十一
うつむくクリスの前に、四つ折りされた紙を差し出された。
「まず、これを読め」
広げると、それは鑑定書のプリントアウトだった。
――レット・ブランディワインが、クリス・バーキンの生物学的父親である確率はかなり高い。総合親子指数は三二万三九九七(事前確率を〇・五とし父子確率は九九・九九九パーセントに相当する)……。
クリスは息を呑んだ。そして、当然の質問を口にする。
「……レットって、誰?」
「生物学的な父親だ。お前だけじゃなく、俺にとっても」
ユージンがいかにも不本意そうに答えると、クリスの隣でセイラが驚いた声を上げた。
「あなたたち、異母きょうだいってこと?」
「でも、この人、年が……」
クリスは鑑定書に、疑問と視線を落とす。
レット・ブランディワインは、現在の年齢五十四歳となっている。十二年前は四十二歳。
男については多少目利きだった母親が、いくらなんでも四〇代の中年男と二〇代の若者を間違えるはずがない。
「あいつは、十八の頃からクリッパーとしてずっと、金持ち相手のぼったくり延命用亜光速船に乗ってるんだよ。今はかの有名なエーオース号の船長だ。法的にはともかく、フィジカルには十年に三つしか年をとらない。つまり、お前の母親と知り合った当時のあいつの肉体年齢は二十五歳。計算は合うだろ」
「うそ……」
「嘘じゃない。ちなみに現在の肉体年齢は三十。俺より若いときてる」
言い方がきつくて、やはり怒っているようにしか聞こえない。
「……怒ってる?」
ユージンはそれには答えず、「ヴィターレさん、覚えてるか?」と尋ねた。
「昨日の弁護士の人……」
初対面のクリスの頭を、妙に親しげになでた。まるで、昔から知っている親戚の子どもにでもそうするように。その感触を思い出す。
「あの人とレット・ブランディワインとは学生時代からの友だちで、何か法的な問題が持ち上がれば彼が対処することになっている。俺も十六年前に世話になった。昨日、うちを出た彼とエセルがどこに向かったと思う?」
「ここ?」
エーオース号はずっとラグランジェ国際宇宙港に停泊していた。その船長ならば、ずっと船の近くにいたのだろう。
「そうだ。恐らくお前の父親は、レット・ブランディワインだろうと俺は考えていた。だから、あいつとの鑑定も併せて依頼していたんだ。鑑定結果が俺の予想通りだったら、今日の午後、お前たちを会わせることになっていた」
「ちょっと待って。エーオース号って、さっき出港していかなかった?」
セイラが口を挟む。
「そうなんですよ。ちょうど僕たちの宇宙船と入れ替わりに、あっちはドッグに向けて出港していったんですけど、管制との発着港のやりとりの間に、私用通信では血も凍るような応酬が……」
やっと息が落ち着いてしゃべれるようになったトーマスが、体を起こしながら答える。それを遮って急かすように、搭乗開始のアナウンスが流れた。
五三番と書かれたゲートをくぐり、乗客たちは続々とポッドに乗り込んでいく。
「クリス、聞いてるのか?」
「聞いてるよ……」
怒気をはらんだ声で凄まれて、クリスは他の乗客たちと一緒にゲートをくぐってポッドに逃げ込みたくなってきた。
ポッドへの通路入り口に立つ女性乗務員と目が合う。「どうするの?」と問いかけるように彼女はクリスに微笑んだ。ターナソルに帰るならもう、時間はない。
「結論から言えば、逃げやがったんだあの男は! お前に会おうともしないで!」
ユージンの口調は苛烈を極めた。しかし次の瞬間、差し出された彼の右手とともに、穏やかなものに転じる。
「お前のことは怒ってないよ。だから、一緒に家に帰ろう、クリス」
青い月は、金色に変わった。
ならば、答えは決まっている。




