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28話:恵みの森


 恵みの森は王都から北にある深い森だ。

 巨大な木々で構成された森の中は昼でも陽が届きにくく、常に薄暗い割に植物がよく育っている。

 そこでは数多くの獣と魔物、それに森人達が住んでいるのが特徴的だ。


 森人はあちらの世界で言うエルフに近い種族だ。

 美しく、耳が長く、弓と魔法に長けている。

 また寿命が長く、青年期からは見た目が老いない。

 その為、人間や亜人を下に見る傾向が強く、高慢な態度を取ることが多い。


 と、言われている。実際はかなり異なる訳が。


 因みに森人も亜人に分類分けされるのだが、亜人も森人も同じ扱いを嫌う。

 俺も正直、一緒にするのは間違っていると思う。

 なんと言うか、見た目からして他の亜人は日本でいう獣人であり、森人とは違う種にしか見えないのだ。

 称える神が同じであると言うだけで、生き物としては全くの別種だろう。

 ともあれ森人は誇り高く、無用な争いは避ける賢い人達であり、決して話が通じない相手ではないというのが俺達の意見である。


 さて、そんな訳なので、そろそろ弓を降ろそうか。


「……なぁ、こりゃ一体なんなんだ?」

「カツラギアレイ! よくも顔を見せたものだな!」


 沈痛な面立ちで睨み付けてくる森人、というかファム(友人)

 例に漏れず非常に整った顔立ち。金髪碧眼なのも合わせ、海外のモデルようだ。

 しかし今は一触即発気味に弓矢を構えており、今にも撃たれそうな状態である。


「一先ず落ち着け。俺は訳が分かっていない。まずは説明してくれないか」


 少なくとも出会い頭に弓を突きつけられる仲ではなかった筈だが、何なんだこれ。

 二週間かけて恵みの森に辿り着いて早々、これである。ちょっと勘弁してもらいたい。


「貴様! 私の妹に何をしたか、忘れたわけではあるまい!」

「おい待て、本気で身に覚えがないぞ。ファシリカがどうしたって?」


 ファムとその妹ファシリカは、魔王討伐の旅をしていた俺達に最初から気安く接してくれた森人だ。

 それなりに信頼関係を築いた来たつもりだったし、彼の言っている事に心当たりはない。


「妹が貴様を婿にと言ったのを、元の世界に戻ると断っただろう!

 それなのにアースフィアに滞在はあろか、同族を(めと)るとはどういうつもりだ!」

「よーし分かった。なにか誤解があるようだ。話し合おう。誰が誰と結婚したって?」

「貴様とそこの娘がだ!」

「おいマジかお前」


 一緒に旅してるだけで夫婦扱いは幾らなんでも有り得ないだろう。


「リリアは旅の仲間だ。落ち着け、ファム」

「……ただの、仲間だと?」

「そうだ。俺は誰とも結婚なんしてない」

「そうなのか?」

「は、はい。アレイさんは独身だったかと」


 急に話を振られコクコクと頷くリリア。

 呆気に取られているか、まあ当たり前の反応だろう。

 俺も心底呆れ返ってるし。


「なんだ、じゃあ早く言え。久しぶりだなアレイ」

「……色々と言いたいことがあるが。まあ、久しぶりだな、ファム」


 このシスコン野郎。いい加減にしとけよ、まじで。


「大体何で俺とファシリカが結婚するって話になってるんだ?」

「妹からそう聞いたが」

「よし、意味が分からん。直接話をさせろ」

「ああ構わない。お前は友人だからな」


 朗らかに笑う美形に若干苛つきながらも何とか抑え、ひとまずファムの家にお邪魔する事になった。


 因みに。ファムが、と言うより、森人とはみんなこういう奴ばかりだ。

 勘違いや早とちりが酷く、さらにさ切り替えが異様に早い。

 その為、傍から見れば高慢だと勘違いされやすい訳だ。


 実際のところは、昨日まで殺しあっていた別部族と次の日には仲良く酒を飲んでいたりする。そんな適当な種族だったりする。

 京介曰く、ポンコツ美形。そんな奴らである。


〇〇〇〇〇〇〇〇


「アレイ! よくも私の前に……」

「そういうのいいからまず話を聞け」


 兄と同じ属性を持つファシリカを宥め、ファム淹れて貰ったハーブティーを飲む。

 相変わらず美味い。カモミールに似た爽やかな味だ。


 このファシリカも非常に美しい顔立ちをしていて、初対面時は結構緊張したものだ。

 体付きはスレンダーで、兄と同じくモデルのようにスタイリッシュである。

 この場合、本人たちに美形であるという認識がないのは幸か不幸か。


「……で。ファシリカ」

「なぁに?」

「説明しろ。結婚って何の話だ」

「え、だってアレイ、私の作ったご飯、おいしいって言ったでしょ?」


 あー。何か言った気はするな。

 実際、ファシリカは料理が美味い。王都で店を開けるんじゃないかと言えるレベルだ。

 仲間内で一番料理が上手い遥と良い勝負だったように思う。


「料理の腕前を褒められた。だったら結婚でしょう?」

「お前は何を言ってるんだ」


 駄目だ、頭痛がしてきた。

 ちょっと話の流れが理解出来なさすぎる。


「あのな。お前はいい奴だと思うが、結婚するつもりは無いぞ。お前らの勘違いだ」

「あらそうなの。残念だわ」

「……とりあえず誤解は解けたな?」

「ええ、今は結婚する気が無いって、ちゃんと分かってるわよ」


 今はと言うか、俺は結婚自体する気が無いのだが。

 どうせ言っても聞きやしないから訂正しても意味が無いだろうな。


「とりあえず、数日くらいこの村で世話になりたいんだが、いいか?」

「構わない。宿も空きがあったはずだ。族長にも話はしておく」

「ああ待て、それなら俺も行く」


 またおかしな流れになっちゃ堪らんからな。

 それに、久しぶりに来たのだから顔は見せておきたい。


「そうか。なら、共に向かうか」

「リリア、宿の手配は頼んでいいか?」

「はい! 任せてください!」


 やる気十分でガッツポーズを取るリリア。

 よし。いくらこの村でも宿を取るくらいなら何も問題ないだろう。

 ……大丈夫、だと思いたい。割と切実に。


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