二
「クリス、君は無口なほう?」
考え込んでいるところに、質問を投げかけられた。顔をあげるとトーマスと目があう。黙り込んでいたことを咎めているわけではないことは、穏やかな瞳を見ればわかった。
「どうかな。よくわかんない」
改めて考えてみれば、何か必要なことを言われて受け答えするくらいで、家でも学校でもしゃべっているのは周りの人間ばかりだった。
たまに何かを言っても、無視されたり怒鳴られたりすることが多く、クリスが自分から誰かに話しかけることは少なくなっていた。
「人と話すのは好き?」
「嫌いじゃない、と思います」
「それなら、少し僕と話をしようか」
「かまいませんけど」
話といってもクリスからは、特に何か言いたいことなどない。それならば、一体この人は何を言いたいのだろうと、不審に思いながら承諾する。
「君のお母さんは最近亡くなったんだよね?」
「ええ。先月、交通事故で。詳細はブランディワインさんに渡した資料を見てください」
トーマスはセイラの簡単な説明しか聞いていないはずだ。詳細を知りたいのかと思ってそう答えると、違う反応が返ってきた。
「実はね、僕の母も僕が小さいときに亡くなってるんだ。テロでね」
「あ、ああ……」
テロという言葉に驚いていた。
クリスの生まれたところは殺伐とはしていても、そういう種類の暴力は存在していない。たまにニュースで聞く他の惑星――主に地球での事件は、遠いできごとのように感じていた。
「死ぬはずのなかった人を突然亡くしたのは同じだから、僕にも君の気持ちは少しくらいはわかるかもしれない」
不意に、胸の中に何かのかたまりができたような気がした。息が詰まってなかなか吐き出せない。
「それだけの話だけど、少しだけ心に留めておいてくれたらと思ってね」
そう言うと、トーマスは思い出したように自分の前のカップを手に取った。
何か言ったほうがいいのはわかっているのに、何を言ったらいいのかわからないまま、クリスは黙っていた。
教科書に載っていることならすぐに覚えられるし、方程式を解くのも簡単なのに、こんなときにどうしたらいいかなんて誰も教えてくれなかったし、わからない。
――もっと普通の、かわいげのある子が欲しかったのよ、あたしは。
母親の言葉が記憶の底から黒く染み出してくる。
他の子どもならもっとちゃんとできるの?
クリスにはそうは思えなかった。しかし、自分の考えに確信も持てなかった。
オレじゃダメなの? それとも、オレだからダメなの?
いつも――いつか聞こうと思っていた。もうその答えは聞くことはできない。どんな答えであっても、聞いておくべきだったのかもしれないと、クリスは少しだけ悔やんだ。
今だって、きっと簡単なことだという気がしているのに、わからない。そんな自分がくやしかった。
オレが子どもだからわからないのかな。
もし大人だったらわかるのかな。
もし、オレがオレじゃなくて、違う人間だったら、わかるのかな?
例えば、もしトーマスさんがオレだったら――そこまで考えて、やっとクリスは気がついた。
そうか。やっぱり簡単なことだったんだ。
「トーマスさん」
彼が「何か?」というようにこちらを見る。
「ありがとう」
「どういたしまして」
トーマスの表情が柔らかく緩んだ。
クリスの胸の中のかたまりも。
溶け出したそれは、やがてクリスの心をじんわりと温めはじめた。




