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緑の冠【改訂版】  作者: 黒木露火
第六章 バット、ノット・フォー・ミー
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「いつまで黙ってるつもりだ?」

 クリスとしては好きで黙っている部分もあるが、沈黙する以外の選択肢もない。

「黙っていたければ、好きなだけ黙っててもいいぞ。明々後日の朝までだったらつきあってやる」

 床の上に胡座をかいたまま、ユージンは気の長いことを言うが、実際は明日の一四時にセイラとの約束がある。それまで保てばいい。

 居眠りをしてくれたら、逃げ出して、セイラに保護を求めてもよいだろう。端末はポケットの中にあるのだ。

 と、思っていたのだが。

「……そっちが理由言ったら、こっちも言うよ」

 一時間半後、根を上げたのはクリスのほうだった。

 要因はいろいろある。ユージンに夜中起こされて寝不足だったことや、昼食を軽くしすぎたために今更こみあげてきた空腹感、午前中の買い物による体力の消耗、スーツケースを挟んでの睨みあいからくる精神疲労など。窓の外がオレンジ色に染まり、夕方の気配がしてきたのも、一層疲れを増加させた。

 眠いと言っていたはずのユージンは、その一時間半の間、微動もせず、クリスを眺めていた。

 最初は、彼の視線を避けてスーツケースの陰に隠れようとしていたクリスだったが、だんだん疲れてくるとそれも面倒くさくなってきた。うっかり視線を合わせることも多くなってくる。

 それで気がついたのは、ユージンは怒っていないということだ。少なくとも今は。

 クリスに向けられる彼の視線や表情からは、そういうものは感じられなかった。それどころか、つい緩んだとでもいうように、微かに口角があがっている瞬間さえある。

 それも、ギブアップを決意した原因の一つだった。

「理由? なんの?」

「オレがハッキングしようとしてたの知ってて、なんでこの家に泊めたの?」

 やっと動いて、腕組みを解いたユージンが、ああ、と合点がいったように頷いた。

「面白いからだよ。縁もゆかりもなかった人間の家に来て、いきなりハッキングかまそうとする十一歳なんて、面白すぎだろ。他に何をやらかすかなーと思ってさ」

「はあ?」

 理解不能だ……。

「こっちは正直に答えたんだからな、今度はそっちの番だ。正直に吐け」

 そそのかすように、ユージンはにやりと笑った。

「…………復讐、しようと思って」

 クリスはしぶしぶ答える。

 あれだけ正当な理由なのだと信じていたのに、それをいざ口に出すと滑稽に思えて仕方ない。答えながら、恥ずかしさで頬が染まった。

「復讐? なんで?」

 ユージンは心底意外そうな声を出す。

 笑われなくて良かったと、クリスはほっとするが、恥ずかしがってばかりもいられない。

「だって、今までオレのことほっといたんじゃないか!」

「いや、でもそれは好きで放っておいたわけじゃない。そのこと、わかってる?」

「わかってるけど……」

 そんなことはわかってる。

 わけのわからないところもあるけれど、ユージンが意外といいやつだってことは。

 クリスの復讐は、八つ当たり以外の何でもない。そんなことは多分、最初から自分でもわかってた。考えないようにしていただけだ。

 止められなかったのは、自分の気が済まなかったからだ。

「復讐か……」

 静かに呟いて、ユージンは胡座から膝立ちになった。そのまま、クローゼットの中のクリスに近づく。

 クリスは近づいてきたユージンを避けるように、スーツケースの陰に身を縮めた。

 彼はクリスには触れずに、スーツケースを開け、銃を手に取る。銃身部分を持ち、グリップをクリスに差し出した。

「撃ってみる? 俺を」

「え?」

 クリスは、ユージンと銃を交互に見比べる。彼の表情は真摯で、銃は銀色に重く光っている。

「俺のこと、恨んでるんだろ? 世の中ってさ、理不尽なことがいっぱいあるわけ。殺せないなら、許すしかないんだよ。お前はどっちを選ぶの?」

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