第0話 バケモノ
物心ついた時にはもう私の居場所はどこにもなかった。
周りの人にお前はバケモノだと言われた。
そう言われても仕方がなかったと思う。
両親ともに日本人なのに私の容姿はまるで外国人のようで、それでいて男なのに可愛らしいものが好きな変わり者。
仕方がないと思っていた。
そんな私が学校に入っても居場所なんてできるわけがなかった。
毎日、毎日いじめられる日々。
机のラクガキ。
机に置かれた花瓶。
ぶちまけられたバケツの水。
飛び降りようとした学校の屋上で
私は彼女と出会った。
とても素敵な女性だった。
私のように日本人でありながら外国人のような見た目の女性だった。
彼女と過ごしていると辛い事も忘れられた。なにより、彼女は私と違って強かったから、私の事を守ってくれた。おかげで私に酷い事をする人はいなくなった。
いつからか、私は彼女に惚れていた。
彼女と交際を始めた。
学校を卒業して結婚もした。
子供も生まれて幸せな日々だった。
ずっと続けばいいのに、とそう願ったのに…
どんなに夢を見たところで、世界は残酷で、私に牙をむいてきた。
10月19日。私の誕生日に家族三人で外食をした帰りの事。
私は仕事で呼び出されてしまい、妻と1歳になったばかりの子どもには先に家に帰ってもらうことにした。
会社に行き、仕事もひと段落ついたところで妻から電話がかかってきた。電話に出ると、妻は泣いていて、半ばパニックになっているようだった。私は妻を少し落ち着かせてから話を聞いた。
「子供が死んでしまった」
妻から発せられた言葉を私はすぐに理解できなかった。
妻は続けた。私と別れ家に向かっている途中で変な男にぶつかられ、その際に子供を乗せたベビーカーを持っていかれてしまった。急いで追いかけるも、男は階段まで行き、ベビーカーを階段から落とした。男はどこかへ逃げたが、妻は男より子供を助けることを優先して子供の元へ急いで向かうが、そこでは子供が血を流してぐったりしていた。
急いで病院で診てもらったら、すでに死んでいた、と妻は説明した。
妻は何度も謝ってきた。妻はなにも悪くない、悪いのはその男だ。
私はすぐに病院へ向かおうと会社の外に出た。その刹那、会社が爆発した。私は爆風に飛ばされ、気絶した。
数分がたっただろうか?それとも数秒程度だろうか?意識が戻り、痛む体を無理やり動かしながら周囲を見渡した。
会社はもちろん、他の建物も爆発したのか、倒壊し、炎の海に包まれていた。会社には友人も居たが、助かったのは私だけだろう。ただ、悲しんでいる暇はない。急がないと炎に包まれてしまうのも時間の問題だ。多少あばらにヒビが入っている感覚はあったが、無理やり病院まで走った。
病院に着き、妻と合流した。妻は私がボロボロになっているのをみて驚き、心配してきた。だが今は一刻も早く子供に会いたいので会わせてもらうことにした。
その後、私もすぐに治療を受けさせてもらった。やはり骨にヒビが入っていたようだ。
日付が変わり、10月20日になった。いまだに現実を受け入れられずにいる。
我が子が死んだこと、仲の良かった人たちが死んだこと。
妻とはなにもしゃべることができなかった。ただただ無言で時間が過ぎていく。窓を見ると、消化されたのか、ただの瓦礫となった会社がちょうど見えた。
そんな中で喋りだしたのは私でも妻でもなかった。
「おはよう」
さっきまで誰も居なかった空間に突如謎のフードをかぶった男が現れた。