六
昼を過ぎてクリスがいないことに気づいたトーマスは、家中を探し回り、ダイニングテーブルに残されたメモと自分の端末を見つけた。メモには子どもらしい字が丁寧に並んでいて、クリスがどんな気持ちでそれを書いたかを考えて、トーマスは胸が痛んだ。
すぐに、クリスの端末へと連絡をとってみる。
数回の呼び出しの後、耳障りなアラームとともに表示されたメッセージは「このユーザーは当該エリアから移動しました。移動先へメッセージの転送を行いますか?」というもの。
「月の門を出てしまったのか」
慌てて着信履歴を調べると、セイラから何件か連絡が入っていた。クリスがターナソルに帰るというので、宇宙港まで付き添うという内容で、最後のメッセージは、これから宇宙港行きのシャトルに乗り込むというものだった。
セイラの端末も呼びだしてみる。案の定、クリスと同じ「当該エリアから移動しました」という表示が出る。
次に、ラグランジェへのシャトルと、ターナソルへのポッドの時刻表を確認しつつ、ユージンの端末を呼び出す。予想通り、留守のメッセージが流れた。
ユージンが連れていかれたのがUNNのどこかの部署なら、端末の持ち込みは禁止されており、入口で預かりとなる。どこに行ったのかがはっきりしていれば内線を取り次いでもらうこともできるのだが、突発の仕事のせいか未だ契約書は未着で、それもわからない。
強引に連行された経緯から考えて、ユージンが直接請けた仕事ではない。となると、元凶は一人しかいない。
その元凶――アリスを呼び出すと、彼女はブランチの途中だった。カフェらしい背景を、黒い前掛けをつけた給仕が横切る。食事は既に終わっていたらしく、仕上げのエスプレッソがカメラの端に映っている。
緊急の旨を伝えて、ユージンの行き先に連絡をとってもらう。二分後、コールバックがあった。
「結論から言うと、もう仕事が終わって退出したそうよ。あたしの予想の一時間も前。我が弟子ながら恐ろしいわ」
小さな端末の画面の中で、アリスは肩をすくめ、大げさに両手を広げてみせた。
「あなたの予想は何時だったんですか?」
「一三時よ。UNNの専用車を借りて飛ばせば、一四時には帰り着けるでしょ。車の手配までちゃんと契約には入れといたわよ」
わがままで奔放に人を振り回しているようで、その実、きっちりと相手の力量を計っている。もし間に合わなければ仕事を引きつぐつもりで、アリスは早めの食事を摂り、備えていたのだろう。
師弟揃って、そういうところはそっくりだった。いつでも手の上で踊らされているようで、トーマスはそれが少しだけ癪に障る。
「その契約書がまだこちらに転送されてないので、緊急時にもかかわらず連絡がとれなかったわけですが……。その件は、まあいいでしょう。それで彼は今どこに?」
「あなたのパパのオフィスに呼ばれて行ったそうよ。ここから先はあなたの仕事ね、ディー」
アリスはトーマスのことをディーと呼ぶ。IDのディーダマス――十二使徒の一人、不信のトマスからだった。
「どうして父のところに……」
トーマスの問いには答えず、ウインクとともに通信は切れた。
どうにも気にくわない組み合わせだ。とはいえ、連絡をとらないわけにもいかない。




