異世界召喚・あふたー〜魔王を倒した元勇者パーティーの一員だった俺は異世界で二度目の旅をする。仲間たちはチートだが俺は大して強くもないし、英雄なんて柄じゃない〜

23話:神託

　体感で真夜中。ふと目を覚ますと、そこは王城の自室では無かった。

　光の溢れる真っ白な空間。

　カフェ風のテーブルに、椅子が二脚。

　テーブルには紅茶ポットとティーカップ、そして真ん中にはクッキーの盛られた皿が置かれている。

　神の領域。俺たちが召喚された直後に見た光景、そのままだ。

　どうやらまた呼ばれたらしい。

　最近ちょっと頻度が高すぎないか。

　前回のお告げの供物すらまだ上げてないんだが。

　とりあえず、いつも通り椅子に腰掛け、紅茶を注ぐ。

　琥珀色のそれは芳しい香りを立てて、口に含むと少しだけ甘かった。

　相変わらず美味いな、ここの紅茶。

　さて。このまま紅茶を飲んではい終わりとは行かないだろうが、出てくるなら早くしてほしい。

　こんな何も無いところで時間を潰すのは難しいしな。

　そんなどうでも良い事を考えていると。

「大事なお話があるの☆」

　不意に背後に出現した甲高い声。

　ため息を吐きながら振り返ると、そこには全てが白で構成された女性の姿があった。

　白銀の髪、白い肌、そして白く輝く瞳。

　この世のものとは思えないほどの美しさを誇る美女。

　創成の女神、クラウディア。

　俺たちを地球から強制召喚した、この世界アースフィアの創造神。

　この世の全てを司る、人智を超えた存在。

　……が作成した対人間用コミュニケーション用モデル四号機、とかなんとか。

　女神の姿をそのまま見ると頭がボーンとなるらしいので、その対策らしい。

　曰く、たかが人間如きには軽々しく見せられないほど神々しい姿、なんだとか。

　割と本気で驚くほどどうでもいいのだが、そこは本人的には大事なところらしい。

「とりあえず平伏(ひれふ)すの☆」

「うるせえ。用が無いなら帰るぞ」

「おぅふ☆　アレイは相変わらず不遜なの☆」

　正に女神らしい穏やかな微笑みを浮かべながら俗な事を言い放つクラウディアに頭痛を覚える。

　相変わらず見た目と中身が噛み合ってなさすぎるだろこいつ。

　毎度毎度、意味の分からない奴だ。

　今回のこれも、ござる、とか言い出しそうだし。

「なんかろくでもない事考えてる気配なの☆」

「気にするな、大体合ってるから。

　て言うか頻繁(ひんぱん)に口調が変わるのは仕様なのか？」

　ちなみに前回はお嬢様(ですわ)口調で、その前は幼女(舌っ足らず)だった。

　キャラがブレ過ぎている。

　意思疏通が微妙にできてない辺りを考えると、根本的にバグってるのかもしれない。

　叩いたら治るだろうか。その場合、こいつは家電製品と同じジャンルになる訳だが……あまり違和感は無いかもしれない。

　基本的にポンコツだしな、こいつ。

「仮にも女神に対して本気で失敬だね、アレイ」

「また変わりやがった……なんだ、敬語でも使った方がいいか？」

「そんな事したら全力で泣き喚(わめ)いてやるよ」

　相も変わらず神々しい微笑みを浮かべながら、小さな子ども見たいなことを言い出した。

　本格的にどうしようも無いな、こいつ。

　この女神様、見た目は完璧なんだが……実は中身はポンコツ極まりないという残念仕様だ。

　毎度毎度意味の分からないお願いをしてくる厄介な存在でもある。

　ごく稀にまともな神託を下して来るが、基本的にはアレが食べたい、アレが欲しい、などのワガママを言うために頻繁に俺をこの場所に連れてくる訳だ。

　割と真面目に勘弁してほしい。

　魔王討伐の旅をしている時もそうだった。

　勇者である司や蓮樹では無く、何故か俺を呼びつけては好物のオーク肉を献上しろだの、王都の屋台で売っているワイバーンの串焼きが食べたいだの言いたい放題。

　更には暇だからと言う理由で俺を呼び出したことをある。

　どうせ今日もろくな理由じゃないんだろう。

「あーもー、喧しいわ。早く要件を言え」

「まったく。アレイはボクをもっと構うべきだと思うんだけどね」

「これ以上は流石に面倒臭いわ」

　クラウディアの言葉に適当に返事をした時。

　すぅっと、彼女の気配が変わった。

　神々しく、表情の無い、女神の姿へと。

「魔王の復活を目論み、魔族の姫が動き出しました」

　ポロリと、摘んでいたクッキーを落としてしまった。

　…………おい。

　今なんか、聞き捨てならない事を言われた気がしたんだが。

「……待て。魔王は俺が撃ち抜いた筈だが」

「いいや、まだ残っているよ。カケラではあるけれどね」

「カケラだと？　つまり、撃ち漏らしがあった訳か？」

「そういう事だね」

　再び微笑みを浮かべたクラウディアが軽い口調で言う。

　と言うか、確かにそっちも大事ではあるんだが。

　いま魔族の姫って言ったかこいつ。

「そうだよ。アイシアの事だね」

「自然に心を読むなよ。て言うか、それってもしかすると、なんだが」

「君と会いたいが故だろうね」

「……そうだよな、ちくしょうが。本気で迷惑だなあいつ」

　ただ、俺に会うためだけに。

　ただ、俺と戦うためだけに。

　ただ、俺と殺し合うためだけに。

　その為だけに、魔王を復活させようとしている訳だ。

　本気で勘弁してくれ。

「……あの陰湿ストーカー女、そこまでやるか」

「彼女ならやるだろう。愛されてるねアレイ。だが浮気は良くないよ」

「ああもう……ツッコミすら面倒くせえ。放置していいか？」

「失敬な。ちゃんと構いたまえ」

　いちいち拗ねるな。こいつはこいつで面倒くさいな、おい。

「つまりだ。アイシアに会って魔王を壊(・)せ(・)ば(・)いいんだな？」

「そうなるね。出来るだけ早い方がいいのだけれど」

「ああくそ……その神託、承(うけたまわ)った」

「ありがとう。愛しているよアレイ」

「うるせえわ。他に用は無いな？」

「ああ。頑張っておくれ、マイハニー」

　クラウディアの言葉と共に急速に世界が白みだす。

　夢から覚める、その寸前。

「また来てくださいね、私の英雄」

　そんな声が聞こえた気がした。