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緑の冠【改訂版】  作者: 黒木露火
第五章 陽のあたる大通りで
42/67

「そういえばエセル、エクスプレス・パックって本当に十二時間で大丈夫なのか?」

「今までの経験から言えば、大丈夫だよ。バイオローカスのスタッフは真面目で優秀だから、実際は十二時間かからない。経験済みだよ」

 チリソースを取り皿に足したエセルにユージンが尋ねると、彼はそう断言してまた唐揚げにかぶりついた。

「じゃあ、一二時は確実だな。一応、一四時のつもりで段取りしてあるから、現行で問題ないか」

 エセルは唐揚げをくわえたまま、うんうんと無言で同意する。

 クリスには何のことだかわからなかったが、ローカスという名称から、親子鑑定に関係があるのではないかと思った。少し気になったものの、その会話はそこで終わってしまった。

 蒸籠(せいろ)に入ったギョーザと、蒸した後に軽く焼き目をつけたニラまんじゅうが出されて、昼食は終わった。

 トーマスは「また今度ゆっくり」とエセルに言い残して、仕事に戻っていった。

 交代で歯を磨き、三人並んで口臭予防タブレットを服用したあと、ユージンは後片付けをしながら、エセルとクリスはソファーでそれぞれコーヒーと紅茶を飲みながら、一四時になるのを待っていた。

「どうやってトーマスさんと友達になったんですか?」

 上品で真面目で優等生のようなトーマスと、元気で活動的で親しみやすそうなエセルではタイプが少し違う。エセルの場合、本人も自分がそういうタイプに見えることをよくわかって、ことさらそのようにふるまっているようにも思えたが、年齢も違う彼らは、学校やスポーツクラブで知り合った仲でもないだろう。

「僕らの事務所ね、六年前に友達と三人で立ち上げたんだけど、最初に受けた仕事がトーマスの護衛だったんだ」

「……護衛?」

「二年に一回、火星で武器の見本市があるんだよ。本当は情報業界団体の代表としてユージンが行く予定だったんだけど、彼、盲腸になっちゃって」

「いまどき、盲腸ですか?」

 大昔にはかなりポピュラーな病気だったが、現在ではかかる人間のほうが少ないと聞く。

「いまどきでもなんどきでも、なっちゃったもんは仕方ないよ。それで、代わりにトーマスが行くことになったんだ。でも、以前の見本市のとき、代表で行った人が行方不明になったことがあって。それ以来、協会の経費で護衛をつけてもいいっていう規定ができたんだ。で、初めて護衛がついたのが、トーマスだったんだよ」

「護衛っていうから、トーマスさん、実はVIPなのかと思っちゃったよ」

 いやあ、違う違うと、エセルは笑って否定した。

「詳しいことは守秘義務あるから言えないんだけど、そのときちょっとした事件に巻き込まれちゃってさ。結果としてはこの通り。彼も僕も無事で、めでたしめでたし。それ以来の付き合いかな」

「守秘義務なんて言葉、生で聞いたのは初めてだよ。すごいね、エセルさんの仕事」

「そう? トーマスの本当の専門は歴史だから、あんまりそういうことはないみたいだけど、ユージンは軍事だから誰にも話せないことはたくさんあるんじゃない?」

「そうなの……」

 守秘義務満載の男は、のんきそうに鼻歌を歌いながらキッチンの中で洗い物をしている。

「知らなかった?」

「うん。昨日会ったばっかりだし」

「そうか。そうだよね」

 復讐しようと決意はして月に来たものの、クリスはユージンのことはほとんど何も知らない。

 本当に彼は、復讐されなきゃいけないほど、悪いことをしたんだろうか?

 一瞬、自分の行動への疑問がよぎる。

 でも、そうしなきゃ、何のためにここまで来たのかわかんない……。

 そのとき、呼び鈴が鳴った。時計を見るとちょうど十四時。

 セイラと弁護士の来訪を知らせるベルだった。

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