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緑の冠【改訂版】  作者: 黒木露火
最終章 ブルー・ムーン
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 ターナソルのような辺境の惑星行きのポッドは、人より貨物の方が多い。エリアFの五三番ゲートの待合室は、あまり混んではいなかった。

 ポッドへ渡る通路前のゲートでは、客室乗務員が集まって搭乗手続きの開始準備をしている。

 空いている席をみつけて、セイラとクリスは並んで腰を掛けた。

「ああ、先に渡しておかなきゃ」

 座ったばかりのセイラが急に立ち上がった。右手をポケットに突っ込んで取り出したのは、シンプルなコイン型のキーホルダーが二つ。どちらも鮮やかなメタリックブルーだった。

「やっぱり、どっちがどっちだかわかんないわ」

 再び座りながら、セイラは片方の円の下についている突起を押す。流れ出した小さなメロディには、聞き覚えがあった。

「『ペーパームーン』……」

「こっちだったのね」

 はい、と指にひっかけた青いキーホルダーが、クリスの前に突き出される。

「ほんとは好きなんでしょ。この曲」

「うん。でも、この曲が好きなのはユージンだよ。オレの端末に彼から着信が入るとこれが流れるんだ。彼が選んだの」

「そうだったの。じゃあ、着信と同じ曲もなんだからこっちをあげる」

 セイラはもう一方を差し出してきた。

「ありがと」

 クリスはそれを両手で受け取る。青いコインが手のひらに転がった。

 セイラは妙に嬉しそうな顔で、目の前にぶらさげたもう一つのキーホルダーの奏でる『ペーパームーン』を聴いている。クリスの端末に入っているものとは、本当は歌手が違ったのだが、そこは黙っておくことにした。

「こっちは? なんて曲?」

「『ブルームーン』。恋人ができるお守りにならないかと思って!」

 妙に力が入った言い方をする。

「そういう歌なの?」

 意外そうなクリスに、セイラは自分のキーホルダーのスイッチをもう一度押して曲を止める。

「『ブルームーン』って、私も最初は失恋の歌かと思ってたのよね。聴いてみて」

 言われたクリスがスイッチを押すと、ゆったりしたリズムに乗って、女性の歌声が聞こえてきた。

 歌詞は店で読んだ通りだが、想像していたよりずっとロマンチックな曲だった。


  ブルームーン

  あなたは一人でたたずむ私を見ていた

  この胸には夢もなく、愛する人もいない


  ブルームーン

  あなたは知ってた

  私がなぜここにいるのか

  あなたは聞いてた

  だれかのために生きたいという、私の祈りを


  すると突然だれかが現れてささやくの

  ずっと抱きしめたかったただ一人の人が

  「どうか側にいて」と

  そのとき、青い月は金色に変わる


  ブルームーン

  もう私はひとりじゃない

  夢も愛もない私じゃない


「ブルームーンって、ひと月に二回の満月があるとき、その二回目の満月のことを言うの。滅多にない。でも、実際に『ある』の。だから『青い月』には奇跡の意味もあるのよ。……ね? 恋人ができそうな曲でしょ?」

 同意を求めてセイラが笑う。そのまま、紺色のジャケットの肩が近づいてきたと思ったら、クリスは抱きしめられていた。

「だから、きっとあなたも、きっといつか一人じゃなくなるときが来るから」

 微かに震えて、恐らく涙をこらえているであろう細い肩を、ぎゅっと抱き返しながら、クリスは頷く。セイラには見えなくても。

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