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緑の冠【改訂版】  作者: 黒木露火
第三章 二人でお茶を
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「クリス、君は無口なほう?」

 考え込んでいるところに、質問を投げかけられた。顔をあげるとトーマスと目があう。黙り込んでいたことを咎めているわけではないことは、穏やかな瞳を見ればわかった。

「どうかな。よくわかんない」

 改めて考えてみれば、何か必要なことを言われて受け答えするくらいで、家でも学校でもしゃべっているのは周りの人間ばかりだった。

 たまに何かを言っても、無視されたり怒鳴られたりすることが多く、クリスが自分から誰かに話しかけることは少なくなっていた。

「人と話すのは好き?」

「嫌いじゃない、と思います」

「それなら、少し僕と話をしようか」

「かまいませんけど」

 話といってもクリスからは、特に何か言いたいことなどない。それならば、一体この人は何を言いたいのだろうと、不審に思いながら承諾する。

「君のお母さんは最近亡くなったんだよね?」

「ええ。先月、交通事故で。詳細はブランディワインさんに渡した資料を見てください」

 トーマスはセイラの簡単な説明しか聞いていないはずだ。詳細を知りたいのかと思ってそう答えると、違う反応が返ってきた。

「実はね、僕の母も僕が小さいときに亡くなってるんだ。テロでね」

「あ、ああ……」

 テロという言葉に驚いていた。

 クリスの生まれたところは殺伐とはしていても、そういう種類の暴力は存在していない。たまにニュースで聞く他の惑星――主に地球での事件は、遠いできごとのように感じていた。

「死ぬはずのなかった人を突然亡くしたのは同じだから、僕にも君の気持ちは少しくらいはわかるかもしれない」

 不意に、胸の中に何かのかたまりができたような気がした。息が詰まってなかなか吐き出せない。

「それだけの話だけど、少しだけ心に留めておいてくれたらと思ってね」

 そう言うと、トーマスは思い出したように自分の前のカップを手に取った。

 何か言ったほうがいいのはわかっているのに、何を言ったらいいのかわからないまま、クリスは黙っていた。

 教科書に載っていることならすぐに覚えられるし、方程式を解くのも簡単なのに、こんなときにどうしたらいいかなんて誰も教えてくれなかったし、わからない。

――もっと普通の、かわいげのある子が欲しかったのよ、あたしは。

 母親の言葉が記憶の底から黒く染み出してくる。

 他の子どもならもっとちゃんとできるの?

 クリスにはそうは思えなかった。しかし、自分の考えに確信も持てなかった。

 オレじゃダメなの? それとも、オレだからダメなの?

 いつも――いつか聞こうと思っていた。もうその答えは聞くことはできない。どんな答えであっても、聞いておくべきだったのかもしれないと、クリスは少しだけ悔やんだ。

 今だって、きっと簡単なことだという気がしているのに、わからない。そんな自分がくやしかった。

 オレが子どもだからわからないのかな。

 もし大人だったらわかるのかな。

 もし、オレがオレじゃなくて、違う人間だったら、わかるのかな?

 例えば、もしトーマスさんがオレだったら――そこまで考えて、やっとクリスは気がついた。

 そうか。やっぱり簡単なことだったんだ。

「トーマスさん」

 彼が「何か?」というようにこちらを見る。

「ありがとう」

「どういたしまして」

 トーマスの表情が柔らかく緩んだ。

 クリスの胸の中のかたまりも。

 溶け出したそれは、やがてクリスの心をじんわりと温めはじめた。

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