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緑の冠【改訂版】  作者: 黒木露火
第六章 バット、ノット・フォー・ミー
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「それで、クリスはこのままこの家にいるんですか?」

「ええ。もちろん」

 ユージンはすみやかに答える。

「クリスは? どうする?」

「あ……」

 今、セイラと一緒に行ったほうがいいんじゃないか。そんな気がした。

 でも、何もできないままなのは、癪に障る。

「何? クリス」

「ううん。なんでもない。ここにいます」

 煮え切らない様子でセイラに返事をするクリスを、観察するようにじっと見ているユージンと目が合う。慌てて目を逸らした。

「あの、ブランディワインさん」

「はい。なんでしょう」

 慇懃かつ事務的に答えるユージンに、心持ち頬を赤らめたセイラが笑顔で話しかける。

「お料理、得意なんですね。この子が送ってくれた料理の写真がとってもおいしそうで」

「ありがとうございます」

 目も合わせずにユージンがそっけなく礼を言うと、「じゃあ、私はこの辺で」とセイラが立ち上がった。

 立ち上がったセイラを、ユージンとクリスは玄関まで送る。

「明日の一四時にまた」

「この子のこと、よろしくお願いします」

 セイラは、「じゃあね」とクリスに手を振って去っていった。

「あのさ……」

 玄関を開けたままセイラで見送りながら、ユージンがクリスに言いにくそうに話しかけてきた。

「何?」

 ろくでもないことだろうと、そちらも見ずにクリスが答える。

「俺、昨夜あんまり寝てないから仮眠しようと思ってさ」

「で?」

「相手できないんだけど、一人で大丈夫か?」

 好機到来。

 「もちろん」とクリスは頷いた。

 ユージンが寝場所に選んだのは、自室のベッドではなく、猫部屋のソファだった。ウォークインクローゼットに常備してあるらしい毛布を持ってきて横になると、すぐに寝息を立て始める。昨夜もそうだったが、あきれるほど寝つきがよい。

 すぐに白黒猫のボイシーがやってきて、寝ている飼い主の胸の上で、前足を自分の身体の下に折り畳んだ座り方で落ち着く。

 ブギーとサダは相変わらずクローゼットに逃げ込み、黒猫のジェイはクリスの足下で「さあ、なでろ」と言わんばかりに腹を見せて転がっている。他の猫はてんでばらばらにソファーや棚の上や、クリスには見えないところでくつろいでいた。

 ドアを閉めて、隣の部屋に置いてあった荷物を取り、階下に向かう。

 誰もいないダイニングはがらんとしていて、少し寂しい気もしたが、人がいてはさすがに悪さはできない。

 作業する場所なんてどこでもいいのに、やはり長く居た場所の方が安心する。慣れてきたソファの感触を確かめるように、深く腰かける。

 昨日失敗したハッキングよりも、端末で簡単にできるこの家のメッセージのチェックから始める。

 見てみると収穫はない。スーパーのクーポン付きのお知らせ、公共料金や税金の引落通知、家電メーカーからアップデートのご案内など。まれにユージン宛に飲みに行こうという私信が混じっているくらいで、つまらないことこの上ない。

「個人用メッセージは別口なのか……」

 念のために、ファイル復元ツールを使って、削除されたメッセージも浚ってみる。と、気になるタイトルの、添付ファイル付きのメッセージを発見した。

「らぶれたーふぉーゆー?」

 差出人はユージン・ブランディワイン。しかし、独身男がラブレターの一つや二つ送ったところで、相手が既婚者で、よほどスキャンダルを嫌う相手でもなければ……。

「一応、見ておかなきゃね」

 好奇心に負けたことを自覚しつつも、言い訳がましいひとりごとで自分自身を誤魔化す。

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