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緑の冠【改訂版】  作者: 黒木露火
第四章 グッドモーニング、メリー・サンシャイン
29/67

「もっとまともに説明してください。僕が納得できるように」

「質問は一つずつにしてくれ。まだ頭まわってなくて」

 ユージンは酒臭い息をついた。

「それじゃまず、なぜここで寝てるんです?」

「話せば長くなるんだけど」

「コンパクトにまとめてください。コンパクトに」

「コートを置きに来たんだよ。それでそのまま」

「端折りすぎです。それじゃ意味がわかりません」

 そうか、とユージンが俯く。

「どうしても言わなきゃダメかな?」

「当然です」

 上目遣いのユージンに、鍋を構えたままのトーマスが威圧的に答える。

「実は、コートを置きに来たらさ、泣いてたんだよクリス。眠りながらだったから、自分が泣いてたことは憶えてないみたいだけど」

「……そうでしたか」

 何度か泣きそうな表情をしていた昨夜のクリスを思い出していた。鍋を持つ手が自然と下がる。

「寝言で『母さん』って言ってたな。資料を見た限りでは、母親とは折り合いはよくなかったようだったけど。……そんで添い寝してやろうと思ったわけよ」

「だからなんでそういう結論になるんです? 添い寝はしなくてもいいでしょう。彼、嫌がりませんでした?」

 ユージンは一瞬、興味深げな表情を浮かべた。

「嫌がった。けど、子どもがひとりで泣いてるとこなんか見たら放っておけないだろ」

 悪意はないのだ。

「俺も眠かったしな」

 善意だけでもないけれど。

 だんだん馬鹿馬鹿しくなってきたトーマスは、鍋を持ったままベッドの足元に腰掛けた。

「で、どんな手を使ったんですか?」

「実はここは『出る』んだけど、一人でも大丈夫かって言った。やっぱり子どもだね。お化けは怖いんだね。一発だったよ」

「……またそのネタですか。僕は見たことないんですけど」

 人の悪い笑みを浮かべるユージンに、トーマスはうんざりとため息をつく。顕微鏡でも望遠鏡でも見えず、レーダーにも各種検知器にもひっかからないものなど、信じられるわけがない。

「そりゃあ、君はいろいろと鈍いから」

 そんなトーマスを横目に、ユージンが鍋に手を伸ばす。

「それ、水道水ですけど」

 月やコロニーや宇宙船の中のように閉じられた生活空間では、水は使い回される。浄水処理はされているといえども、元は下水も混じっているのかと思うと気持ちのよいものではない。故に、飲料水は地球から取り寄せたミネラルウォーターか、電気分解した水を再合成した再生水が使われることが多い。

「他人の内臓を通った水が怖くて宇宙船(フネ)に乗れるか」

 ユージンは構わず、鍋に直接口をつけた。

「で、昨夜はどうだった? 変わったことは?」

 ひとしきり水分補給に努めたあと、ユージンは鍋をナイトテーブルに置き、ベッドから降りた。クローゼットから適当に服を物色しつつ、着ているものを脱ぎ始める。

「あなたたちが出て行ってから、少しおしゃべりしてました。十時過ぎにベッドに入れたらすぐに寝ついたから、そのあと僕は自分の部屋に。変わったことは特にありません」

「ふうん。さっそく仲良しになったんだ」

「仲良しっていうほどでもないでしょう」

 着替えるユージンの背には、これから子ども一人を育てていかなければならないという緊張感も気負いはない。これで大丈夫なんだろうかとトーマスはいささか心配になる。まだ慣れてないとはいえ、我が子にさっそく苦手宣言されているというのに。

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