一一
――父子鑑定報告書
――結論、ユージン・ブランディワインは、クリス・バーキンの生物学的父親ではない。
――複合遺伝システムの結果、ユージン・ブランディワインは、クリス・バーキンに対し父性由来すべきDNAが確定値以上存在しないため、……。
「うそ……」
何かの間違いであってほしい。落とした端末を拾い上げ、何度見直しても、結果は変わらない。
「生物学的、父親、ではない……」
悲しくて、苦しい。喉の奥に熱い固まりがこもって、それがどんどん大きくなってくる。その熱を逃そうと、クリスはあえぐように口を開ける。出てきたのは、自嘲するような笑い声だった。
ユージンはクリスを自分の子どもだと思いこんでいる。そうでなければ、ここにいてくれなんて言うわけがない。なのに、この鑑定結果。
結論からいえば、この家は、クリスのための場所ではなかったのだ。
「どうしよう……」
持っていた青い端末は再び手から落ちて、床に転がった。
ユージンは、自分の子どもじゃないからといって、いきなりてのひらを返すように冷たくなる人間ではないだろう。トーマスだってそうだ。
嫌われるわけでも冷たくされるわけでもない。だけど、今までと同じわけがない。
このことを知ったあと、ユージンが、トーマスが、どんな態度をとるのか、どんな目つきで自分を見るのか、考えるだけで怖くてたまらない。
でも、もし彼らが変わらなかったら?
それどころか、このままこの家にいてもいいと言ってくれたら?
教育番組で見たカッコウの雛の姿がクリスの脳裏をよぎった。
託卵。
オオヨシキリの子どもになりすまして、自分だけが生き残ろうとするカッコウのヒナのエゴ。それは他に生きていく手段を持たない子どもにとって必要な生存本能なのかもしれない。
でも、カッコウと同じことを、クリスはしたくない。
ユージンはまだ若い。
今、恋人がいないとしても、将来できないとは限らない。彼が結婚して、自分の子どもが欲しいと思ったとき、クリスがいたらどうなる?
無意識のうちに、卵を巣から落とすようなことを自分は絶対にしないと言いきれるのか?
どちらにしても、最良の方法は同じだ。今すぐにこの家を出ていくこと。
誰もいないこの隙に、誰にも知られずに。
けれども、子どもひとりでは〈月の門〉を出ることすらできない。保護者のいない十五歳以下の子どもは、すぐに捕まって保護されてしまう。
ソファーの端で小さくなって、膝を抱える。
動けなくなっていたクリスの耳に、再びメッセージの着信音が聞こえた。今度は一つだけ。
――朝ご飯、ちゃんと食べた?
セイラからだった。
「そうか。あの人がいる……」
ユージン名義のメッセージを作成。ホームアドレスから送信する。
内容は、急な仕事でトーマスともども外出することになり、クリスを一人残していくので、何かあったら後を頼むというもの。
それから三〇分ほど待って、今度は鑑定結果を直接転送する。セイラはそこまで確認しないだろうとは思いつつも、念のために、着信時間を直近に書き換えたものを送る。すぐに音声通信が入った。




