九
ターナソルのような辺境の惑星行きのポッドは、人より貨物の方が多い。エリアFの五三番ゲートの待合室は、あまり混んではいなかった。
ポッドへ渡る通路前のゲートでは、客室乗務員が集まって搭乗手続きの開始準備をしている。
空いている席をみつけて、セイラとクリスは並んで腰を掛けた。
「ああ、先に渡しておかなきゃ」
座ったばかりのセイラが急に立ち上がった。右手をポケットに突っ込んで取り出したのは、シンプルなコイン型のキーホルダーが二つ。どちらも鮮やかなメタリックブルーだった。
「やっぱり、どっちがどっちだかわかんないわ」
再び座りながら、セイラは片方の円の下についている突起を押す。流れ出した小さなメロディには、聞き覚えがあった。
「『ペーパームーン』……」
「こっちだったのね」
はい、と指にひっかけた青いキーホルダーが、クリスの前に突き出される。
「ほんとは好きなんでしょ。この曲」
「うん。でも、この曲が好きなのはユージンだよ。オレの端末に彼から着信が入るとこれが流れるんだ。彼が選んだの」
「そうだったの。じゃあ、着信と同じ曲もなんだからこっちをあげる」
セイラはもう一方を差し出してきた。
「ありがと」
クリスはそれを両手で受け取る。青いコインが手のひらに転がった。
セイラは妙に嬉しそうな顔で、目の前にぶらさげたもう一つのキーホルダーの奏でる『ペーパームーン』を聴いている。クリスの端末に入っているものとは、本当は歌手が違ったのだが、そこは黙っておくことにした。
「こっちは? なんて曲?」
「『ブルームーン』。恋人ができるお守りにならないかと思って!」
妙に力が入った言い方をする。
「そういう歌なの?」
意外そうなクリスに、セイラは自分のキーホルダーのスイッチをもう一度押して曲を止める。
「『ブルームーン』って、私も最初は失恋の歌かと思ってたのよね。聴いてみて」
言われたクリスがスイッチを押すと、ゆったりしたリズムに乗って、女性の歌声が聞こえてきた。
歌詞は店で読んだ通りだが、想像していたよりずっとロマンチックな曲だった。
ブルームーン
あなたは一人でたたずむ私を見ていた
この胸には夢もなく、愛する人もいない
ブルームーン
あなたは知ってた
私がなぜここにいるのか
あなたは聞いてた
だれかのために生きたいという、私の祈りを
すると突然だれかが現れてささやくの
ずっと抱きしめたかったただ一人の人が
「どうか側にいて」と
そのとき、青い月は金色に変わる
ブルームーン
もう私はひとりじゃない
夢も愛もない私じゃない
「ブルームーンって、ひと月に二回の満月があるとき、その二回目の満月のことを言うの。滅多にない。でも、実際に『ある』の。だから『青い月』には奇跡の意味もあるのよ。……ね? 恋人ができそうな曲でしょ?」
同意を求めてセイラが笑う。そのまま、紺色のジャケットの肩が近づいてきたと思ったら、クリスは抱きしめられていた。
「だから、きっとあなたも、きっといつか一人じゃなくなるときが来るから」
微かに震えて、恐らく涙をこらえているであろう細い肩を、ぎゅっと抱き返しながら、クリスは頷く。セイラには見えなくても。




