表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/24

ソフトボール部の勧誘

■ ソフトボール部の勧誘 ■


 絵利香達と昼食をとっている梓。

 教室に三年生らしき女子が入ってきてきょろきょろしている。

 手近にいた一年生に何やら聞いている。

 その一年生、梓の方を指さしている。

 梓の顔を見つけると歩み寄ってくる。

「ちょっと、あなたが梓ちゃんね」

「え? そうですけど」

「あなた、野球部でピッチャーやっているそうね」

「まあ、そうですけど」

「ねえ、うちのソフトボール部に入部しない?」

「ソフトボール?」

「そうよ。山中君から聞いたんだけど、高校野球でも十分通用するんだって? だからぜひともソフトボール部に入ってほしいのよ。もちろんレギュラーでピッチャーやってもらうわ。どう?」

「ソフトボールねえ……やめとくよ」

「どうしてよ? 野球は女子は試合に参加できないじゃない」

「だって、あんな子供の遊びなんかやる気ないもん」

「子供の遊びですって!」

「その通りだよ」

「言ったわねえ。だったら私達と勝負しなさい」

「勝負?」

「そうよ。勝負して私達が負けたらあきらめるわ」

「いいよ。勝負しても」

「ありがとう。じゃあ早速、放課後にグラウンドにきてね」


 絵利香が質問した。

「ねえねえ、どうして勝負するなんていったの」

「だってそうでもしないと、いつまでもしつこく言いよってくるよ、きっと」

「だからって、もし負けたら……」

「負けないよ、ボク」


 放課後。

 ピッチャーズマウンドで、腕をぐるぐる廻して肩慣らしをしている梓。制服からジャージに着替えて勝負に挑んでいる。

 近くのベンチに腰掛けて観戦している絵利香。

「さあ、いつでもいいわ。投げて」

 バッターボックスに立って、催促する高木。

「いきますよ」

「いらっしゃい」

(野球のアンダースローしか投げた事ないはず。ソフトボール独特の投げ方はどうかしら?)


 腕をぐるぐる廻し投げするソフトボール独特のアンダースローから放たれたボールは、あっという間に捕手のミットに収まった。

「は、はやい!」

「驚いてるわね。ソフトボール式の投げ方も練習していたんだよ」

「ス、ストライク!」

 審判役の部員も目を丸くしている。

「まさか、こんな球が投げられるなんて……」

 そして、二球目。

 高木の打球はピッチャーゴロとなって梓のグラブへ、それを一塁に投げてアウト!

 絵利香が微笑んで軽く拍手している。

「そ、それじゃあ、攻守を交代しましょう」

「わかりました」

 マウンドを降り、絵利香にグラブを預けて打席にはいる梓。

 代わってマウンドに上がる高木。地面をならしながら投球体勢に入る。

「わたしの球が打てるかしら、三年生でもたやすく打たせたことないのよ」

 一球目ストライク。

 にやりとほくそ笑む梓。一球目を見送ったのは球速とコースを読んだからである。

 次ぎなる球を、こともなげに真芯で捉えて、軽々と外野へ飛ばした。あわやホームランというセンターを越えるヒットであった。

 球速が速いといっても、硬式野球の速さに比べれば段違いである。マウンドとベースの間の距離は短いし、大きな球が飛んでくるので、速いと錯覚してしまうだけである。

 球が大きいのでジャストヒットポイントが狭いし、使用するバットも細いので、慣れないとぼてぼてのゴロにしかならないが、じっくり見据えて、真芯を捉えてジャストミートすれば必ず飛ぶ。

 エースピッチャーが打たれたのを見て呆然としている部員達。

 打球が飛んだ方向を見つめている高木。

「さすがだわ、豪語するだけのことはある。わたしの負けだわ」

「はい。お返しします」

 とバットを捕手に預けて、

「じゃあ、帰りましょう」

 と絵利香を誘い、すたすたと立ち去っていく梓。


「山中君いる?」

 野球部の主将である山中のところにソフトボール部主将の高木愛子がやってきた。

「何だ、愛子か」

 実は二人は幼馴染みであった。

「あんたのところの梓ちゃんのことだけどさあ」

「梓ちゃん?」

「そう」

「だめだ、貸さない」

「何も言ってないじゃない」

「言わなくてもわかるさ。県大会があるから、大会の間だけでもメンバーに入れたいから貸してくれ、っていうんだろ」

「さすが、山中くんね」

「18年もつき合ってりゃ、おまえの考えていることなど、お見通しさ。おまえ、梓ちゃんと勝負して負けたそうじゃないか」

「わ、悪かったわね」

「とにかくだめだ」

「そう……お願いきいてくれたら、あたしのすべてを、あ・げ・る」

「うん。やめとくよ」

「そっかあ、他にはアイドル歌手〇〇〇のサイン入り色紙あげようかと、思ったのになあ」

 と、手にした色紙を見せびらかす高木。

「なに! 〇〇〇のサイン入り色紙」

「あんたの好きな歌手……だったわよね」

「し、しかし。これは梓ちゃんの意向にかかわることだし……」

 色紙をちらちらとかざされて、つばを飲み込む山中主将だった。


「ええ? なんでボクがソフトボールの助っ人に入らなきゃならないのですか」

「だいたい。野球にしろソフトにしろ、チームプレーが大切なんですよ。ただうまいというだけで、ぽっと入った新人がすぐにチームに馴染むわけないです」

「しかしだね。あれだけの技量を持っているんだ……」

「キャプテン! ボクはソフトには全然興味がないんです。やめてください」

 うだうだと言うので、ついには口調を荒げる梓。

「わ、わかった。ソフトボールの連中には、そう言っておくよ」

 梓の断固たる態度を見せ付けられては、さすがに撤退するよりなかった。


「……というわけだよ。すまん」

 高木愛子に報告する山中主将。

「まあ、仕方がないわね……。あの子の態度をみてると、断られるだろうとは思っていたわ。でも、まだ一年生だからいくらでも誘い出す機会はあると思うから」

「それで、例のものだけど……」

「ああ、サイン入り色紙ね」

「そ、そう……」

「いいわ。あげるわよ。一応、あの子に口利きしてくれたわけだし、わたし冷たい女じゃないから」

「す、すまないね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ