11話 ライブの準備
アルファからの依頼を受けてから数日後、アルファから呼び出されたピリオドはスタジオに来ていた
アルファの踊りを見てどんな演出にするのか意見を出し合う為だ。鏡の前でカメラに囲まれアルファは踊る
その脇には人間のダンサーが二人いた、アルファの寸分の狂いもない踊りと比べると若干のずれがあるが見ていて気にならないレベルだ
3曲ほど踊り終わるとダンサー達は汗だくだった
「ありがとう今日はここまでね」
おつかれ様でしたとダンサー二人は引き上げて行く
ダンサーに比べ薄っすらと汗が滲んでいる程度のアルファは二人を見送ると、置いてあった飲み物を流し込むと汗を拭ってからピリオドの座っていた場所に近寄る
「どうだった?」
「始めて見たけど完璧に見えたよ」
「やっぱりそう見えたか」
アルファは若干残念そうにする。その意味がわからなかったピリオドはアルファに尋ねた
「何かダメだったの?綺麗でよかったと思うよ」
アルファの説明によるとアンドロイドはその動きが完璧すぎるために感情が乗ってもまったく同じ動きをしてしまう、なので会場の盛り上がりに関係なく常に同じ動きになる、その場に合わせて動けるように修正していたと。ダンサー二人は一緒に会場で踊る仲間であり先生でもあったようだ
「完璧な動きだけなら動画でいいのよそうすればずれも無く同じ動きを見れる、でもライブは違う会場の空気によって盛り上がりもあるしその逆もあるそこに合わせて動きに若干の雑味を持たせる事で更に盛り上がるの。今はその為の練習」
「大変なんだね」
「ピリオドも踊ってみる?拘らなければピリオドならすぐ踊れるしデータあげるから」
アルファは言い終わる前に強引にデータが送ってきた、ピリオドは減る物でもないし一曲だけならと仕方なく了承する
曲が始まり踊りだす。曲の1番は気持ちのいいようにアルファとシンクロして踊れていたが2番からは同じデータを使っているはずなのにピリオドとアルファの踊りは若干違っていた。正確性で言うならピリオドの方が上だがアルファの方が躍動感があり楽しく踊っているように見えた
曲が終わるとアルファから新たにデータが送られてきた
「もう1曲いくよー」
そのままなし崩し的にピリオドは付き合うがそれが始まりだった。その後も5曲連続で付き合わされたピリオドは慣れない動作もあり息があがる
「流石にもう無理…」
「ごめんごめん、なかなかこんなに思いっきり気持ちよく踊れる事もないからつい調子に乗ってはしゃいじゃった」
座り込むピリオドに飲み物を渡しながら謝る
「後半の踊りがハードすぎた、あれもライブでやるの?」
「やらないよー楽しくなって踊っただけ、それにピリオドは気づいてないかもしれないけど人間が出来る動きじゃないからライブでやっちゃうと浮くしね」
そんな人間離れした動きの踊りを踊らせないで欲しいと思うピリオドだった
「ピリオドは楽しくなかった?」
ピリオドは悩む…楽しいか楽しくなかったで言えば楽しかった普段自分がやらない事をやってみたのは楽しかったしアルファと踊れた事も楽しかった
「どちらかというと楽しかった」
素直に楽しいと言うと次も何かやらされる気がして警戒してそう答える
「そうかー楽しかったかー」
アルファは言葉の楽しいという部分だけを抜きだしニヤリと笑う
「でももうやらないよ!」
慌てたピリオドは即座に拒否する
「でも楽しかったんだよねー?今度もちょっとだけでいいから」
「嫌です」
「最初だけでいいから曲のさきっぽだけでいいの」
アルファの顔が近寄ってくる。言動も違うニュアンスを含んでいるような気がするが正直甘えられるとピリオドは弱い部類だった
「もう仕方がないな」
ありがとーと抱きついて来るアルファを受け止める、アルファはピリオドから離れるとモードを切り替えてライブの打ち合わせを始めた
ライブ全体の流れの話をした頃ピリオドは気になっていた事を尋ねてみる
「そういえば気になったんだけど今までの演出してた人はどうなるの?」
「あぁそれも私がやってたよ、でも第6での演出見た時に私に無い発想で演出してたのを見てビビっときてオファーしたんだ」
それを聞いたコンマが密かに光る
「そこまでやってたんだ凄いとしか言いようがないよ」
「そう思ってくれて嬉しいよ、やっぱりアンドロイドだから出来るんだろうとか一杯言われてきたからね、確かにそれはそうなんだけどそれでも努力はしてたんだ、素直に褒められると嬉しいよ」
えへへと照れるアルファを見て可愛いなと思うがその両肩にすごく沢山の物が乗っているんだろうとピリオドは感じた
「それでねピリオドには演出の都合上話しておかなきゃいけない秘密もあるんだ…」
アルファは姿勢を正して言う
「私の噂聞いたことある?」
「どれの事いっぱいあるんですけど…」
「素体となった人物の記憶と精神を受け継いでいるって話」
「聞いたことあるかも」
アルファの説明によると素体となった精神と記憶はあるがそれは人格としてではなくデータとしてあるらしいそれも100人分以上
「私の記憶の原点は元々ただのアバターだったの」
21世紀末期アイドル活動をする人たちはVtuberの流れからアンドロイドをアバターとして使うようになる、歳を取らない容姿端麗、実際に会える握手も出来る、ハグも嫌悪感無くしてくれる、不埒な真似をすればそのアンドロイド自体が制圧できる、そういった要素から世界中で流行って行った
その時に活動していた人の人格とデータを秘密裏に集めていた機関があった、大本の目的は医療系に生かす為とか人と精神の研究の為といった名目だった
しかし素体となる人はやはり人なので結婚による引退、不祥事等色々かさなるとその中で人に依存しない最強アイドルを作ると言う名目で秘密裏に活動していた組織が出来た元々はただのオタクの妄想だったがそこに資金が投入され開発されたのがアルファだという事
「私の素体のデータは100人以上あるけどその中で特にアイドルへの思いが強い子…もう一人の私それが私の素体になった人…でも私はその人の思いは受け継いでいるけどその人ではない」
少し悲しそうに語るアルファ
「でも私は私。アルファが私、その子の情熱はライブをする上ですごく助かってる、でもその子と私の違いは、その子以上のパフォーマンスが私にはできる他の人の記憶も体の動きも良いところだけを収縮してと居れることができるのが私、だから私はライブ中に色んな声で沢山のパフォーマンスができるの」
「そうなんだ」
「バレたらまた色んな所の取材で煩わしくなるからどこにも話してないの。でも演出してもらう上では必要だったから話したの」
「私とは真逆だね、私には何もない、だから悩んでる、でもアルファは沢山の人の思いの上で悩んでる」
ピリオドは少し自分の話をした。秘密を話してくれたアルファに答えたくて
「ピリオドも苦労してるんだねぇ」
「お互いただのアンドロイドなのに苦労が絶えないね」
お互いの話をして一頻り笑いあった後にはお仕事の話をする
アルファが歌う曲毎にその歌の元となった人物の思いとその人がしたかったパフォーマンス等を説明してくれるこの時はこういう演出をしてほしい、この子はこういう演出が好きだけどこっちの演出もありだと思うとアルファが言うと、それならこうしたらどうだとコンマでカンニングしながら答えていく
二人にとってこの日の話はとても楽しくピリオドにも本当に友達が出来たんだと感じる事ができた
二人の話は空が明るくなるまで続いた




