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緑の冠【改訂版】  作者: 黒木露火
第二章 オレンジ色の空
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 リビングに戻ったクリスは、登録したばかりの端末を使ってテレビをつけてみた。

 他にもいろいろいじってみたが、クリスの端末に施されたのはゲスト用の登録らしく、許可されているのは家電の操作だけのようだった。サーバにはアクセスできない。またしても拒絶されている気がした。

 デフォルト表示になっていたのはニュース・チャンネルで、視聴履歴を見てもやはりニュースやドキュメンタリーばかり。たまに人物のサムネイルを見つけても普通のドラマや映画だった。

 アタリはないだろうと思いながらも、映画とドラマの作品名、キャスト、スタッフリストまで目を通し、記憶しておく。そこからキーワードを拾い出し、組み合わせて後でパスワード解析のときに試してみるつもりだった。

 一万文字のパスワードが設定できても、端末の声紋や指紋認証に慣れている一般家庭なら、パスワードはせいぜい十文字程度のことが多い。多くても五十文字以下だ。

 そしてそういった際、ソーシャル・ハッキングは、古典的だが有効な手段なのだ。長いパスワードのメモがデスクや冷蔵庫のドアに貼ってあるなんてこともざらにある。

 番組は、ニュースはローカルからワールドへと変わろうとしていた。

「トーマスさん、遅いな」

 なんとなく心細くなってきたクリスは、トーマスを探すことにした。

 ユージンもどこへ行ったのか、あれから姿を見ない。

 片っ端からドアを開けていくが、一階には誰もいなかった。

 二階にあがってすぐ、廊下に湯気が漂っているのに気がついた。窓ガラスの内側が白く曇っている。

 トーマスにバスルームだと教えられたドアが少しだけ開いているのが見えた。そっと覗いてみると、トーマスの後ろ姿が見えた。奥の浴室の手前、脱衣所に立っている。ガラスか強化プラスティックらしい折り戸が開いて、そこから湯気があふれていた。

「抵抗するなよ?」

 ユージンの声がした。

「しませんよ」

 あきらめたようにトーマスが答える。その向こうにぼんやりとした人影が見えた。

「……いい子だ」

 笑いを含んだ声と同時にトーマスのシャツが脱がされ、彼の裸の背中があらわになる。

 クリスの脳はそこで動きを止めた。

 気がつくと、クリスはリビングでニュースを眺めていた。いつの間にか芸能ニュースになっていて、映画スターらしい男女が笑顔で口づけと抱擁を交わしていた。

「……ええと」

 チャンネルを子ども向けアニメに変えてみた。擬人化された動物たちが画面の中で掛け合いをしているが、内容はまったく頭に入ってこない。

 同性婚が一般化しているとはいえ、子どもの親になるのは異性愛か女性同性愛のカップルが自然と多くなる。そして、クリスの住んでいたあたりでは女性同性愛カップルも少なく、異性愛こそが正当だという風潮が強かった。

 そういうこともあって先ほど二階で見た光景は、さすがのクリスにとってもそれなりにショッキングなものであった。

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