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緑の冠【改訂版】  作者: 黒木露火
第六章 バット、ノット・フォー・ミー
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 どうして? 何でわかったの?

 声が出そうになるのを、口を押さえて必死に止める。

 さっき施錠されたから、部屋のドアは突破できない。トーマスに端末で助けを呼ぶことも考えたが、こんな弁解のしようもない状況ではそれはできない。

 ハッタリに決まってる。だって見えてるはずないんだから……。

「黙っていればわからないと思ってるのか?」

 クローゼットの扉が開く。

 長いコートを目隠しにしていたのに、いることがわかっているかのようにそれが取り払われた。ユージンの姿が逆光に浮かび上がる。

「お前、さっきからガチャガチャうるさいんだよ、ノイズが。眠れやしない」

 突き刺すような言い方に、なぜか涙が出そうになる。

 クローゼットの隅にうずくまるクリスにユージンは手を伸ばす。クリスは開かないスーツケースを盾に、身を縮めてやり過ごそうとした。そんなものはその場しのぎとわかっていても、そうせずにはいられなかった。

 どうせかわせない。やがて引きずり出されてしまう。

 それでも目をつぶり、頭を守るように抱えてもっと身を縮める。

 が、身体のどこかを乱暴に掴まれる感触は、いつまで経ってもない。

 恐々と見上げると、中腰でクローゼットを覗き込んでいるユージンと目があった。さきほどの声の調子とは反して、怒っているようではない。しかし、無表情で何の感情も籠もらない視線は、自分が物になってしまったようで耐えがたくて、クリスはうつむいてしまう。

 スーツケースがカタンと揺れて、ユージンの手が掛かったのが視界の端に映った。

「この中を見たいのか?」

 クリスは頷いた。その場しのぎに頷いたようなものだったが、スーツケースの中を見たかったのは本当だ。

 ユージンはスーツケースの前にしゃがみ込んで、数字錠に六桁の数値を打ち込んだ。ケースを開き、横向きに置く。中には、制服のようなものと、拳銃が入っていた。

 鉄の冷たい輝きにぞっとする。息を飲み、思わずユージンを見る。

「言っておくけどな、保管許可はちゃんととってるからな。違法じゃないぞそれ。銃は鍵付きのケースに保管しろっていうから、そこに入れてただけで」

 ため息をつくと、ユージンはスーツケースを閉めた。それをクリスと自分の間に置いて、開けたままのクローゼットの前に座り込む。

「満足したか? ……するわけないよな」

 組んだ胡座の上に片肘をつき、ユージンは目を細める。

「お前さ、何しに来たの? 目的は何?」

「何って……」

 ユージンの質問に、クリスは答えられない。復讐なんて言えるわけがない。

「昨日もトイレの中でハッキングしようとしてただろ。お前、何がしたいの?」

 バレてた?

「なんで、わかったの?」

「こっちの質問には答えず、自分の質問か」

 思わず言ってしまったのを鼻で笑われて、むっとする。何もしゃべってやるもんかと意地になる。そんなクリスの気持ちも知らぬげに、ユージンが続ける。

「理由はとりあえず置いておくとして、俺は電脳化してんの。だから、近場で妙な電波飛ばされたり、電子ロックを無理矢理開けようとしたりすると、ノイズを受信するからわかっちゃうんだよ」

 身の回りにはいなかったけれど、そういう人間もいるとテキストでは読んだ。通常のインターフェイスではなく、もっと直接的かつ迅速にコンピュータと繋がることができ、その必要のある人間――オペレーターやプログラマー、パイロットのような。元クリッパーならそうであっても不思議はない。

 ああ、そりゃバレるな。

 他人事のように冷静に納得がいった。その点については。

 どうしてもわからないのは、クリスが妙な小細工しているのを知っていて、この家に泊めた理由だ。

 ホテルに泊まることになっていたら手も足もでなかっただろう。だが、この状況がそれよりましだとも思えなかった。

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