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56話:物語の結末

 

 気がつくと、俺は光の満ちた空間に居た。

 瓦礫だらけの旧魔王城とは対称的に、ここには果てもない白が広がっている。

 振り向くと、カフェ風のテーブルと椅子が二脚。

 いつかの光景。いつもの光景。

 どうやらまた、女神に呼ばれたらしい。

 ちょうど聞きたい事があるし、構わないが。


「女神クラウディア。神託は果たしたぞ」


 椅子に腰掛け、告げる。

 すぐに光が集まり、女神の姿が顕現した。


「アレイ。ご苦労様でした」

「お前、さては全て分かってたな?」

「はい。貴方に魔王の力が宿っていることも、貴方が魔人の姫を討つことも」


 やはりか。いつも俺にだけ神託を下していたのも、俺を旅立たせたのも、俺に『神造鉄杭(アガートラーム)』を与えたのも。

 そしてもしかたら、アイシアに俺の事情を話したのも。

 全てはクラウディアの思い通りだったのだろう。


「なら話は早い。俺を殺せ、それで終いだ。

 魔王はアースフィアから消え、今度こそ世界に平和が訪れる」

「私には出来ません。直接的な干渉を行えないのです」

「……だと思ったわ、ちくしょうが」


 ガリガリと頭をかく。

 それはつまり。魔王を消すためには、誰かが俺を殺す必要があるという事だ。


「なぁクラウディア。お前は最初からこうなるって分かってたのか?」

「いいえ。アガートラームが魔王の力を得たのは想定外でした」

「そうか。じゃあ聞くが、結局魔王って何なんだ?」

「神を創る為のシステム、でした」

「神を、創る?」


 それはつまり、自分以外の神を創造すると言うことか。


「魔力と記憶を継承する機構。それは永い時を経て、いずれ神に辿り着く筈の物でした。

 ですが、本来であれば人間と亜人と魔族、全ての種族で循環すべきものが、魔族でのみ継承されだしたのです」


 なるほど、それが魔王の正体か。やはりクラウディアが絡んではいたが、彼女からしても想定外の事だったのだろう。


「ふむ。で、何で神を創ろうとしたんだ?」

「……私は、この世界でずっと、独りでした」

「…………おい。まさかとは思うが」


「アレイ。私は、寂しかったのです」


 悲痛な面立ちで、女神クラウディアはそう言い放った。

 まさか、いつかの予想が的中していたとは。


「……世界中を巻き込んだ戦争が起こった理由が、それか」

「はい。結局、収まりが着かなくなりましたが」

「それで俺達を召喚したのか。なんてはた迷惑な……」


 再び、頭をガリガリとかく。

 何ともまぁ、頭痛がしてくる話だ。


「他に方法がありませんでしたので」

「……なぁ、一応聞くが。お前がアースフィアに降りる訳にはいかなかったのか?」

「…………え?」


 俺の言葉に、女神は惚けたような顔で聞き返してきた。


「え、じゃなくて。寂しかったならそれで解決した話じゃないか?」

「……それは、そうですね。考えた事がありませんでした」

「おい」


 魔王を倒すために異世界に召喚された理由が、ポンコツ女神のうっかりだった。

 ……いやまぁ、済んだ話ではある。あるのだが……こいつ、殴りてぇ。


「その……相談できる相手もいなかったので……ごめんなさい」

「……とりあえず、何だ。もう魔王を殺す必要はないのか」

「はい、そうなりますね」

「……そうか。まぁ、アレだ。今度から何かやる前に誰かに相談しとけ。俺でもいいから」

「すみません、そうします……ああ、それとですね」

「……聞きたくないが、何だ?」


 ニッコリと、正に女神のような笑顔を浮かべて。


「アレイの肉体を王都に転送しておきました。傷も魔力も全て元通りにしてあります」


 そんな事を言い放った。


「いや待とうかマジで。じゃあなにか、戻ったら王都なのか? 歌音辺りに殴られる気しかしないんだが」

「あれ、ここは褒められるところでは? 旧魔王城に放置していると死んでしまいますし」

「そこまで分かってるなら、今呼ぶなよ……」


 頭痛がする。死ぬ必要が無くなったのに、今度は妹に殺されるかもしれない。

 いや、蓮樹あたりも怖いところだが。

 何も言わずに置いてきちまったし。


「……とりあえず、今回はもう戻る。説明と謝罪が終わったら、また近々会いに来るから」

「はい。待っています」

「あぁ、またな」


 ひとまず世界は救われたのだろうが、次は自分を救わねばならないようだ。

 とにかく言い訳を考えるとしよう。

 さて、話を聞いてくれるといいのだが。


 徐々に白んで行く世界の中。


「ありがとう、私の英雄様」


 そんな声が、聞こえた気がした。


〇〇〇〇〇〇〇〇


 王都の自分の部屋で目を覚ましてた後。

 とりあえず、歌音から三時間に渡る説教をくらい。

 隼人に呆れられ、詠歌に無視され、リリアに苦笑いされ。

 全力の司にどつかれ、京介に治療してもらい。

 最終的に蓮樹に笑われた。


 ひとしきり関係者に謝罪し終わり、ようやく自室に戻る頃には日が落ちきっていた。


 全てを話した訳ではない。

 魔王の始まりやこの世界への召喚理由など、皆に話せないことは多かった。

 多分これらは墓まで持っていく秘密になるのだろう。


 ただ、俺が魔王を倒したという一点だけは国中に広めてもらうよう頼んでおいた。

 これで司が色眼鏡で見られることも減るだろう。

 それについては既に手遅れな気もするが……まぁ何もしないより余程良い。

 これでいい。後はまた、噂が独り歩きしやすいように、俺が旅に出るだけだ。


〇〇〇〇〇〇〇〇


「……とか、思ってたのかなっ⁉」

「いや、そんな事はない……ような気もするが」

「流石に三回目は怒るからねっ⁉」

「あー……すまん。だが」

「この一年で騎士団も安定したからねっ‼ もうアタシがいなくても大丈夫だからさっ‼」

「……そうか」

「置き手紙は残してきたよっ‼ 後は……ね」


「アレイさんがこの手を取るだけだよ」

「……今回の旅は退屈せずに済みそうだな。よろしく頼む」


〜Happy END〜






〜エピローグ〜


長い年月に渡って繰り広げられていた魔族との戦争。それを終わらせたのは異世界から召喚された十人の英雄達だった。


彼らは様々な困難を乗り切り、遥かな旅路の末に魔族の王である魔王を倒した。

そうして世界に平和が戻り、英雄達の力を借りながら戦争の被害から復旧しつつある国々。

皆に笑顔が戻り、世界は活気に溢れていた。


そんな中で一人。富も名誉も捨て去り、忽然と姿を消した英雄が居た。

最弱の能力を持ちながらも英雄達のリーダーを勤めた青年は、誰に何を告げるでもなく、突如として行方を眩ませたのであった。


 彼は語らない。ただ心の内で思う。


 仲間達は英雄だろうが、自分はそんな大層な者ではない。

 臆病で、情けなくて、一人じゃ何も出来ず、皆の足を引っ張るだけで。

 それでも、置いていかれるのが怖くて、悪足掻きで前に歩き続けただけだと。


 自分に出来るのは泥にまみれながら前に進むことだけだったから。

 ただ、それだけ話だと。


 それから一年後。

 魔王が復活した事を知った勇者は、傷付いた仲間達を労り、たった一人で魔王に立ち向かって行き。


 長く困難な旅路の末に勇者はもう一度魔王を倒し、世界が混乱することを防いだのであった。

 その後、勇者は旅に出た。

 彼は今日もどこかで世界の平和を守り続けている。


 これはそんな、英雄の物語。



「おい、何だその歌」


 いきなり歌い出した蓮樹に白い目を向ける。

 また意味の分からないことを言い出したな。


「こないだ寄った町で吟遊詩人が歌っていたアレイさんの英雄譚だよっ‼」

「いやだから、何で俺が勇者になってるんだよ……」

「大体合ってるからいいんじゃないかなっ‼」

「そんな大層な肩書き、俺には荷が重いんだが」


 勘弁してくれ。俺はただの一般人なのだから。


「そんな事はないと思うわっとぉ‼ あぶなっ‼」

「とりあえず、話はこの化け物を殺ってからだな」

「だねっ‼」


 右腕に顕現した相棒(アガートラーム)を突き付け、叫ぶ。


「俺たちの行く手を阻むなら……ただ撃ち貫くのみ!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 正直なところ娯楽作品としては面白さは並以上でしたが、とても深い感銘を受けました。 なんて哀しい物語なのだろう。読後の爽やかさは無く、虚しさと苦さと“生きる”享楽が残るのみ。 そう感じたのは…
[一言] 控えめに言って最高だった。 ロマン、ロマンだ。パイルバンカーはロマンだ。 それを扱う男が誰よりもロマンを体現しているのがもうたまらない。
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