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緑の冠【改訂版】  作者: 黒木露火
第六章 バット、ノット・フォー・ミー
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「あの、言っておかなきゃいけないことがあるんだけど」

 予告通り一階に拉致され、ダイニングテーブルでネギをハサミで切っていたクリスは、重要なことを思い出して、切り出した。

「何?」

 キッチンで野菜を刻むユージンは、手も止めずに応答する。

「実は、メッセージの削除ファイルを復元した中に、オリジナルのウイルスらしいものがあったんで、警察にファイル添付した通報メッセージ送っちゃったんだけど……大丈夫?」

「メッセージのタイトルは?」

「ラブレター・フォー・ユー」

 げっという潰されるカエルのような声を出して、手を止めたユージンがクリスを向く。笑おうとして失敗したような、少しひきつった顔をしていた。

「……ファイル、開いた?」

「ううん。だってウイルスだと思ったから」

「いや、あれはウイルスを偽装した、単なるいたずらファイルだったんだけど。そうか警察に送っちゃったか……」

「ごめんなさい。やっぱり困るよね?」

「いや、困りはしない。というか、そもそもウイルスじゃないから問題にはならないとは思う。最悪、バカないたずらすんなって説教食らうくらいかな。にしても、あれが残ってたか……」

 恥ずかしそうなのが不可解ではあるものの、大したことはなさそうでクリスは安心する。

「終わったよ」

 細かく切り終わったネギの入ったカップを、カウンター越しにユージンに渡すと、

「トーマス君に、晩飯はあと二〇分くらいって伝えて」

と頼まれる。「内線でもいいけど」とも言われたが、直接行くことにした。

 教えられた通り、二階の右側、手前のドアをノックする。

「誰?」

 中から声がした。

「オレ……クリスです」

「どうぞ」

 許可を受けてドアを開けると、どっしりした木製のデスクの向こうにトーマスがいた。机の上にはモニターと、他には擦り切れかけた本がたくさん積み重ねられている。何となく圧迫感を感じて、見回すと、部屋の両側の本棚も同じように古びた本で埋め尽くされている。

「何か用だった?」

 キーボードを叩きながらトーマスが聞く。

「夜ご飯、あと二〇分くらいだって」

「ありがとう。僕ももう少しで終わるからって、ユージンに伝えておいて」

 トーマスは打鍵を続ける。クリスが立ち去らないのに気づき、手を止めた。

「どうしたの?」

「あのね、トーマスさん」

 「何?」というように、トーマスが首をかしげる。

「オレ、ずっとここにいてもいいんだって」

 にこにこしながら言うクリスにつられるように、トーマスも微笑む。

「よかったね」

「うん!」

 戸口で「また後でね」と手を振って、クリスは元気よくトーマスの書斎を出て行った。

「一体、どんな魔法を使ったんだろうね、あの人は」

 嬉しくて、誰かに言わずにはいられない。そんなクリスの様子を思い出し、トーマスはもう一度微笑む。そして、早く温かい食事にありつくべく、再びキーボードを叩き始めた。

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