事が一つだけあったバンマスの髪型が昨日と違ったのだ、それから出勤するたびにバンマスの髪型は変わった、どうやらその日のライブのプログラムに合わせて髪型も変えているようだった
最初こそただ仕事をするだけの時間だと思っていたが、仕事自体はコンマに任せているのでやる事が無く暇だった。仕方ないので特等席とも呼べる場所からピリオドはライブを眺める日が始まった
5日目の仕事を迎える5日間を通じてピリオドは一つの変化があった最初は暇つぶしで眺めているだけだったライブだったが次第に舞台に立つのはどんな感覚なんだろうと思い始めていた、そしてこんな生活も悪くないと思い始めてはいたが正体不明の敵に追われる事がある為そんな生活は当分できないだろうと思ってもいた
そんな事を考えている自分を鼻で笑う今まで考えもしなかった事だ、それなりにバカンスにはなったんだろうと無理矢理自分を納得させる
その日のライブが終わり会場の片付けも終わるとピリオドはバンマスと明日のプログラムの内容の確認をする。終わって帰りに無意識に舞台に目が行くのをバンマス見られていたようだ
「舞台からの景色見てみるか?」
「フッ」
ピリオドは鼻で笑うと首を振ってホテルへ戻った
6日目はちょっとした変化があったライブ中にバンマスが来て
「ちょっと変更お客が一曲歌うからこの曲を掛けてくれ」
ピリオドは疑問に思ったバンマスは自分のライブ会場の雰囲気を大切にしているので簡単には客を舞台に上げたりはしないはずだ。仕事なので言われた通りにはやるが珍しいこともあるもんだとピリオドは思った
会場内にアナウンスが流れる
「今宵の君達は運がいい、ここで俺からのサプライズプレゼントだ!顔は見せれないが美女とだけ言っておこうその歌は至高、そして伝説を目撃するのは今日この場に居た君たち!それじゃ次の曲GO」
バンマスの紹介と共に言われた通りに曲を流す。暗がりから現れたのは顔を隠した女性だそれまでの派手な曲よりは少し大人しいがノリのいい曲だ
その女性が歌い始めると見慣れたライブ会場が世界が変わったかのように思えた実際にホログラムで見える景色は変わっているのだがその空間がさらに広がった感じがした、そのただ1曲にピリオドは衝撃を受けた昨日よりさらに舞台から見える景色が気になってしまった
仕事が終わりバンマスとの打ち合わせを終えるとバンマスが言う
「今日の客どうだった?」
「普通」
今日の客に異常がなかったか聞かれたと思ったピリオドは答える
「そっちじゃなくて飛び入りの方の客だよ」
「あぁ…すごかったずっとあの人に頼めば店ももっと流行ると思う」
「それは無理だな、あの客100年歌姫だからな」
100年歌姫とは一人のアイドルを指す100年間不動の人気を誇り未だに世界を席巻している人物だ。体はアンドロイドだが素体となった人物の記憶と精神を受け継いでいるらしいとの噂を聞いたこともある
今でもその在り方を議論される事もあるが、そのアンドロイドが作らたのはアンドロイド移植法の執行前で体も脳も生体器官は無いためアンドロイドとしての法律が適用されている世界一有名で常に話題を話題を作り続けている人物だった
「そんな人がなんでこんな所に?」
「ニュース見てないのかタイタンからの帰りらしいぞ、それで第6に寄ったんだろう、ウチに来たのは偶然だろ」
「そう」
この時代タイタンから得られる資源は経済の1割を占めている。少し思い返す、ニュースとはタイタン資源基地に慰安へ行きそこでコンサートを開き多くの人を労ったと。ピリオドは聞き流していたためにほぼ覚えていなかったがそんな事を聞いた気がしていた
「今日はイレギュラーにも満点の対応してくれてありがとうな、なんならずっとうちで働いてもいいぞ?」
「平和になったらね」
ずっとうちで働け3日目から言われた言葉だそれまでは即答で無理と返していたがピリオドにも変化はあったのだろう
「平和かそうだな早く平和になるといいな。それじゃ明日は最終日だがよろしくな」
世界は平和だ。今では世界一治安の悪いと言われている国ですら殺人が年間200件あるかどうかだ、そんな中であえて平和という言葉を選んだピリオド
今までは即答で否定されていたが今日は違った。ピリオドの心境的に何かあるのだろうと、そしてその何かが解決した時にはまた勧誘してみようと思った
※アンドロイド移植法
アンドロイドに記憶と精神をコピーして人間として登録する事を認める法案。5年に一回の検査が義務付けられている
※タイタン資源基地
人が行ける最高到達宇宙扱いは南極基地みたいなものただし目的は資源集め




