九
「そういえばエセル、エクスプレス・パックって本当に十二時間で大丈夫なのか?」
「今までの経験から言えば、大丈夫だよ。バイオローカスのスタッフは真面目で優秀だから、実際は十二時間かからない。経験済みだよ」
チリソースを取り皿に足したエセルにユージンが尋ねると、彼はそう断言してまた唐揚げにかぶりついた。
「じゃあ、一二時は確実だな。一応、一四時のつもりで段取りしてあるから、現行で問題ないか」
エセルは唐揚げをくわえたまま、うんうんと無言で同意する。
クリスには何のことだかわからなかったが、ローカスという名称から、親子鑑定に関係があるのではないかと思った。少し気になったものの、その会話はそこで終わってしまった。
蒸籠に入ったギョーザと、蒸した後に軽く焼き目をつけたニラまんじゅうが出されて、昼食は終わった。
トーマスは「また今度ゆっくり」とエセルに言い残して、仕事に戻っていった。
交代で歯を磨き、三人並んで口臭予防タブレットを服用したあと、ユージンは後片付けをしながら、エセルとクリスはソファーでそれぞれコーヒーと紅茶を飲みながら、一四時になるのを待っていた。
「どうやってトーマスさんと友達になったんですか?」
上品で真面目で優等生のようなトーマスと、元気で活動的で親しみやすそうなエセルではタイプが少し違う。エセルの場合、本人も自分がそういうタイプに見えることをよくわかって、ことさらそのようにふるまっているようにも思えたが、年齢も違う彼らは、学校やスポーツクラブで知り合った仲でもないだろう。
「僕らの事務所ね、六年前に友達と三人で立ち上げたんだけど、最初に受けた仕事がトーマスの護衛だったんだ」
「……護衛?」
「二年に一回、火星で武器の見本市があるんだよ。本当は情報業界団体の代表としてユージンが行く予定だったんだけど、彼、盲腸になっちゃって」
「いまどき、盲腸ですか?」
大昔にはかなりポピュラーな病気だったが、現在ではかかる人間のほうが少ないと聞く。
「いまどきでもなんどきでも、なっちゃったもんは仕方ないよ。それで、代わりにトーマスが行くことになったんだ。でも、以前の見本市のとき、代表で行った人が行方不明になったことがあって。それ以来、協会の経費で護衛をつけてもいいっていう規定ができたんだ。で、初めて護衛がついたのが、トーマスだったんだよ」
「護衛っていうから、トーマスさん、実はVIPなのかと思っちゃったよ」
いやあ、違う違うと、エセルは笑って否定した。
「詳しいことは守秘義務あるから言えないんだけど、そのときちょっとした事件に巻き込まれちゃってさ。結果としてはこの通り。彼も僕も無事で、めでたしめでたし。それ以来の付き合いかな」
「守秘義務なんて言葉、生で聞いたのは初めてだよ。すごいね、エセルさんの仕事」
「そう? トーマスの本当の専門は歴史だから、あんまりそういうことはないみたいだけど、ユージンは軍事だから誰にも話せないことはたくさんあるんじゃない?」
「そうなの……」
守秘義務満載の男は、のんきそうに鼻歌を歌いながらキッチンの中で洗い物をしている。
「知らなかった?」
「うん。昨日会ったばっかりだし」
「そうか。そうだよね」
復讐しようと決意はして月に来たものの、クリスはユージンのことはほとんど何も知らない。
本当に彼は、復讐されなきゃいけないほど、悪いことをしたんだろうか?
一瞬、自分の行動への疑問がよぎる。
でも、そうしなきゃ、何のためにここまで来たのかわかんない……。
そのとき、呼び鈴が鳴った。時計を見るとちょうど十四時。
セイラと弁護士の来訪を知らせるベルだった。




