四
どうして? 何でわかったの?
声が出そうになるのを、口を押さえて必死に止める。
さっき施錠されたから、部屋のドアは突破できない。トーマスに端末で助けを呼ぶことも考えたが、こんな弁解のしようもない状況ではそれはできない。
ハッタリに決まってる。だって見えてるはずないんだから……。
「黙っていればわからないと思ってるのか?」
クローゼットの扉が開く。
長いコートを目隠しにしていたのに、いることがわかっているかのようにそれが取り払われた。ユージンの姿が逆光に浮かび上がる。
「お前、さっきからガチャガチャうるさいんだよ、ノイズが。眠れやしない」
突き刺すような言い方に、なぜか涙が出そうになる。
クローゼットの隅にうずくまるクリスにユージンは手を伸ばす。クリスは開かないスーツケースを盾に、身を縮めてやり過ごそうとした。そんなものはその場しのぎとわかっていても、そうせずにはいられなかった。
どうせかわせない。やがて引きずり出されてしまう。
それでも目をつぶり、頭を守るように抱えてもっと身を縮める。
が、身体のどこかを乱暴に掴まれる感触は、いつまで経ってもない。
恐々と見上げると、中腰でクローゼットを覗き込んでいるユージンと目があった。さきほどの声の調子とは反して、怒っているようではない。しかし、無表情で何の感情も籠もらない視線は、自分が物になってしまったようで耐えがたくて、クリスはうつむいてしまう。
スーツケースがカタンと揺れて、ユージンの手が掛かったのが視界の端に映った。
「この中を見たいのか?」
クリスは頷いた。その場しのぎに頷いたようなものだったが、スーツケースの中を見たかったのは本当だ。
ユージンはスーツケースの前にしゃがみ込んで、数字錠に六桁の数値を打ち込んだ。ケースを開き、横向きに置く。中には、制服のようなものと、拳銃が入っていた。
鉄の冷たい輝きにぞっとする。息を飲み、思わずユージンを見る。
「言っておくけどな、保管許可はちゃんととってるからな。違法じゃないぞそれ。銃は鍵付きのケースに保管しろっていうから、そこに入れてただけで」
ため息をつくと、ユージンはスーツケースを閉めた。それをクリスと自分の間に置いて、開けたままのクローゼットの前に座り込む。
「満足したか? ……するわけないよな」
組んだ胡座の上に片肘をつき、ユージンは目を細める。
「お前さ、何しに来たの? 目的は何?」
「何って……」
ユージンの質問に、クリスは答えられない。復讐なんて言えるわけがない。
「昨日もトイレの中でハッキングしようとしてただろ。お前、何がしたいの?」
バレてた?
「なんで、わかったの?」
「こっちの質問には答えず、自分の質問か」
思わず言ってしまったのを鼻で笑われて、むっとする。何もしゃべってやるもんかと意地になる。そんなクリスの気持ちも知らぬげに、ユージンが続ける。
「理由はとりあえず置いておくとして、俺は電脳化してんの。だから、近場で妙な電波飛ばされたり、電子ロックを無理矢理開けようとしたりすると、ノイズを受信するからわかっちゃうんだよ」
身の回りにはいなかったけれど、そういう人間もいるとテキストでは読んだ。通常のインターフェイスではなく、もっと直接的かつ迅速にコンピュータと繋がることができ、その必要のある人間――オペレーターやプログラマー、パイロットのような。元クリッパーならそうであっても不思議はない。
ああ、そりゃバレるな。
他人事のように冷静に納得がいった。その点については。
どうしてもわからないのは、クリスが妙な小細工しているのを知っていて、この家に泊めた理由だ。
ホテルに泊まることになっていたら手も足もでなかっただろう。だが、この状況がそれよりましだとも思えなかった。




