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26話 デビュー



 ライブの準備を開始してから3日が経っていた


 ピリオドは汗だくになり鏡とカメラに囲まれて踊りの練習をしていた。振り付けはデータで送られて来ているので間違える事はないがその強弱の付け方と完璧が故に綺麗に見えない場所の修正をしていた


「先輩今の箇所、手の振りが早すぎます。前の振りのゆっくり具合を取り戻そうとして早く動きすぎですそんなに早いと大多数の人は見えませんよ」


 ピリオドを見て振り付けを直すのはコンマだった、いつもはマネ子とアルファがいるが今日は定期配信があるため二人はいなかった


「でもここで早く動かないと次の振りに間に合わなくなるんだよ」


「それは先輩が0・0001秒単位で認識してるからでしょそんなの誰も気づきませんよ」


 コンマはAIの癖に人に近い感覚を持っていた


「なんでコンマはAIなのにそんな人間的な感覚を持ってるのよ…」


「そんなの私に聞いても知りませんよ、でもマネ子さんも人に感覚が一番近いのは私って言ってたので今はその感覚を信じてください」


「その感覚共有できないかな」


「それよりも先輩、アルファ先輩の配信が始まりますよ」


 休憩も兼ねてコンマが投影してくれた画面でアルファの配信を見る


 そこにはいつものピリオドが見ているアルファに近いアルファが喋っていた


 今回は足を無くした経緯と次のライブのゲストの話と最近買ったバイクが届いた話をしていた、ゲストの詳細は当日までのお楽しみという事ではぐらかしていたがその内容は確実にピリオドの事だった


 その配信はアルファに負けない歌声と踊りを期待していいと視聴者を煽っている。その言葉を聞いてプレッシャーを感じたピリオドは配信を横目で見ながら踊りの練習を再開した


 そのまま配信が終わりさらに数曲踊っていると配信が終わった二人が合流する


「ピリオドお待たせーしっかりと宣伝してきたよ」


「そんなに宣伝されるとプレッシャーが…」


「ピリオドなら大丈夫なんせ100年歌姫の推しの子だから」


「今からお手伝いキャンセルできません?」


「ダメでーす、ピリオドの歌と踊りが見たいもん」


「これが胃が痛くなるって感覚か、こんな事で人間的感覚を知るなんて…」


 それからは二人が合流した事もあり練習は激しくなっていった


 次の日も練習しようとスタジオに来たピリオドだったがそこには直径5mほどの透明な球体が用意されていた


 アルファは仕事で取材を受けているらしい、今日はアルファと別行動のマネ子が説明をしてくれた


「ピリオドさん今日から無重力で踊る練習もしてもらいます」


 今度のライブは宇宙という事もあり無重力での歌と踊りもする事になる、この球体は無重力を作り出す装置で本番ではこの球体よりさらに数倍大きい物が用意されるらしい


 更にマネ子は体を制御する為のスラスターをピリオドに付ける、靴と手首と腰にスラスターを付けたピリオドは言われた通り球体の中に入る、外でマネ子がスイッチを入れると体が浮き上がる


「そのまま中で静止してみてください、スラスターの調整はコンマさんに任せますので」


「任されましたー」


 言われた通りに球体の真ん中で静止しようとするがなかなかうまく止まれない、球体に頭や腕をぶつけながら止まろうとするがなかなか上手くいかないのでコンマに調整をしてもらう


「コンマもう少し腰のスラスター強くして」


「了解でーす」


 調整を重ねて楽に静止できるようになると次は曲を流して踊りを踊ってみるがやはり重力下と違い思うような動きができなかった、その日は無重力での体のコントロールに苦戦するだけで終わる


 翌日はアルファが合流して久しぶりにほぼ1日一緒にいた、アドバイスをもらいながら無重力での動きとスラスターの細かな調整を重ねていった、アルファのアドバイスもあり練習が終わるころには自由に動けるようになっていった


 今日は一日一緒に居たがここ数日でアルファの忙しさを目の当たりにして尊敬の念を抱いていた、第8へ来てからほとんどアルファと過ごす時間ほとんどなくなっていたのだ


「やっぱりアルファって忙しいんだね」


 練習が終了してから腰を下ろしそう話しかけると


「今まで暇だと思ってたの?」


「いやいつも一緒に居る時は遊びっぱなしだったからさ、こうして改めて見ちゃうとやっぱりスターなんだなって」


「そうだよ、大変なの私だからもっと甘えさせろー」


 そう言ってアルファは車椅子から飛んでピリオドに飛び込んで来て頭をグリグリと擦り付ける、それを見たマネ子ちゃんは


「今はいくらやってもいいですけど表ではやらないように」


「はーい」


 元気いっぱいの返事をしたアルファはそのままグリグリを続けた


「私の意思はどこへ…」


 毎日のようにきつい練習をしていたピリオドだったが本番までの時間はあっという間に過ぎて行った



 ライブ本番の日ピリオドは緊張していた、今まで練習したとはいえ、練習が足りないのではと思っていた。楽屋の中でそわそわするピリオドにアルファは声をかける


「大丈夫、落ち着いて昨日のリハも問題なかったでしょ?」


「でももっと練習したかった…」


「私はステージに立つなら友達でも贔屓はしないよ、ピリオドならちゃんとやれるしお客さんを満足させれると思ったからステージに立ってもらうの、100年歌姫のお墨付きなんだから自信を持ちなさい」


「はい…」


 そう返事をし椅子に座るとアルファが頭を撫でてくれた


 アルファの信頼は嬉しいが落ち着かないものは落ち着かない、ある意味で今日が初めてちゃんとステージに立つ日だ緊張しないわけがなかった


 下を向いて今日の振り付けやら立ち位置とかを考えていると本番の時間になる、ステージ用の衣装に着替えたピリオドはステージ装置に待機した、そこへ先に出るアルファがやってきて


「ピリオドは失敗してもいいから楽しみなさい、今日のステージはあなたの物よ」


 そう声をかけてくれる


 先に出て行ったアルファは一曲目を歌い終わるとMCを始める


「皆今日は来てくれてありがとう、私が万全じゃないからがっかりした人もいるかな?でも皆は運がいいよ今日は新たな歌姫の誕生に立ち会える日になるかもしれないんだから!それじゃ2曲目、新たな歌姫に歌ってもらいましょう曲名は…」


 もう緊張しては居られないアルファの言った通りに楽しむ事を考えるようにした。アルファのMCが終わるとブースにいるコンマから合図が来る


「先輩、行きますよ~。3・2・1」


 舞台装置が開き大きな透明な球体の上から下に落とされる重力緩和装置が起動し地面に落下する前には無重力状態になりゆっくりと着地する、その様子をコンマが制御するスポットライトが追いかける。着地するとしばらくそのまま立ったまま静止しすると観客からの歓声が飛んで来る、その歓声を遮るように会場の照明が落とされて暗闇に包まれると数秒無音の世界になり曲が始まった


 曲が始まってもピリオドはまだ下を向いていた、歌詞が始まる直前に真っすぐ客席を見ると歌い始める。インパクト与えるためにとアルファが最初に用意してくれた曲は歌い出しからサビと言う曲だった


 そのインパクトに観客は熱狂してくれたアルファの狙いは当たったようだ、2曲目もアップテンポの曲で観客を盛り上げて行く


 2曲目に少し緊張が解けたピリオドは観客席を見る余裕が出て来た、球体の中を飛ぶように回りながら観客席を見ると最前線で必死にコールをする拙者とその仲間と思われる一団がいた、ピリオドよりも激しく動いているのではないかと思う一団を見て少し笑みがこぼれる


 そしてその集団の後ろで腕を組んで不愛想に見ているマスターとその横でゲーミングな髪色をしたバンマスが居た、その姿を見たピリオドは嬉しくて思わず手を振ってしまった


 ピリオドが何気なくやった行為で会場はさらに盛り上がる、バンマスは手を振り返してくれたがマスターの反応はなかった、それにもマスターらしいと思い嬉しくなっていく。その後は他のお客には悪いが今日はこの3人に楽しんでもらおうと気持ちが切り替わり思いっきりやる事ができた


 前半部分が終わり後半のアルファのMCでピリオドは衝撃の真実を知らされた


「さてみなさん聞かなくてもわかるけど楽しんでるよね?さて次の曲はなんと今日この日の為に作った新曲」


 次の曲もピリオドはアルファのカバー曲だとばかり思っていた実際に聞いた曲もアルファの声が入っていたのだ、ここでもまたアルファに騙されたような気分になりアルファを糸目になりながら見る


「さて皆そこでこれが新曲だったと知らない人がが不満の目をしていますが皆は聞きたいよね?」


 アルファの煽りによって会場は一気に湧き上がる


「ドッキリも成功した所でそれじゃ聞いてもらおう」


 アルファのその声により曲が始まる、ピリオドにとっては何回も聞いた曲、一番練習した曲でもあった。少し動揺したピリオドだったが練習量も一番多かった為、歌い始めると大歓声が降って来た


 それからもホバーステージに乗り観客の上を飛び回ったり会場に作られたステージの上でアルファの車椅子を押し走り回ったりしてライブは盛り上がった


 最後にアルファとのデュオ曲で〆てピリオドのデビューとも言えるライブは無事に終わった


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