八
ちょうど十二時に現れた、次の訪問者は小型だった。
「こんにちはー。SAM探偵事務所のショーでーす」
軽い挨拶もさることながら、どう見てもハイスクールの生徒にしか見えない幼い顔つきはと背丈は、百歩譲っても大学生。一応ネクタイにジャケット姿だが、見事な赤い髪といたずら小僧のようなそばかすも相まって、制服にしか見えない。
「久しぶり」
クリスと一緒にテーブルを片づけていたトーマスが、笑顔で挨拶する。
これが、探偵?
ドラマとか映画って、ほんとにフィクションだったんだなあ……。
内心がっくりしていたクリスに、探偵が人なつこい笑顔で右手を出す。
「君がクリス・バーキンだね。話はユージンから聞いてるよ。僕はエセルバート・ロイ・ショー。エセルでいいよ。今日はよろしくね」
「よろしくお願いします」
握手を交わしたところに、ユージンがキッチンから顔を出した。
「よう、エセル。あと五分待って」
それだけ言って、また引っ込む。
「オッケー」
持ってきたアタッシュケースを壁際において、エセルはトレンチコート――ダッフルコートだったら絶対に学生にしか見えなかっただろう――を脱いだ。この家に来る他の客と同じように、自分でコートをハンガーにかける。
テーブルの準備は終わって、トーマスは出来上がった料理を運びつつあった。クリスもあわてて手伝う。
セロリと大根の炒めもの、青梗菜のオイスターソース炒め、粟米湯、麻婆豆腐、海鮮あんかけ焼きそば、鳥の唐揚げと付け合わせの白菜サラダ、それと杯のような小ぶりの茶碗に入った中国茶。
取り皿も準備し、四人揃ってテーブルにつく。
「わーい。中華だ。いただきまーす」
探偵は元気よく先陣をきった。まず唐揚げに取りかかる。
「唐揚げはちょっと味薄目だから、必要なら山椒塩でもスイートチリでも好きなほう使って」
「了解」
返事をしたエセルは、揚げたての熱い鶏肉にかぶりつく。
唐揚げは、信じられないほどの量を揚げていた。揚げるのを見ていただけでクリスは既にお腹いっぱいの気分だったが、ユージンに聞くと、夕食にまた出る予定だそうだ。手を出す気にはとてもなれない。
「後で、餃子とニラまんじゅうも出るからそのつもりで」
「あ、そうなんですか」
焼きそばを取り分けたトーマスに、ユージンが一言入れる。
「白いご飯が欲しい人は遠慮なく言ってくれ。解凍すればあるから。ただし先着二名まで」
言いながら、ユージンは自分の取り皿に麻婆豆腐をてんこ盛りにした。
「クリス、この人、いくつに見える?」
食事も進み、皿も大分空いてきた頃、次の料理の準備のため一度中座したユージンが帰ってきてクリスに聞く。この人というのは、探偵のことだ。
そんなことをわざわざ聞くということは、見た目通りの年齢――せいぜい二十かそこら――ではないのだろう。トーマスの友達なら、年齢も同じくらいというところか。
「トーマスさんと同じくらい?」
「はい、ハズレ。僕、三十歳です」
クリスの目の前の席の探偵が自ら答える。
麻婆豆腐に口をつけたクリスは、派手にむせた。
「そんなに驚いたか?」
「いや、そうじゃなくて。何これ。辛っ……」
黙ってにこにこしている探偵に代わって、出題者のユージンが意外そうな声をあげる。本当は驚いたのもあったのだが、それをごまかしてもなお麻婆豆腐は辛かった。
「あー、子どもにはちょっと辛かったかなあ」
「そんなことないよ。麻婆豆腐ならこれくらいがいいと思うけどな、僕」
ユージンが言うのに、味見をしたエセルはしれっと答える。
中身はやっぱり大人なんだ、この人。
クリスは妙なところで感心する。




