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アルバイト

■ アルバイト ■


 野球グランドを後にして、誘われて絵利香の自宅に立ち寄った梓。

 絵利香の自宅も、梓宅に負けず劣らず大きな屋敷だ。

 何せ篠崎家は四百年以上も昔、戦国時代から綿々と続く豪族旧家だった。しきたりにうるさい祖母がいたりして、交際相手も地位や身分で選ばれていた。

 一方の梓の家系も、皇族に繋がる旧公家華族だったらしい。はじめて知らされた時は驚いたものだった。

 ともかくも、両家の地位と資産はほぼ同じなので、遠慮することなく出入りできたのだが、絵利香の兄・健児の嫁にという話しが持ち上がっているらしい。


「え、アルバイト?」


 突然のように絵利香が告白した。

「うん」

「なんでまた、アルバイトなんかするの。絵利香ちゃん、お小遣いには不自由してないでしょ」

「社会勉強……っていいたいけれど。実はね……」

「何か欲しいものでもあるの?」

「ちょっとね……お父さんの誕生日祝いに何かプレゼントしようと思うんだけど、自分で働いたお金で買おうと思っているの。夏だから手編みのセーターというわけにもいかないしね」

「それはいいとして、なんでボクに話しかけるわけ?」

「だからね……一緒にと思って。」

 両手を合わせてお願いポーズの絵利香。

「やっぱし」

「わたし一人じゃ心細くって、梓ちゃんと一緒なら楽しい職場になると思うの」

「あのねえ……仕事に楽しいもないでしょうが」

「だめ?」

「お母さんがなんて言うかな……」

「それだったら、わたしからもお願いしてみるわ。だから、ね」


 というわけで、梓の家の応接室。

 梓の母親を前にして絵利香が説得を繰り返している様子。

「いいでしょう。動機が親孝行からですし、社会勉強ということで許可します。学校規則にもアルバイト禁止とはなっていませんから」

「ありがとうございます」


 書類を広げて読みはじめる母親。


『同意書

 真条寺梓様の保護者の方へ。

 弊社におきましてアルバイトを希望しております、あなた様のご子息様は十八歳未満の未成年でありますので、保護者としての同意書を取り交わしたく存じます……。

 つきましては別紙の就業規則抜粋を熟読のうえ、ご署名、ご捺印のほどよろしくお願いいたします……』


 というような内容の文章がつらつらと書かれている。

「同意書か……そんなもの書かなくてもいいと思うけど」

 浩二だった時にも、アルバイトした経験があるが、同意書の提出を求められた覚えはない。男子と女子の違いなのかもしれない。

「梓ちゃんはまだ結婚もできない十五歳じゃない、書くのがあたりまえです。あなたがすることはすべて親が責任を取らなければならないんですよ」

 続いて就業規則を読み上げている。


『始業時間は午前九時半より、身支度を整えて十時の開店に備える事。終業時間は午後十時まで。但し女子高生は午後五時までとする。服装の注意。従業員は弊社貸与の制服を着用すること。ただし制服のままの通勤退社は禁ずることとし、更衣室にて着替えること。なお制服の社外持出禁止』

 ブラックバイトが社会問題となる中、なかなか良識的な会社である。


 もう一枚の会社案内書に印刷された制服を眺めて、

「ああ、これが制服なのね。清潔感のあるグリーンを基調にして、ミニのフレアースカートにベスト、そしてオレンジの色のパフスリーブのオープンジャケットね」

「絵利香ちゃんが、このユニフォームを気に入っちゃってさあ。アルバイトするなら、ぜひこのお店って聞かないんだ」

「可愛いユニフォームだから、絵利香ちゃんの気持ちは判るわ。ストッキングは肌色系を着用のこと。靴について。ズック靴やハイヒールは禁止、色は黒かアイボリー系のローヒールのパンプス。女子高生の場合は、学校で着用している革靴でも可。パンプスねえ……この間、パーティー用のドレスと一緒に買った靴があるから、取りあえずはそれで大丈夫ね」

「あの靴は、だめだよ。あれはドレスに合わせたのよ。お父さんに買ってもらった靴で仕事したくないよ」

「はいはい、わかりました。じゃあ、今度、買いに行きましょうね。化粧について。厚化粧は避けることか……あ、女子高生のアルバイトは化粧を禁ずるって書いてあるからこれはいいのか。まあ、梓は化粧なんかしなくても十分今のままでも可愛いから大丈夫だけど。髪は肩までの長さがふさわしいが、長い髪の方はポニーテールなどにして後ろでまとめる事。これは梓ちゃんのこと言ってるわね。さすがに女性の命である髪を切りなさいとは言えないからこの規則があるのね」


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