表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/24

県大会決勝戦

■ 県大会決勝戦 ■


 夏の全国高等学校野球選手権大会の県予選がはじまった。

 栄進高校は、一年生ピッチャーの白鳥順平を、守備でカバーしあって、記録係り兼コーチとしてダッグアウトに入っている、司令塔の梓の作戦に従って勝ち進んでいた。

 そしてとうとう決勝戦に駒を進めたのである。その対戦相手校は城東学園となった。

 二年連続の決勝進出ということで、学校やOB会、地元商店街後援会が大々的な応援団を組織して、決勝大会野球場へ乗り込んできていた。

 県の決勝大会にはTV中継が入っており、各所にTVカメラがグランドや両校のベンチの様子を捉えている。アナウンス室にはアナウンサーと解説者が陣取って、実況中継をしていた。


『さて、全国高等学校野球選手権県大会も大詰め、とうとう決勝戦に駒を進めました。対するはくしくも去年と同じカードとなりました、城東学園高校と栄進高校です』

『プロのスカウトも注目の、超高校級スラッガー沢渡健児君のいる城東学園に、一年生ピッチャーを盛りたてて勝ちあがってきた栄進高校が、どんな戦いを挑んでくるかが見物ですね』

『両校の応援席には溢れんばかりの人々が陣取り、甲子園に期待を膨らませています』


 栄進高校のダッグアウト。山中主将が、うろうろして落ち着かない様子。

「遅い!」

 イライラしている山中主将。

「順平の奴、どうしたんだ。もうじき試合が始まっちまうぞ」

 学校から球場へバスで来ていた部員達。

 そのバスの発車時刻になっても木下順平が来なかったのである。

 電話連絡しても繋がらず、自宅では出た後だという。

 仕方なく順平には、タクシーで来るようにと連絡要員に言付けて、見切り発車した。

 いつまで経っても来ないまま、ついに試合開始直前となったのである。


 その時、部員の一人が息せき切って入ってくる。

「大変です。順平のやつが!」


『ちょっと、お待ち下さい。あ、大変です。栄進高校のピッチャー白鳥君、球場に来る途中で負傷したとの知らせが入ってまいりました。自転車で学校へ向かっていた所、子供が路地から飛び出し、それを避けようとした際に転倒して、腕にひびが入ったそうです』

『これは先の夏の長居浩二君の時の再来になってしまいましたね。実に不運としか言い用がありませんねえ。白鳥君、軽傷で済めばいいのですが』

『さてエース白鳥君不在の栄進高校、誰をマウンドに送るのでしょうか』

『えーと。部員数が不足していて、ベンチ入り十二名でこの試合に臨んでいる栄進高校です。控えの投手はいないようですが……』


 病院で治療を終えた順平がダッグアウトに入ってきた。

 肩から下げた三角布に、ぐるりと包帯を巻いた右腕が痛々しい。

「すみません、キャプテン。みなさん」

 うなだれて言葉も弱々しい。

「事故はどうしようもないさ。まあ、ベンチで応援していてくれ」

 事故の報告を受けていた山中主将が、順平の肩を叩きながら諭すように言う。

「それにしても……」

 ダッグアウトから応援席に視線を移す山中主将。

 栄進高校の甲子園出場を夢見て集まった大勢の人々。

 このまま試合放棄となれば、黙っていないだろう。去年の試合後にだって、散々陰口を叩かれたのだ。

 なにより順平のことが心配だ。二度と立ち直れないほどの精神的ショックを被ることになる。来年、再来年のエースピッチャーとなる素質を失うわけにはいかなかった。

「梓ちゃん。君が投げてくれ」

「え? ボクが」

「一応、梓ちゃんを選手として登録してあるんだ。部員が少ないからね。髪をまとめて帽子を深く被れば女の子とばれないかも知れない」

「しかし、ルール違反ですよ」

「そんなことは、わかっているよ」

「じゃあ……」

「栄進高校がここまでやってこられたのは梓ちゃんのおかげだ。これには誰も異議をとなえるものはいないだろう」

「そうですよ。他の部員が投げてもコールド負けが目にみえていますよ。相手は城東ですからね」

 山中主将に答えるように武藤が賛同する。

「梓ちゃん。投げなよ、どんなになってもみんな恨みはしないよ」

「そうそう。女の子とばれちゃったりして没収試合になってもね」

 みんなが異口同音に誘う。

「梓さん。僕からもお願いします。このままでは、去年死んだ長居先輩も浮かばれないと思うんです」

 最後に口を開いた順平。

「長居……」

 その言葉が梓の心を動かした。

「わかった。みんながそこまでいうなら、ボク投げるよ」

「よっしゃー! 武藤、先発メンバーの変更を届けてこい」

「あいよ」


 髪を掻き上げてまとめヘアピンで固定する。そして帽子を深く被って、はみ出した髪の毛をその中に押し込む。

「うん。まあまあ、いけるんじゃないか」

 準備が整った梓の姿を山中主将が誉める。

「しかし、城東の連中がどう出ますかね。梓ちゃんとは一度対戦してますから、すぐにわかっちゃいますよ」

「そこは、彼らの野球道精神にかけるさ。梓ちゃんには破れているから、雪辱戦を挑んでくることを期待しよう」

「野球道精神ねえ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ