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ショッピング

■ ショッピング ■


 駅ビルを拠点として、北へ向かって直線的に続く、この街最大のショッピングモール。

 数ある中でも、ファッション関連の商店が多い。

 絶えることのない人の波の中に、梓と絵利香がいる。

 ランジェリーショップやらファンシーショップを次々と回っている。

 いわゆるウィンドウショッピングは見ているだけでも楽しいものだ。

 水着売り場にやってきた二人。

 時は夏。

 新しい水着が欲しくなる季節である。

 絵利香に誘われて買い物に付き合っているのであった。

 とっかえひっかえしながら水着を物色している絵利香。

 お目当ては可愛いワンピースの水着のようで、ビキニには見向きもしない。


「あ、これ。可愛い」

 水着を手に取り、近くの姿見にかざしてみる絵利香。

「ねえ。これ、どう思う? 似合ってる?」

 梓にも意見を請う絵利香。

「うーん。似合ってると思うよ」

 とは言ったものの、似合うに合わないは主観的なものである。誰の目にも派手な柄とか、布地が極端に少ないというのでなければ、本人さえ納得していれば、それは可愛いと言ってもいいだろう。

「うん。じゃあ、これにするね」


「梓ちゃんは、決まったの?」

「ボクはいいよ」

 梓は、絵利香が水着を買うというのに付き合っているだけで、買うつもりはなかったのである。

「何言ってるのよ。成長期なんだから、去年の水着なんか着れないわよ」


「あはん……そうか、泳げないからでしょね」

 実は、梓はまともに泳げなかった。体育の水泳の授業で、その事実を知って茫然自失となったものだった。小・中学時代は、お嬢さま学校だったせいか、水泳の授業がなかったからである。スポーツマンとして万能を誇っていた浩二にしてみれば甚だ納得しがたいことであった。

「気にしないでいいわよ。わたしだって泳げないんだから」

 クラスで泳げないのは、この二人を合わせて五名だった。

 天は二物を与えずとはよく言ったもので、全員可愛さを売り物としているような女の子ばかりである。

「泳げないからと言って尻込みしてたら、夏の水着シーンを演出できないわよ。男の子達と海に遊びに行くことだってあるじゃない。水着になる機会はいくらでもあるわよ。やさしい男性が『僕が泳ぎ方を教えてあげるよ』って、手ほどきしてくれるかもよ。そして恋がはじまる。どう?」

「あ、あのねえ……」

「というのは冗談だけどさ。持ってて損はないと思うよ。だから、ね。買いましょうよ」

 絵利香は、どうしても梓に水着を買わせたいらしい。その新しい水着を持って、海なりプールに一緒に行きたかったのである。

「わかったわよ。買います、買えばいいんでしょう」

「そうそう、女の子は素直が一番よ」

「何が、素直なんだか……」

「わたしが選んであげるね」

 と言って 数ある水着の中から選びだして梓に薦める絵利香。

「はい。梓ちゃんには、これがよく似合ってるわよ」

「う、うん……」

 結局。梓も水着を買わされることになってしまった。


 梓達がアルバイトしているファミレス。

 それぞれ紙袋を持った二人が、客としてテーブルについている。

 どこかの喫茶店に入るくらいなら、自分達のお店の売り上げに協力しようというわけである。もちろん繁忙時間帯は外してある。

 やがてトレーに注文の品を持ってウェイトレスがやってくる。大川先輩である。

「お待ちどうさまです。クリームパフェは絵利香ちゃんね」

「はい」

「梓ちゃんには、チーズクリームケーキね」

「はい」

「では、ごゆっくりどうぞ」

 といって一礼して、下がっていく大川。一応親しげな応対なるも、勤務中の私語は謹むということで、マニュアル通りの扱いだ。他に客がいなければある程度の会話は許されているが。

「これこれ、このパフェがおいしいのよね」

「相変わらず甘いものが好きなのね」

「うーん。太るとはわかっていながらも、やめられないのよね」

「女の子だね」

「お互いさまじゃない」


 二人の前に、先程の大川先輩が、カスタードプリンを持ってきた。

「あの、これ。頼んでませんけど」

「これはわたしのおごりよ」

「え?」

「無断欠勤もなく一所懸命に働いてくれているから、お姉さんからのご褒美よ」

「ありがとうございます」

「遠慮なくいただきます」

「マネージャーがおっしゃってたけど、あなた達がいらしてから、男性の常連客が増えたって。とても可愛い子が入ったから、助かったって喜んでらしたわよ」

「そ、そうですか? あは」

 武藤ら率いる栄進高野球部のお邪魔虫軍団も、その常連客に入っている。

「それじゃね」

 と軽くウィンクして待機場所へ戻る大川先輩。

「得したね」

「可愛い子ですってよ」

 と梓を指差して微笑む絵利香。

「もう……その言葉使わないでって言ってるのに」

「梓ちゃんてば、可愛いと言われると、いつも拒絶反応起こすのよね。どうして?」

「どうしてって、言われても……。個人の能力の本性を見ていないというか、上辺だけで評価されていると思うと、いたたまれないのよね。両親の血を引いて、可愛く生まれただけのことを言われても」

「そうかな……。確かに梓ちゃんは可愛いけど、それだけじゃないでしょ。内面的なやさしい心が表面に溢れてきているって感じかな。ほら、可愛いけど性格が悪いって子もいるし」

「おだてないでね」

「ほんとのことよ」

「この話しやめようよね」

「わかったわ……」

 しつこく聞いていると機嫌を悪くする。適当なところで切り上げるのが、仲良しを続けていくこつである。


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